四季を巡って、恋し愛する僕たちは

あれから数日、2人の関係は今までと変わらず、ただ穏やかな時間が流れていった。
志雫はまだ返事をしていないが、羽田本はあまり気にしていなかった。

「な〜〜〜帰っちゃダメ?」
「ダメだよ。課題忘れる京翔が悪いんでしょ?」

放課後、人が少なくなった教室で、志雫は忘れていた課題をやらさてれいた。
やる気のない志雫は度々手を止めてしまい、なかなか終わりそうにない。

なぜか監視役を任された羽田本は、志雫の前の席に座り、志雫の進捗を見守りながら、自身の課題に取り組んだ。

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「あ〜〜あ、こんな時間になっちまった。悪いなぁ付き合わせて」
「ホントだよ。シワシワの顔になりながらナマケモノみたいなスピードでやるんだもん」
「シワシワのナマケモノって、こんな顔?」
「ぷッ、ハハハっ!それはただの変顔じゃん!」

夜に近いような夕暮れの中、いつものように帰路を歩く2人。
志雫渾身の変顔に、羽田本は思わず声を出して笑った。

こんな風に過ごすのは、やっぱり楽しい。

羽田本と過ごす時間は、自分の人生においてなによりも輝かしいものだと、志雫は思った。

(……もし流李と付き合っても、今の感じが変わらねぇんなら、それはそれでアリかもな〜)

ふと、志雫は自分に課せられた大きなやるべき事を思い出した。
こんな風にダラダラと返事を先延ばしにするのは良くない。
そろそろ向き合い、返事をしなければいけない時なのではないか。

(でも“付き合う”ってことになるんだよな〜。男同士の場合ってどっちが彼女になんのかな。顔かわいいし、流李の方か?)

志雫の頭は、羽田本に返事をすることから逸れだしてしまった。
考え込みながら歩いていると、また羽田本は志雫の1歩後ろを歩き出した。

「京翔」

志雫の後ろから、羽田本の呼ぶ声がした。
振り返ろうとする前に、羽田本の鋭い言葉が耳に届いた。

「こっち向かないで」
「ッあ、はいっ」

羽田本には珍しい、突き放すような命令口調に志雫は驚き、無意識に体も固まった。
2人とも立ち止まり、シンと静かな空気が流れた。

「……ねぇ、嫌だったら嫌って言って……」
「え…?」
「…………抱き締めていい?」

突然の言葉に、志雫の心臓はさらに跳ねた。

「後ろからだから……顔は見ない」
「あ、お…おう……」

戸惑いながら、志雫は同意ともとれる曖昧な返事をした。
羽田本の足音が、少しずつ志雫に近付く。

「…ッ」

羽田本の腕が後ろから現れ、少し小柄な志雫の体はあっという間に包み込まれた。
背中越しに、羽田本の少し熱い体温と、柔軟剤かシャンプーの少し甘い匂いが伝わってくる。

志雫を大事そうに抱き締める羽田本は、志雫を吸うように大きな深呼吸を1つした。

「…………ごめん……ありがとう。……京翔ぁ…好き、大好き……」
「ど、どし…え、どう、したんだよ…お前……」

羽田本の大胆な行動と言葉に照れ、なぜか志雫は耳まで真っ赤になった。

「だってぇ〜…………僕、あんなこと言ったのに、京翔は変わらず接してくれるからぁ……。嬉しくて……」

珍しく語尾を伸ばしながら喋る羽田本。
その様子から、羽田本が本心を話していることが分かり、志雫はさらに恥ずかしくなった。

「ありがとう……。ありがとう、京翔……。なんか、抱き締めずにはいられなくって……。ごめん……ありがとう」
「ん……お、おぅ……」
「もう少し、いい……?」
「…まぁ……いぃ、けど……」

数分間が何時間にも感じた。
やがて満足した羽田本は、いつものふわっとした笑顔を見せて、もう一度『ありがとう』と言った。

家に帰ってからも、志雫は羽田本の体温が、抱き締められた感覚が忘れられなかった。

「なんだコレ……」

なぜか胸の高まりが治まらない。