四季を巡って、恋し愛する僕たちは

「んん゛〜……あれ、京翔からだ」

いつもと同じ時間に鳴るスマホのアラーム。
唸り声を上げながら、羽田本はノールックで操作して、アラームを止めた。
時間を確認しようと目を開けると、朝早くに志雫からメッセージが来ていることに気付く。

「…そっか……朝練もあるのか」

メッセージは、しばらく一緒に登校できなくなるといった内容だった。
部活が忙しいことを知っている羽田本は、簡単な文で返信し、頑張れの意味を込めたかわいいスタンプを送った。

「しばらく1人で登校か……。寂しいなぁ」

___


その頃、志雫は眠そうな表情で、補欠部員たちとグラウンドを走っていた。
夏休み中の生活習慣が抜け切っていない体と脳は、部活の疲労と早起きに、まだついていけてない。
ノルマのランニングを終え、志雫は一旦顔を洗って目を覚まそうとした。

外に備え付けてある蛇口を捻ると、流れる水は朝日を受けてキラキラ光っている。
手ですくった水を何度か顔にかけ、目を閉じたまま置いていたタオルに手を伸ばした。

「……あれ?」

置いていた場所にタオルが無い。
目を開ける気のない志雫は、手探りであたりを調べる。

「……ッく、はは」
「ん゛ん〜…?……先輩、なにしてんスか」
「いやぁ、面白い顔だなーって思って」

笑い声が聞こえ、志雫はようやく目を開けた。
目の前には、志雫のタオルを持った朱崎が余裕の表情で、志雫を眺めていた。

「ほーら、目が覚めたかー?お前、走りながら寝そうだったぞ」
「うぶっ、…まぁなんとか」
「ちゃんと朝練も来てえらいな」
「先輩が“来い”って言ったんじゃないですか…」
「そうだ、そうだ。俺が言ったんだったな!はははっ!」

朝から志雫を揶揄う元気がある朱崎は、持っていたタオルで志雫の顔を拭いた。
わざとらしいが不思議と爽やかさのあるその笑顔は、謎の圧を感じる。

「てか、先輩こんなとこいていいんスか?バッティングは?」
「あー、最近朝練は軽くしてんだ。どうせ午後もみっちりやるんだし、授業前にくたくたになるのは嫌だしな」
「ふーん」
「あ、お前はもうちょっと残ってやれよ?先輩命令、な?」
「パワハラって言っていいっスか?」
「お、そうきちゃう?俺はかわいい後輩を育てようとしてるだけなんだけどなー」
「はいはい、嘘っスよ。じゃあ先輩はお疲れっしたー」

朱崎のウザ絡みを掻い潜り、志雫は補欠部員たちのもとへ戻ろうとした。

「……志雫」
「はい?」
「……野球、楽しいか?」
「あー…別に、普通っスね。俺、まだ若干ルールも分かってねぇし」
「あはは!そうだったな!思い出すなぁ。お前が入部した時の模擬試合の練習で、お前バットに玉も当たってないのに逆に走って行ってさ」
「そーそー。俺、野球なんてバット振って走る競技だと思ってるんで」
「じゃあ今度、俺がマンツーマンでルール指導してやるよ。… 悪いな、引き止めて」
「うっす」

朱崎が話を切り上げると、志雫はグラウンドへ戻って行った。