一人称

あの日、駅の階段の踊り場で、その人はぐらりと崩れ落ちた。




最初は、酔っ払いか、あるいは急病の人だと思った。周囲の人たちが距離を置いて通り過ぎていく中、苦しそうに喉を鳴らして酸素を求めている姿を見て、私は放っておけなくなった。



駆け寄って、肩を貸す。その人の手は驚くほど冷たく、そして指先が、私に向けられた敬意とは違う、もっとどろりとした執着で私を掴んだ。





「大丈夫ですか?」






私がそう声をかけると、その人は焦点の合わない目で私をじっと見つめた。





 私は焦ってバッグから飴玉を取り出し、持っていたペットボトルを差し出した。早くこの場を離れたい。この人が、まるで獲物を探すような目つきで私を見ていることに、直感的な嫌悪感を覚えたからだ。







「これ、食べてください。落ち着いたら、私は行きますから」








 手渡した瞬間、その人は私の指先に長く触れた。






 その触れ方は、弱っている人間が縋るようなものではなく、何かを品定めするような、粘り気のあるものだった。






 ようやくその人がゆっくりと息を吐き始めたのを見て、私は「失礼します」とだけ告げて、すぐさまその場を離れた。




 制服の袖に、その人の手の感触が残っているような気がして、私は改札へ向かう人混みの中で、何度も何度もその場所をこすった。





 あれが、すべての終わりの始まりだった。





 あの日、通りすがりの人に手を貸しただけで、どうして私は、こんな執拗な視線に追いかけられなければならないのか。