四季を巡って、恋し愛する僕たちは

「……ねぇ京翔、本当に行くの?」
「え?ダメなのかよ」
「僕というものがいながら…?」
「なんだよそれ」

日陰が心地いい中庭のベンチで、志雫と羽田本は昼食を摂りながら、詠瀬からの誘いについて話していた。

「結局、すぐに流李が俺を教室に連れてったから、まだ返事はできてねぇけど……。行っちゃダメなのかよ」
「………ダメ。行ってほしくない」
「別にただの後輩だろ?一緒に出掛けるだけだよ。なんもねーだろ」
「分かってない……京翔だけだよ、なにも分かってないのは」

羽田本は嫌そうな顔をしながら、紙パックのお茶を飲んだ。
ストローのズズズッというわざとらしく立てられた音は、抗議のようにも聞こえる。

「んなことねぇよ…。俺だって分かってっし…」
「本当に?よく思い出して。詠瀬くんは明らかに京翔に好意があるんだよ」
「………」

志雫は、今までの詠瀬とのやりとりを思い出した。

__


去年、今頃と同じくらいの夏に差しかかろうかとしていた時期。
志雫のクラスに1名の生徒が突然やってきた。

「志雫京翔先輩ッッッ!!!!!!」

入口から1番遠い席にいる志雫でさえも、耳が痛くなるような大声。
突然のことに心臓が跳ねながら、志雫は自分の名前を呼ぶ生徒をジトっと見た。
その生徒は志雫に気付くと、ズカズカと教室に入って、志雫の目の前までやってくる。

「志雫先輩!!」
「あ……はい………」
「俺、1年の詠瀬翼って言います!」
「あ……はあ」

自己紹介をされたが、志雫は『誰だコイツ』という文字が頭から離れなかった。

「俺!先輩のことが好きです!!」
「………へ?」

告白された次の瞬間、詠瀬のクラスメイトがやってきて、詠瀬は回収されていった。
まさに、嵐そのもののような男。

これが志雫と詠瀬の出会い。

__


(……で、ことある如く急に現れて、「どこ行くんですか」とか「先輩は何が好きですか」とか質問攻めにあったりしたな〜……。意味もなく俺のあとをついてくるのは、ちょっと子犬感あったから、後輩としてかわいがってはきてるけど……)

「ね?京翔は狙われてるんだよ。今まで学校の中でしか近付いてこなかったのに、ここにきてデートのお誘いなんて」
「デートじゃねぇだろ…アイツはただの後輩だよ。少なくとも、俺はそうとしか思ってねえ」

志雫は立ち上がり、飲んでいた炭酸飲料の缶をゴミ箱に捨てた。

「それに……もし翼が俺のことを、本当に好きだと思ってても………俺にも、選ぶ権利があるだろ?」

志雫は真剣な眼差しで、羽田本を見ながらそう言った。
羽田本は痛いところを突かれたような表情を見せ、落ち込んだのか、俯いてしまった。

「………おいっ」

志雫は羽田本の顎を掴んで無理やり顔を上げさせた。
突然の行動に、羽田本は目を見開いて驚いた。

「……お前のこと、無かったことにするわけじゃねぇよ。ちょっと遊んでくるだけだ、なっ?」

志雫は羽田本に笑いかけた。
羽田本は嬉しさと安心感で、胸がいっぱいになり、言葉が出なかった。

「あ、志雫ー。お前また課題出してねぇって先生がボヤいてたぞー」
「あ゛ッ…!!そうだ、忘れてた…。悪ぃ流李、俺先に戻るわ」
「…ッ京翔!!」

クラスメイトに声を掛けられた志雫は、自分の荷物をまとめて教室に急いだ。
走り出した途端、自分を呼ぶ羽田本の大きな声が聞こえ、思わず足を止めた。

「ッうお…、どした?」
「………僕のことは気にしないでいいから、詠瀬くんと行ってきて」
「……!…流李」
「先輩だしね、たまには譲ってあげないと」
「……さっすが〜。じゃあ、また放課後」
「うん」

羽田本にグッドサインを送り、志雫は教室へ戻って行った。
残された羽田本はため息混じりに一呼吸吐いた。

「……京翔には敵わないなぁ」

照れているのか、羽田本の頬と耳はほんのり赤くなっていた。
そしていつの間にか、羽田本の中から嫌な思いは消えていた。