帰宅すると母は慌ただしく夕食の準備をしていた。スリッパをぱたぱた鳴らし、冷蔵庫から味噌を取り出すと鍋の中で溶かしていく。いつもよりてきぱきとした動きを見せる時はたいてい、イライラしている時だ。
「豆腐買ってきたから冷蔵庫に入れておくね」
母は返事をすることなく唐突に玲香ちゃんのことを話し始めた。
「夏休みにうちに連れてきた子、玲香ちゃんって言ってたかしら?ずっと黙っていたけど、ああいう子と友達するのはやめなさい」
突然なにを言い出すのかと驚いて声が出せずにいると、母はさらに言葉を続けた。
「高校生なのに髪の毛染めて、ピアスまでしていたでしょ」
そういえば、夏休みにうちに来た玲香ちゃんは、髪の毛をブラウンに染めていた。でも、それは夏休み限定で、学校が始まる前に黒色に戻していた。それにピアスだって学校ではつけていない。
「あれは夏休みの間だけで、学校では黒髪だしピアスも外してるよ」
普通に話したつもりなのに、母は反抗されたと感じたようだった。
「あんな子と友達をしているから、その影響を受けてそんな反抗的な態度とるようになったんでしょ。お姉ちゃんと違って美月は人からの影響を受けやすい子だから言っているの。悪い子と友達をすれば、その子の影響を受けてしまうから、もっと真面目でいい子と友達しなさい」
髪の毛を染めてピアスを付けただけで不真面目で悪い子なの?それならこの世は悪人だらけだね!そう言ってやりたかった。それに、わたしが人からの影響を受ける?確かに人の顔色は気になる。だから、顔色を窺って相手に合わせた言動をする。人に影響されている訳じゃない。ただ、波風を立てたくないだけなんだ。
「とにかく、髪の毛を染めるような子とは関わらないで」
頭に浮かんでいた玲香ちゃんの姿はいつの間にか楓にすり替わっていた。
東風だろうが、橋の向こうに住んでいようが、金髪でピアスを付けてバイクに乗っていようが、楓はみんなに慕われ、必要とされている。母親を亡くしてから一人で暮らし、生活のために毎日働いている楓は、今、わたしの目の前に立つこの大人よりも、ずっとずっとしっかりと生きている。
お姉ちゃんが死んだのは楓のせいじゃないのに、東風ってだけでひとくくりにして、人格を全否定して、拒絶して、忌避して。もしもわたしが東風の生徒と関わっているなんて知ったら“東風は悪”と書いたその強固なスローガンで目を覚ませと顔を叩かれるんだ。
これ以上波風を立てないように「ごめん、わかった」それだけを言って部屋に行った。
「豆腐買ってきたから冷蔵庫に入れておくね」
母は返事をすることなく唐突に玲香ちゃんのことを話し始めた。
「夏休みにうちに連れてきた子、玲香ちゃんって言ってたかしら?ずっと黙っていたけど、ああいう子と友達するのはやめなさい」
突然なにを言い出すのかと驚いて声が出せずにいると、母はさらに言葉を続けた。
「高校生なのに髪の毛染めて、ピアスまでしていたでしょ」
そういえば、夏休みにうちに来た玲香ちゃんは、髪の毛をブラウンに染めていた。でも、それは夏休み限定で、学校が始まる前に黒色に戻していた。それにピアスだって学校ではつけていない。
「あれは夏休みの間だけで、学校では黒髪だしピアスも外してるよ」
普通に話したつもりなのに、母は反抗されたと感じたようだった。
「あんな子と友達をしているから、その影響を受けてそんな反抗的な態度とるようになったんでしょ。お姉ちゃんと違って美月は人からの影響を受けやすい子だから言っているの。悪い子と友達をすれば、その子の影響を受けてしまうから、もっと真面目でいい子と友達しなさい」
髪の毛を染めてピアスを付けただけで不真面目で悪い子なの?それならこの世は悪人だらけだね!そう言ってやりたかった。それに、わたしが人からの影響を受ける?確かに人の顔色は気になる。だから、顔色を窺って相手に合わせた言動をする。人に影響されている訳じゃない。ただ、波風を立てたくないだけなんだ。
「とにかく、髪の毛を染めるような子とは関わらないで」
頭に浮かんでいた玲香ちゃんの姿はいつの間にか楓にすり替わっていた。
東風だろうが、橋の向こうに住んでいようが、金髪でピアスを付けてバイクに乗っていようが、楓はみんなに慕われ、必要とされている。母親を亡くしてから一人で暮らし、生活のために毎日働いている楓は、今、わたしの目の前に立つこの大人よりも、ずっとずっとしっかりと生きている。
お姉ちゃんが死んだのは楓のせいじゃないのに、東風ってだけでひとくくりにして、人格を全否定して、拒絶して、忌避して。もしもわたしが東風の生徒と関わっているなんて知ったら“東風は悪”と書いたその強固なスローガンで目を覚ませと顔を叩かれるんだ。
これ以上波風を立てないように「ごめん、わかった」それだけを言って部屋に行った。

