バイクに乗ると夜の町へと繰り出す。楓が住んでいる辺りは比較的静かな場所で、でも、さすが奈落街。少し走れば、おかしな人が次々と出て来る。歩道を走る自転車も、前の車も見事なまでの蛇行運転を披露している。飲酒運転なのか、わざとなのかはわからない。自動販売機と喧嘩するのは、この町ではよくあることなのだろうか。千鳥足で自動販売機を怒鳴りつけている高齢男性の姿があった。赤信号で停まると、ゲームセンターの駐車場にたむろする若者たちがわたし達を睨みつけている。
「ねぇ楓、なんか全員こっち見てるよ」
「ああいうのは無視しとけばオッケー」
交差点を曲がると急な坂道が現れ、バイクは唸りを上げて進んでいく。辺りから住宅が消え、閑散とした道にバイクのエンジン音だけが響く。道の両端に生えた草は進むにつれ背丈が高くなり、道路の割れ目から生えた草を避けながら、バイクは前へと進む。途中、道路に大きな窪みがあり、さっき降った雨が溜まっていた。
ようやく坂を上りきると大きなコンクリートの塊が月明かりに照らされ浮かび上がっている。辺りにはなにもなく、ひっそりと孤独に佇んでいる古びた校舎に生気は感じない。
「これが、東風学園?」
「そっ」
朝になればここは派手な姿をした生徒で賑わう。でも、そんな風には到底思えない程、その建物はあたかもただのコンクリートだった。
楓は体育館裏にバイクを停め、エンジンを切るとヘルメットを脱ぐ。それに合わせてわたしもヘルメットを脱いだ。
バイクを降りると楓は扉に手を掛ける。
「えっ、開いてるの?」
そう訊くと楓は「鍵壊れててそのままだから」と扉を開くからつい、「さすが東風」なんて言ってしまう。楓はスマホのライトで体育館を照らし、中に入るように促す。
「靴、どうしよう?」
「さすが北翠、それ気にするやつ東風には一人もいないかも」そう言って楓はわたしの手を取ると中に入っていく。五十川琉衣が東風にいるという意味が分からないままついてきたけれど、まさか夜の校内に忍び込むとは思ってもみなかった。本来学校なんてちゃんとしたセキュリティーがあって、こんな風に生徒が勝手に入ったりなんてできない筈だから。
「警報ブザーとか鳴ったりしないかな?」
「ないよ、そんなの。前に夜の十時過ぎに来たけど大丈夫だったし」
なにをしに?という質問は一旦置いておいた。
こういうことをするのが一番苦手だった筈なのに、楓と一緒だとなぜか楽しく感じてしまう。バレたらどうなるかわからない不安を抱えながらも、今、この瞬間を楽しんでいる自分がいた。
体育館から廊下に出ると、なんだか不気味な雰囲気に、背筋がぞくりとした。もっと明るさがほしくて楓から預かったスマホで廊下を照らした。
「なんか、怖くない?」
「歌でも歌ってみれば?歌に合わせて誰かがピアノを弾いてくれるかもよ」
思わず楓の腕を掴んだ。
「やめてよ!本当に怖いんだから!」
楓は吹き出すように笑うとわたしの手を握る。今度は違う緊張感に襲われる。楓と手を繋いで歩くのは初めてのことだった。
階段を上ると、楓は戸が開けっ放しの教室に入っていった。
「ここ俺の教室」
そして、窓際の一番前の席に行くと「ここが俺の席」と言って机を叩く。一番前の席で授業を受けてる楓を想像するとなんだか笑えた。
「授業に集中できそうだね」
「それはもう」
廊下に出ると、壁一面になにか貼られているのが見え、ライトを照らすとそれは中間考査の順位表だった。
「えっ順位表貼りだされるの?」
「北翠は貼りだされないの?」
北翠では順位表が貼りだされるなど絶対にない。他の高校がどうなのかはわからないけど、もし貼り出すにしても上位十位までが相場な気がする。
「北翠では貼りだされるとかないよ。本当に成績トップなんだね楓」
一位のところには、楓の名前があった。
「なんで知ってるみたいに?」
「理沙ちゃんが言ってた。ここで教師してる小川理沙」
「知り合い?」
「従妹」
楓はなるほどと言うように頷くと「めちゃくちゃ口悪いよ理沙ちゃん」と言ってまた頷く。
「嫌い?」
そう訊くと楓は「いい先生だよ、女教師であんなに生徒黙らせられるのあの人くらいだから、東風の教師に向いてると思う」と言う。なんとなく想像できて笑ってしまう。
「この前たまたま会って、東風で教師してるって聞いて。その時、楓のこと話したら学校毎日遅刻しないで来るし、成績もトップだって言ってて。楓のこと褒めてたよ理沙ちゃん」
わたしは改めて順位表を見た。すると総合得点のところには、[485点]と書かれてある。
「えっ!東風の中間考査って何教科?」
「五じゃない?」
いくら東風とは言え、試験問題はちゃんと高校生レベルな筈。
「はぁ?485点って……楓って天才なの?」
そう言った瞬間、天才という文字が目に飛び込んでくる。楓の名前の上に“天才参上”と、落書きがされていた。もしかしてと思い最下位のところを見てみると“バカたれ”と書いてあった。これもまた、北翠ではありえない光景。
「俺の席あそこだよ?そりゃ嫌でも真面目に授業に参加するでしょ」
「だとしても、十五点しか間違ってないんだよ?凄すぎるよ。あっもしかして学校に忍び込んで試験問題を盗み見したとか?前に夜の十時頃ここに来たってさっき言ってたじゃん」
「あれは、スマホどこにやったかわからなくなって探しに来たの。試験問題を盗み見って……そうだな今度やってみるか」
いいこと聞いたみたいな顔をするから慌てて止めた。
「えっ!駄目!」
楓は冗談だと言うように「はは」と笑うと歩いていく。わたしはその後ろを追った。
「ねぇ楓、なんか全員こっち見てるよ」
「ああいうのは無視しとけばオッケー」
交差点を曲がると急な坂道が現れ、バイクは唸りを上げて進んでいく。辺りから住宅が消え、閑散とした道にバイクのエンジン音だけが響く。道の両端に生えた草は進むにつれ背丈が高くなり、道路の割れ目から生えた草を避けながら、バイクは前へと進む。途中、道路に大きな窪みがあり、さっき降った雨が溜まっていた。
ようやく坂を上りきると大きなコンクリートの塊が月明かりに照らされ浮かび上がっている。辺りにはなにもなく、ひっそりと孤独に佇んでいる古びた校舎に生気は感じない。
「これが、東風学園?」
「そっ」
朝になればここは派手な姿をした生徒で賑わう。でも、そんな風には到底思えない程、その建物はあたかもただのコンクリートだった。
楓は体育館裏にバイクを停め、エンジンを切るとヘルメットを脱ぐ。それに合わせてわたしもヘルメットを脱いだ。
バイクを降りると楓は扉に手を掛ける。
「えっ、開いてるの?」
そう訊くと楓は「鍵壊れててそのままだから」と扉を開くからつい、「さすが東風」なんて言ってしまう。楓はスマホのライトで体育館を照らし、中に入るように促す。
「靴、どうしよう?」
「さすが北翠、それ気にするやつ東風には一人もいないかも」そう言って楓はわたしの手を取ると中に入っていく。五十川琉衣が東風にいるという意味が分からないままついてきたけれど、まさか夜の校内に忍び込むとは思ってもみなかった。本来学校なんてちゃんとしたセキュリティーがあって、こんな風に生徒が勝手に入ったりなんてできない筈だから。
「警報ブザーとか鳴ったりしないかな?」
「ないよ、そんなの。前に夜の十時過ぎに来たけど大丈夫だったし」
なにをしに?という質問は一旦置いておいた。
こういうことをするのが一番苦手だった筈なのに、楓と一緒だとなぜか楽しく感じてしまう。バレたらどうなるかわからない不安を抱えながらも、今、この瞬間を楽しんでいる自分がいた。
体育館から廊下に出ると、なんだか不気味な雰囲気に、背筋がぞくりとした。もっと明るさがほしくて楓から預かったスマホで廊下を照らした。
「なんか、怖くない?」
「歌でも歌ってみれば?歌に合わせて誰かがピアノを弾いてくれるかもよ」
思わず楓の腕を掴んだ。
「やめてよ!本当に怖いんだから!」
楓は吹き出すように笑うとわたしの手を握る。今度は違う緊張感に襲われる。楓と手を繋いで歩くのは初めてのことだった。
階段を上ると、楓は戸が開けっ放しの教室に入っていった。
「ここ俺の教室」
そして、窓際の一番前の席に行くと「ここが俺の席」と言って机を叩く。一番前の席で授業を受けてる楓を想像するとなんだか笑えた。
「授業に集中できそうだね」
「それはもう」
廊下に出ると、壁一面になにか貼られているのが見え、ライトを照らすとそれは中間考査の順位表だった。
「えっ順位表貼りだされるの?」
「北翠は貼りだされないの?」
北翠では順位表が貼りだされるなど絶対にない。他の高校がどうなのかはわからないけど、もし貼り出すにしても上位十位までが相場な気がする。
「北翠では貼りだされるとかないよ。本当に成績トップなんだね楓」
一位のところには、楓の名前があった。
「なんで知ってるみたいに?」
「理沙ちゃんが言ってた。ここで教師してる小川理沙」
「知り合い?」
「従妹」
楓はなるほどと言うように頷くと「めちゃくちゃ口悪いよ理沙ちゃん」と言ってまた頷く。
「嫌い?」
そう訊くと楓は「いい先生だよ、女教師であんなに生徒黙らせられるのあの人くらいだから、東風の教師に向いてると思う」と言う。なんとなく想像できて笑ってしまう。
「この前たまたま会って、東風で教師してるって聞いて。その時、楓のこと話したら学校毎日遅刻しないで来るし、成績もトップだって言ってて。楓のこと褒めてたよ理沙ちゃん」
わたしは改めて順位表を見た。すると総合得点のところには、[485点]と書かれてある。
「えっ!東風の中間考査って何教科?」
「五じゃない?」
いくら東風とは言え、試験問題はちゃんと高校生レベルな筈。
「はぁ?485点って……楓って天才なの?」
そう言った瞬間、天才という文字が目に飛び込んでくる。楓の名前の上に“天才参上”と、落書きがされていた。もしかしてと思い最下位のところを見てみると“バカたれ”と書いてあった。これもまた、北翠ではありえない光景。
「俺の席あそこだよ?そりゃ嫌でも真面目に授業に参加するでしょ」
「だとしても、十五点しか間違ってないんだよ?凄すぎるよ。あっもしかして学校に忍び込んで試験問題を盗み見したとか?前に夜の十時頃ここに来たってさっき言ってたじゃん」
「あれは、スマホどこにやったかわからなくなって探しに来たの。試験問題を盗み見って……そうだな今度やってみるか」
いいこと聞いたみたいな顔をするから慌てて止めた。
「えっ!駄目!」
楓は冗談だと言うように「はは」と笑うと歩いていく。わたしはその後ろを追った。

