四季を巡って、恋し愛する僕たちは

「打つ練習するなら、投げてくれるやつがいた方がいいだろ〜」

グラウンドから少し離れた練習スペースに移動し、朱崎はテキパキと練習の準備を進める。
グローブを手にはめ、バケツに積まれているボールを1つ手に取る。

「ほら志雫、そっち立てよ」
「………」

朱崎に言われるがまま、志雫は指さされたところに立って、バットを構えた。
それを見た朱崎も、ボールを投げる構えをとった。

「……ッ先輩!」
「ん?どうした?」
「……こっから、下から投げるだけでいいです」
「ん?そうか?」

志雫は自分の横を指差し、朱崎は言われたように移動した。
本気で投げようとする姿を見て、朱崎が右肩を痛めそうで心配したからだ。

「んじゃいくぞー。…ほいっ」
「……ッ!……あれ」
「ぷはッ、どんまいどんまい。ほらっ」
「……ッ!!」
「惜しい惜しい!もう1回!」

結局、バットに当たった数より、そのまま辺りに落下していったボール数の方が多かった。

___


「お、もうグラウンド誰もいないな〜。すっかり夜だな!」
「……すいません、付き合わせて」
「いやいや、誘ったのは俺だし?お前が珍しく頑張ってたから、ついな」

気付けば空は真っ暗になり、グラウンドには志雫と朱崎以外、誰もいなかった。
志雫は更衣室に入り、ユニフォームを雑に脱ぎ始めた。
なぜか朱崎はぴったり後ろについて、志雫の着替えを見て待っていた。

「………外で待っててくれていいっスよ?」
「ん〜?1人じゃ怖いだろうと思って」
「そんな真後ろにいると気になります……」
「気にしない、気にしない!」
「はぁ〜……」

ため息をつきながらも、なんとも言えないこの雰囲気を早く脱するべく、志雫は急いで着替えた。
特に話すことは無く、やけに静かな時間が流れる。
そんな中、朱崎はぽつりと話し始めた。

「……俺の事、気にして言ってくれたのか?」

志雫はつい着替えの手を止めてしまった。

「ボール、投げようとしたの止めただろ?…いつから知ってたんだ?俺の肩の事。お前には言ってなかったと思うんだけど?」
「………聞きました、部員のやつから」
「そっか。やけに俺の事見てくるな〜とは思ってた!」

なんだか顔を見るのが怖くて、後ろは振り返れなかったが、朱崎の声は妙に明るかった。

「残念だな〜。俺へのラブコールかと思ったのに。気になってたのは俺の肩かよ〜」
「………」
「けど、そんなに心配しなくていいぞ。甲子園終わってからは病院通いで、リハビリして十分良くなってんだ!部活くらいの運動量なら、してもいいって言われてるし」
「……先輩」
「おう!どした?」
「先輩って、なんで俺にそんな構うんですか?」

べらべら喧(やかま)しく喋っていた朱崎は、急に静かになった。
シンとした空気が不気味になり、志雫は恐る恐る朱崎の方へ振り返った。

「え、な、なに…?」
「……気になる?」
「は…?」

朱崎は足を組んで頬杖をつきながら、にんまり笑って志雫を見つめていた。
予想していた様子と違い、思わず志雫はタメ口を聞いてしまった。

朱崎は立ち上がり、着替え途中の志雫に近付いた。
思わず後退りしようとしたが、後ろのロッカーに行く手を阻まれた。
身動きが取れない志雫を捕らえるように、朱崎は志雫の顔の横に手をつく。

「お前がかわいいから、かな」
「…………えぇ?」