一人称




 それからの日々は、僕にとって夢の中にいるようだった。





 僕の高校は彼女の降りる駅の先にある。

 毎朝、同じ電車に揺られ、同じ車両で過ごす時間は、僕だけの特別な時間だった。







 いつも友人と楽しそうに話している彼女。




 それでも、ふとした瞬間に彼女が窓の外を眺めているとき、人混みに少し疲れたように肩を落とすとき。
 僕だけが彼女の本当の表情を知っている気がした。








 声はかけない。今の彼女には、友人という大切な日常がある。
 けれど、同じ電車に乗っているというだけで、僕たちの距離は少しずつ、確実に縮まっているのを感じていた。








 やっぱりこれは運命なんだ______








 一度だけじゃない。何度も何度も重なる軌跡の再開。もう、偶然なんて言葉で片付けることはできない。








 今度こそ、ちゃんと二人きりで話そう。

 電車の中は賑やかだ。店も賑やかだ。他人の視線や店員の目が邪魔をして、彼女の本当の声や、素の表情に触れることはできない。










 僕は決意した。

 彼女が降りるあの駅で、彼女が一人になった瞬間、ちゃんと名前を読んで声をかけよう。







 


 *



 いつものように電車を降り、改札へと向かう人並みの中で彼女の姿を探す。





__いた。






 友人と別れ、一人で駅から出ようとしている。





 僕の鼓動が、喉の奥までせり上がってくる。

 これが僕の人生を、運命を決定づける瞬間だ。






 僕は人混みをかき分け、彼女の背中を追う。


 駅の外、喧騒が少し静まった場所で僕は彼女の歩調に合わせて足をはやめた。





 「あの!」





 僕の声に、彼女が足を止める。

 振り返った彼女の表情は、駅で助けてもらったあの日とも、店で名札を見せてくれたときとも違う、少し驚いたような、それでいてどこか真っ直ぐなものだった。








 今、僕たちは、誰もいない路地で二人きりで向き合っている。



 あの日すれ違うだけだった僕たちが、こうして、いま、物語を動かそうとしているんだ_