四季を巡って、恋し愛する僕たちは

「先輩…!……先輩ッ!!着きましたよ!!」
「…ンガァっ……え…?ついたぁ〜……?」
「はい!見てください!」

詠瀬が指差す方を見ると、太陽の光を受けてギラギラと光る青い海が目に入った。
寝起きであることも相まって、志雫は明るい景色に目が眩んだ。

「……んあ゛ぁぁ〜〜っ、よく寝たわ」
「寝言言ってましたよ」
「え、マジ?何言ってた?」
「嘘です」
「嘘かよッ」
「へへへっ、さあ行きましょう!」

詠瀬はイタズラっぽく笑うと、早々と車から降りた。

栄えある夏休み初日。
志雫と詠瀬は、とあるビーチへ来ていた。

車から降りると夏の温度を一気に感じ、志雫は早くも車のクーラーが恋しくなった。
まだ眠気の残る志雫とは真逆に、この夏を具現化したような元気の詠瀬は、一足先に砂浜へ向かっていた。

「先輩、来ましたね……海!」
「海だな〜。近くで見てもこんなキレイなんだな」
「晴れて良かったですね!」
「…こんないいとこなのに、他には人いねぇんだな」
「今日は貸し切りですよ?」
「あ〜〜…そうなの」

少し動揺しつつも、志雫はここ数週間で、詠瀬の金持ち発言に慣れてしまった。

「なんで……?」
「2人きりになりたいじゃないですか」
「俺に何する気だ。いや、お前んとこのお手伝いさんいるじゃん?」
「何もしませんよ。それに、もういませんよ?」
「んなわけ……あッ!!!」

志雫が振り返ると、荷物がバッチリ準備されたパラソルと、先程まで乗っていた車がちょうどビーチから離れようと動き出したのが目に入った。

「……はぁ、お前変なことすんなよ?」
「??しませんよ」

詠瀬の瞳は無垢で真っ直ぐだった。
若干の疑いは残るが、志雫はその瞳を信じることにした。

「まぁいいや。んじゃあ海入ろうぜ。ここにいたらあっちいし」

志雫は、着ていた服を捲りあげようとした。

「……えッ?なんで脱ぐんですか先輩!?」
「は?脱がなきゃ泳げねぇだろ」

詠瀬は見てはいけないと思ったのか、反射的に志雫から顔を背けた。

「更衣室は…あっちにあります」
「いや、めんどいからもう下に着てるし。お前着て来てねぇの?」
「……?着てないです」
「じゃあさっさと着替えて来い。俺は先に入ってるぞ」

詠瀬のことは気にせず、志雫はパラソルの下に敷かれたシートに服を脱ぎ捨てた。
詠瀬は恥ずかしそうにしながらも、志雫が服を脱ぐ姿につい見入ってしまった。

「……どした?」
「なッ、なんでもないです!!着替えて来ます!!」

___


詠瀬が着替えて戻ると、志雫はすでに海に足を入れていた。

「お、きたきた。お前も早く入れよ。けっこう冷たくて気持ちいいぞ」
「はい。……ホントだ、冷たい」
「もうちょい奥まで行こうぜ」
「はい!」

たまに吹く風に乗って潮の匂いが漂うと、海に来たという実感が強くなる。
詠瀬はどこまでも続く海を眺めた。

「………ひッ!冷た…!」

突然脇腹に水がかかり、詠瀬は冷たさに驚いた。
水が飛んできた方を見ると、志雫が水鉄砲を持ってニヤリと笑っている。

「へっへ〜。なにボーッとしてんだよ、おらっ!」
「わっ…!先輩…ズルいですよ。えいっ!」
「ははッ!やったなお前〜!」

お返しに、詠瀬は志雫に向かって思いっきり水をかけた。
太陽が照りつける中、しばらく2人は無邪気な子どものようにはしゃいで遊んだ。

冷たい海水を浴びるほど、なぜか詠瀬の心は熱くなった。
水を滴らせながら、海に負けないくらいキラキラと輝く志雫の笑顔を見ていると、目がクラクラする。

「…うわッ!」
「え、ちょおッ…!」

海の中の砂に足を取られ、詠瀬は志雫に向かって倒れ込み、2人もろとも海に突っ込んでしまった。

「……ぶはッッ!!げぇ〜〜ッ…鼻に入ったぁ……。おい翼、大丈夫か?」
「……すみません」
「お前……顔赤くね?大丈夫かよ」
「へへぇ〜……せんぱぁい……」

志雫はなんとか体を起こすが、詠瀬は志雫に体を預けたまま脱力していた。
すると、詠瀬の鼻から赤い血が垂れてくる。

「……おい、翼ッ!?鼻血、鼻血!!ああクソっ……とりあえず戻るぞ!」

詠瀬の腕を肩に回し、ほぼ抱えながらパラソルへ向かって歩き出す。