四季を巡って、恋し愛する僕たちは

志雫を「かわいい」と表した朱崎は、いつもと変わらない爽やかな笑顔を見せた。

「かわ……い、い?」
「うん、かわいい。俺な、お前のことすげぇタイプなんだわ」
「え?……えぇ??」
「あ、顔の話じゃなくてな。俺、犬っぽい年下が好きなんだよ〜。リード付けて引っ張り回して、言う事聞かせてやりたくなるんだよなー。あ、束縛とか虐待的な意味じゃないぞ!」
「え…いぬ……?……は?」

朱崎の発言をその場で理解するには、志雫は少しばかり頭が足りなかった。
しかし、朱崎の深淵に片足を無理やり突っ込まれてしまったことは確かに分かり、これ以上は聞いてはならないと本能が警報アラートを響かせている。

「あ、は……ははっ、そ、そういう〜……。わ、分かりました。もう分かりました!」
「ホント?じゃあ……」

朱崎は反対の手を、志雫の腰に回した。
突然のスキンシップに、触れられた所からゾワゾワと鳥肌が立つような感覚があった。

「俺のモンになってくれるか?」
「……え?」
「正直、お前がこんなに俺の事想ってくれてたなんて、予想以上だったわ。俺が誘った手前、部活も辞めずにいてくれてたんだろ?俺はお前の、その誠実さがすごい気に入った。だから、本格的に俺のモンになってもらおうかなーって、今まで気を引いてたつもりなんだけど」

羽田本や詠瀬から向けられる好意とは一段と違う。
かわいげや純愛なんて綺麗なものではない。
ドロドロと深い人間の欲を目の当たりにし、志雫は身も心も固まってしまった。

「……おっと、さすがに引いた?ゴメンなー、優しいフリしたズルい先輩で」
「じゃ、じゃあ……今まで、優しくしてくれてたのは…完全に……下、心があっての…って、ことですか…?」
「そうそう。お前もあと1年したら、この気持ち分かるかもなー。ははっ」

朱崎の笑顔がいつにも増して恐ろしく感じる。
さらに、自分はいつ食われてもおかしくないという新たな思考が現れてしまい、志雫は別の意味でも恐怖を覚えた。
なぜ今まで朱崎との関わりになんとも思わなかったのか、なぜ早く服を着なかったのか、自分の勘の悪さに、志雫は後悔に浸る。

「だから、羽田本や詠瀬と楽しそうにしてるのも、全っ然気に入らないし。あとお前ら、今年に入って絶対なんかあっただろ?」

志雫を見下ろす目は、全てを見透かしているようだった。
何も悪いことはしていないのに、蛇に睨まれた蛙のような気持ちになり、志雫は思わず生唾を飲んだ。

「けど、まだ誰のモンにもなってないなら………俺が先にもらっちゃっても、文句言えないよな?」

(く、食われるッ……!!)

そう思った途端、志雫は自分の身を守るため、頭に思い付いた事を咄嗟に口に出した。

「お、俺!!レギュラー入れるように頑張りたいです!!!」
「…………は?」

『何言ってんだこいつ』という顔をして、朱崎は思わず動きを止めた。

「あ、朱崎先輩、言ってましたよね!?『そう簡単に今の座は渡さない』って!でも今ッ、朱崎先輩に並べるようなバッターはいねぇし…」

あの朱崎に対して、現実と誇張の差がどこまで誤魔化せるかは分からない。
しかし、もう志雫にとっては、朱崎に残された野球愛に付け入るしかなかった。

「俺、練習頑張るので見ててください…!!なのでオーディションの日が終わるまで、こういうのは無しにしましょう?!…今回のオーディションに合格して、俺が朱崎先輩の跡を継げるバッターだって認めてもらえたら……もらえたら………」

いい言葉は思い浮かばなかった。

「俺!…朱崎先輩を選んで、一生ついて行きます!!!」