海で告白されたあの日から、志雫はずっと考えていた。
むしろ、考えないようにしていたし、そんなことあえて聞かないつもりだった。
けれど、結ばれた男女を見て、志雫の心が揺れ動いたのか。
つい、ずっと思っていたことを口にしてしまった。
「……なんで、ですか」
「俺さ、正直お前のことなんも知らねーんだわ。お前が頭いいことも、金持ちなことも…この夏、一緒に過ごして分かったことだし」
祭りの喧騒が鳴り響いているはずなのに、2人だけの空間にいるような感覚だった。
志雫は言葉を紡ぐ度、なぜか胸の音が大きくなっていった。
「お前が俺のクラスに来て、告白していったこと、覚えてるか?」
「もちろん」
「……あの日も、俺のことが好きだって言ったよな。でも俺はその時、お前の存在すらも知らなかった。……それなのに、なんでお前は、俺のこと好きなの?」
詠瀬は少しの間俯き、志雫から目を逸らした。
しかしすぐに、覚悟を決めた瞳を向けて話し始めた。
「……入学前の説明会があった日のこと、覚えてますか?」
___
あれは、もうすぐ訪れる春が恋しくなるような、肌寒さが残る日。
この日は、オリエンテーションも兼ねて、新1年生になる生徒たちが学校で説明を受ける予定があった。
校門を抜けると、他校の制服を纏った生徒が集まっており、詠瀬もそこに混じり、指定された入口から教室へ向かう。
試験のために身だしなみを整えていたままの学生たちの中、生まれつきの派手な色の髪は、嫌でも注目を集めてしまう。
(……やっぱり、勝手に染めればよかった)
幸い、校則のゆるい学校のため、入学して間もなくすれば、周りの生徒たちも好きな色に染まることだろう。
そうすれば、自分もそれらと同じにされ、変に目立つこともなくなる。
(あえて遠くの学校を選んで良かった。同じ学校の人はほとんどいない。……家の事も黙っておけば、きっと俺も…普通に学校生活送れるよな)
詠瀬が通っている中学校は、そこそこ品のいい家の子どもたちが集まる私立。
家柄だけで特別扱いをする教員や、ご機嫌を取ろうと群がる生徒たちに、詠瀬はずっとうんざりしていた。
そのまま進級できる道を選ばなかったのは、詠瀬の唯一の反抗心。
新入生には似合わない鬱々とした気持ちで、教員の話す説明はあまり頭に入らなかった。
説明が終わると、詠瀬は颯爽と教室を出て行った。
「おぉ、すげえ派手髪」
自分の靴箱を探していると、そんな声が聞こえた。
詠瀬は聞こえないフリをしていたが、続く会話は嫌でも耳に入ってしまった。
「いいなー、かっけぇなアレ!」
「こら京翔…。あんまり聞こえるように言わないの…」
「えー?褒めてんだからいいじゃん。うちの学校、校則ゆるいから派手髪多いけど、あれ似合うやつはなかなかいねぇだろー。……どこで染めたか聞いてこようかな」
詠瀬にとって思いがけない言葉の数々だった。
“似合う”や“かっこいい”といったセリフは、今までも何度も聞いてきた。
しかし、その声色は素直な気持ちが真っ直ぐ伝わってくる、心地の良いものだった。
思わず詠瀬は、バレない程度に目を向け、その会話をしている人物を確認してしまった。
「京翔にはあの色、似合わないよ」
「え〜〜、なんで?」
「パーソナルカラー的に。京翔はあんまり明るい色は似合わないんだよ」
「お前、たまにその女子っぽい単語出すのなんなの?」
上靴の色は自分と同じだが、明らかに使い古していた。
次の新2年生、自分の先輩となる人だとすぐに分かった。
素直な人柄が溢れ出ているカラッとした笑顔と、“京翔”という名前を、詠瀬は忘れることができなかった。
むしろ、考えないようにしていたし、そんなことあえて聞かないつもりだった。
けれど、結ばれた男女を見て、志雫の心が揺れ動いたのか。
つい、ずっと思っていたことを口にしてしまった。
「……なんで、ですか」
「俺さ、正直お前のことなんも知らねーんだわ。お前が頭いいことも、金持ちなことも…この夏、一緒に過ごして分かったことだし」
祭りの喧騒が鳴り響いているはずなのに、2人だけの空間にいるような感覚だった。
志雫は言葉を紡ぐ度、なぜか胸の音が大きくなっていった。
「お前が俺のクラスに来て、告白していったこと、覚えてるか?」
「もちろん」
「……あの日も、俺のことが好きだって言ったよな。でも俺はその時、お前の存在すらも知らなかった。……それなのに、なんでお前は、俺のこと好きなの?」
詠瀬は少しの間俯き、志雫から目を逸らした。
しかしすぐに、覚悟を決めた瞳を向けて話し始めた。
「……入学前の説明会があった日のこと、覚えてますか?」
___
あれは、もうすぐ訪れる春が恋しくなるような、肌寒さが残る日。
この日は、オリエンテーションも兼ねて、新1年生になる生徒たちが学校で説明を受ける予定があった。
校門を抜けると、他校の制服を纏った生徒が集まっており、詠瀬もそこに混じり、指定された入口から教室へ向かう。
試験のために身だしなみを整えていたままの学生たちの中、生まれつきの派手な色の髪は、嫌でも注目を集めてしまう。
(……やっぱり、勝手に染めればよかった)
幸い、校則のゆるい学校のため、入学して間もなくすれば、周りの生徒たちも好きな色に染まることだろう。
そうすれば、自分もそれらと同じにされ、変に目立つこともなくなる。
(あえて遠くの学校を選んで良かった。同じ学校の人はほとんどいない。……家の事も黙っておけば、きっと俺も…普通に学校生活送れるよな)
詠瀬が通っている中学校は、そこそこ品のいい家の子どもたちが集まる私立。
家柄だけで特別扱いをする教員や、ご機嫌を取ろうと群がる生徒たちに、詠瀬はずっとうんざりしていた。
そのまま進級できる道を選ばなかったのは、詠瀬の唯一の反抗心。
新入生には似合わない鬱々とした気持ちで、教員の話す説明はあまり頭に入らなかった。
説明が終わると、詠瀬は颯爽と教室を出て行った。
「おぉ、すげえ派手髪」
自分の靴箱を探していると、そんな声が聞こえた。
詠瀬は聞こえないフリをしていたが、続く会話は嫌でも耳に入ってしまった。
「いいなー、かっけぇなアレ!」
「こら京翔…。あんまり聞こえるように言わないの…」
「えー?褒めてんだからいいじゃん。うちの学校、校則ゆるいから派手髪多いけど、あれ似合うやつはなかなかいねぇだろー。……どこで染めたか聞いてこようかな」
詠瀬にとって思いがけない言葉の数々だった。
“似合う”や“かっこいい”といったセリフは、今までも何度も聞いてきた。
しかし、その声色は素直な気持ちが真っ直ぐ伝わってくる、心地の良いものだった。
思わず詠瀬は、バレない程度に目を向け、その会話をしている人物を確認してしまった。
「京翔にはあの色、似合わないよ」
「え〜〜、なんで?」
「パーソナルカラー的に。京翔はあんまり明るい色は似合わないんだよ」
「お前、たまにその女子っぽい単語出すのなんなの?」
上靴の色は自分と同じだが、明らかに使い古していた。
次の新2年生、自分の先輩となる人だとすぐに分かった。
素直な人柄が溢れ出ているカラッとした笑顔と、“京翔”という名前を、詠瀬は忘れることができなかった。
