待ちに待った高校生。ずっと憧れてきたあの生活まで、あと二日。
友達たくさん作って、みんなでお菓子食べて、放課後寄り道したり。そんな高校生活を、夢見ていた。
「なんでえ!?」
なんか熱いなと思って、試しに熱を測ってみた。体温計に38.9という数字が映し出される。
いやいやいやいや、そんなわけ……。
体温計が壊れたのか、俺の目がおかしくなったのか。それとも、まだ夢でも見ているのか。そう思いながら、体温計をもう一度脇に挟んだ。
「おかしいって……!」
目をいくら擦っても、映し出されている数字は変わらない。
そんな馬鹿な。こんな、漫画のような展開があるのか。
それから約二時間後。仕事から帰ってきた親に病院へ連れて行かれた。
「インフルエンザですね」
診察室で、医師はあっさりと言った。
この時期にインフルエンザ。流行りに乗り遅れすぎている。
「やっぱり予防接種しておいたほうが良かったかしら……」と、今更どうでも良いことを言い出す母親。
……絶対今じゃない。
入学式二日前。インフルエンザによる登校停止期間は、発症から五日間。
俺の憧れの高校生活は、ベッドの上から始まることが決定した。
あれから五日が経った。そして、俺は今、一年三組のドアの前に立っている。
……どうやって入ろう。俺なんかが入っても大丈夫なのだろうか。もうみんな仲良くなってるよな。
姉に言われた事を思い出す。……とりあえず笑っとけ、とか言ってたっけ。
俺は、ドアの前で精一杯の笑顔を作る練習を始めた。
「こ、こう……? わっかんねえ……」
試行錯誤を繰り返し、やっとそれらしい笑顔を作れた気がして、ドアと向き合う。
「よしっ……!」
意気込んでドアの引き手に手をかけた、その時。
「なにしてんの?」
え……? 後ろに、人がいる……?
もしかして、俺の笑顔の練習見られてた? 普通に終わった。
心臓が嫌なくらい跳ねている。
……大丈夫、大丈夫。落ち着け、俺……!
意を決して恐る恐る振り向く。
「はじめまして……!」
さっき練習していた笑顔を貼り付けて、できるだけ明るい声で言った。
……しばらく沈黙が流れる。
やっぱり、変だったよな。ちら、と相手の顔を見てみた。
……イケメンだ。少し茶色がかった髪に、柔らかそうな茶色の瞳。整った顔立ちなのに、どこか親しみやすい雰囲気がある。
思わず見入っていると──
「あはははっ!」
そいつは腹を抱えて笑い出した。
「いや、ドアの前で笑顔練習してんの、おもろいなって……」
……やっぱり見られてたか。というか、そんなに面白いか?
「だって、俺、今日が一応初登校だし……」
「あ、え、今日が?」
「うん」
「……じゃあさ、教室、一緒に入る?」
「え?」
「一人で入るより、二人の方が気が楽じゃない?」
「……確かに」
「じゃ、開けるよ」
ガラッと、勢いよくドアが開かれた。
ドアが開き切ると、視線が一斉にこちらへ向く。
「おはよ〜」
彼が手をひらひらと振る。
「颯、おはよ!」
「一ノ瀬ー! 今日の宿題やった? 見せてくんね?」
「おっ、一ノ瀬じゃん!」
あちこちから飛んでくる声に、彼は笑いながら返している。
こいつ、一ノ瀬っていうんだ。……大人気じゃんか。
俺が思い描いていた高校生そのものだった。誰からも好かれて、明るくて、イケメンで。
少しだけ、羨ましかった。
「おーい席つけー、出欠取るぞー」
担任が教室に入ってくると、わらわらと人が散っていった。
いかにも体育教師らしい、ガタイのいい担任。自席がわからず突っ立っていると、担任と目が合った。
まずい、見つかった。
「おお柏木!来たか!」
……声がでかい。
「柏木は、一ノ瀬の次だから……一番後ろの席だな!」
「あ、はい」
あれ、一ノ瀬って……。
「お、後ろじゃん」
席に着くと、前の席の一ノ瀬がくるりと振り返った。
「改めてよろしく。俺、一ノ瀬颯」
「あ……俺は、柏木伊織。よろしく」
「うん、よろしく!」
一ノ瀬は満足そうに笑った。
出欠が終わり、先生から学校生活についての説明が続く。今日から、ちゃんとした授業がスタートするらしい。
ホームルームが終わると、一ノ瀬がまた振り返ってきた。
「なあ、柏木ってさ、まだ校舎わかんないよね?」
「……うん」
「じゃあさ、昼休み、一緒に回ろ」
「迷惑じゃない?」
「全然。俺もまだわかんないとこあるし。探検みたいで楽しそうじゃん」
一ノ瀬は「約束な」と笑って言った。
たったそれだけの約束なのに、自然と胸が軽くなった。
高校生活、思っていたよりも悪いスタートじゃないのかもしれない。
友達たくさん作って、みんなでお菓子食べて、放課後寄り道したり。そんな高校生活を、夢見ていた。
「なんでえ!?」
なんか熱いなと思って、試しに熱を測ってみた。体温計に38.9という数字が映し出される。
いやいやいやいや、そんなわけ……。
体温計が壊れたのか、俺の目がおかしくなったのか。それとも、まだ夢でも見ているのか。そう思いながら、体温計をもう一度脇に挟んだ。
「おかしいって……!」
目をいくら擦っても、映し出されている数字は変わらない。
そんな馬鹿な。こんな、漫画のような展開があるのか。
それから約二時間後。仕事から帰ってきた親に病院へ連れて行かれた。
「インフルエンザですね」
診察室で、医師はあっさりと言った。
この時期にインフルエンザ。流行りに乗り遅れすぎている。
「やっぱり予防接種しておいたほうが良かったかしら……」と、今更どうでも良いことを言い出す母親。
……絶対今じゃない。
入学式二日前。インフルエンザによる登校停止期間は、発症から五日間。
俺の憧れの高校生活は、ベッドの上から始まることが決定した。
あれから五日が経った。そして、俺は今、一年三組のドアの前に立っている。
……どうやって入ろう。俺なんかが入っても大丈夫なのだろうか。もうみんな仲良くなってるよな。
姉に言われた事を思い出す。……とりあえず笑っとけ、とか言ってたっけ。
俺は、ドアの前で精一杯の笑顔を作る練習を始めた。
「こ、こう……? わっかんねえ……」
試行錯誤を繰り返し、やっとそれらしい笑顔を作れた気がして、ドアと向き合う。
「よしっ……!」
意気込んでドアの引き手に手をかけた、その時。
「なにしてんの?」
え……? 後ろに、人がいる……?
もしかして、俺の笑顔の練習見られてた? 普通に終わった。
心臓が嫌なくらい跳ねている。
……大丈夫、大丈夫。落ち着け、俺……!
意を決して恐る恐る振り向く。
「はじめまして……!」
さっき練習していた笑顔を貼り付けて、できるだけ明るい声で言った。
……しばらく沈黙が流れる。
やっぱり、変だったよな。ちら、と相手の顔を見てみた。
……イケメンだ。少し茶色がかった髪に、柔らかそうな茶色の瞳。整った顔立ちなのに、どこか親しみやすい雰囲気がある。
思わず見入っていると──
「あはははっ!」
そいつは腹を抱えて笑い出した。
「いや、ドアの前で笑顔練習してんの、おもろいなって……」
……やっぱり見られてたか。というか、そんなに面白いか?
「だって、俺、今日が一応初登校だし……」
「あ、え、今日が?」
「うん」
「……じゃあさ、教室、一緒に入る?」
「え?」
「一人で入るより、二人の方が気が楽じゃない?」
「……確かに」
「じゃ、開けるよ」
ガラッと、勢いよくドアが開かれた。
ドアが開き切ると、視線が一斉にこちらへ向く。
「おはよ〜」
彼が手をひらひらと振る。
「颯、おはよ!」
「一ノ瀬ー! 今日の宿題やった? 見せてくんね?」
「おっ、一ノ瀬じゃん!」
あちこちから飛んでくる声に、彼は笑いながら返している。
こいつ、一ノ瀬っていうんだ。……大人気じゃんか。
俺が思い描いていた高校生そのものだった。誰からも好かれて、明るくて、イケメンで。
少しだけ、羨ましかった。
「おーい席つけー、出欠取るぞー」
担任が教室に入ってくると、わらわらと人が散っていった。
いかにも体育教師らしい、ガタイのいい担任。自席がわからず突っ立っていると、担任と目が合った。
まずい、見つかった。
「おお柏木!来たか!」
……声がでかい。
「柏木は、一ノ瀬の次だから……一番後ろの席だな!」
「あ、はい」
あれ、一ノ瀬って……。
「お、後ろじゃん」
席に着くと、前の席の一ノ瀬がくるりと振り返った。
「改めてよろしく。俺、一ノ瀬颯」
「あ……俺は、柏木伊織。よろしく」
「うん、よろしく!」
一ノ瀬は満足そうに笑った。
出欠が終わり、先生から学校生活についての説明が続く。今日から、ちゃんとした授業がスタートするらしい。
ホームルームが終わると、一ノ瀬がまた振り返ってきた。
「なあ、柏木ってさ、まだ校舎わかんないよね?」
「……うん」
「じゃあさ、昼休み、一緒に回ろ」
「迷惑じゃない?」
「全然。俺もまだわかんないとこあるし。探検みたいで楽しそうじゃん」
一ノ瀬は「約束な」と笑って言った。
たったそれだけの約束なのに、自然と胸が軽くなった。
高校生活、思っていたよりも悪いスタートじゃないのかもしれない。
