一人称




 それから数日、僕は同じ時間、同じルートで駅を利用するようになった。




 淡い期待を抱いていたわけではない。

 けれど、もし、またあの場所に行けば、彼女に会えるかもしれない。


 そんな根拠のない自信が、僕の足をその場所へと引き寄せていた。






 そして、その日は突然やってきた。






 高校に向かう朝のラッシュ時間帯。

 僕はいつものように、あの日を思い出しながら電車が来るのを待っていた。

 入ってきた車両に乗り込み、吊り革を掴んでふと視線を上げたとき、心臓が跳ね上がった。







 _____彼女がいた。










 数メートル先、ドアの近くにあの時の彼女がいた。
 白い制服の彼女、間違えようがなかった。




 心臓が早鐘を打つ。
 反射的に「あ」と口から漏れそうになって、慌てて飲み込んだ。





 彼女は一人ではない。隣には楽しそうに笑い合う友人がいて、何やらスマホを見せ合いながら話に花を咲かせている。

 あの日見せた、誰かを助けるときの凛とした表情とは違う、年相応のあどけない笑顔。






 その姿を見た瞬間、僕の喉はキュッと引き締まった。








 声なんて、かけられるわけがない。

 今の彼女は、僕が踏み込むべきではない、眩しい世界にいる。






 僕はただ、吊り革を握りしめたまま、彼女から目を離せないでいた。

 次に会えたら名前を聞こう、なんて思っていたのに…。
 いざ彼女を目の前にすると、僕は声もかけられない、臆病な人間だ。





「どこで降りるんだろう…」

 小さな独り言が、電車の騒音にかき消される。





 彼女は友人との会話に夢中で、僕の方には一度も目を向けない。
 
 でもその横顔を眺めているだけで、あの時飲んだ水のように、胸の奥が少しだけ冷たく、そして熱くなった。