ドキドキ大作戦


 たろちゃんからの返事を見てぼくは首を傾げた。

 なんかざわつく。
 おかしい。
 変だ。

 前の授業が早く終わり、次の授業まで少し時間が空いた。
 講義室に移動して椅子に座り教科書やノートを机の上におき授業の準備が終わったのでカバンの中からスマホを取り出す。

 たろちゃんにメッセージを送った。
 たろちゃんにメッセージをするそれだけで顔がニヤける。

 次の先生は、早めに終わるからタイミング合えばたろちゃんと駅で待ち合わせして一緒に帰れるかも?なんて思いながら返事を待つ。

 たろちゃんからはすぐ返事が来た。

 遅くなるからぼくのお弁当も買って帰る。
 そう書いてあった。

 おかしい……。

 いつものたろちゃんなら絶対遅くなる理由が書いてある。

 どこかに行く場合はここに行ってくるそう伝えてくれる。
 お弁当を買って帰ると言ってるって言はどこかに出かける?どこに?誰と?

 普段のたろちゃんとは違う返事になんだか胸がざわつく。

 スマホを、手に椅子から立ち上がる。

 時計を見たら後数分で授業が始まる。
 そのまま椅子に座りなおす。

 なんだか落ち着かない。
 授業が始まるチャイムが鳴った。

 今日はなんだかチャイムが鳴るのが早い気がする。

 帰ってから話を聞こう。今は授業に集中しなきゃとスマホをカバンになおす。
 そのままノートを広げて授業を受ける体勢をとる。

 でも……。

 たろちゃんの違和感が気になってなんとなく授業に集中できず授業は終わった。
 予想通り少し早めに授業が終わったので急いで片付けて帰る準備をする。
 
「青木。ちょっと今日の授業で分かんないところあって」
「ごめん。今日ちょっと用事あって急いで帰らなきゃいけないから明日でもいいかな?」

 ノートを片手に近づいてきた友達に、ごめんと両手を合わせて謝りながら明日の朝話を聞く約束をする。

 普段のぼくなら当たり障りなく質問を聞いて、答えるか教授に聞いた方がいいよなんて伝えるのに今日はその時間さえもどかしかった。

 誰かに呼び止められないように早歩きで講義室を出てそこからは小走りで階段を降りてそのまま校舎を出る。

 急いで帰ってもたろちゃんは部屋にはいないと頭では分かってるけど、なんだか胸がざわざわして早く家に帰りたい。

 たろちゃんの顔をみたいその衝動に駆られる。

 急がなきゃ。
 歩いてるのがもどかしい。
 
 校舎から駅までの道のりも普段使わない抜け道を通って帰る。
 少しでも早く駅に行きたいその気持ちから小走りして駅に向かう。

 あともう少しで駅。

 小走りしながらチラッと腕時計を見る。
 この時間なら予定してる電車より早く乗れそうだ。

 そう思ったら早く駅に着きたくなり走るスピードを少しあげる。
 駅が見えてきた。

 この横断歩道を渡れば駅は目の前。

 信号で待っていたら改札の所にたろちゃんの姿が見えた。



 あっ……!

 たろちゃん!
 


 そう声をかけようとして……。

 ぼくの足は止まった。



 たろちゃんの隣に誰かいる。


 隣の子がたろちゃんの背中をバシバシと叩いてる。

 たろちゃんも叩かれてるのに笑いながら隣の子のことを見てる。

 青い髪を結んでピンクのワンピースにピンクの靴を履いた女の子がたろちゃんの隣にいた。

 
 その光景を目にしてからぼくの足はコンクリートに縫い付けられたみたいに動かなくなった。
 頭の中では、多分あの子はたろちゃんが普段から話してる『さっちゃん』だ。


 そう思うのに……。

 足が、体が動かなくなった。


 信号が青から赤になる。
 
 渡らなきゃたろちゃんに声かけなきゃそう思うのに動けないまま信号が赤になり、2人は肩を並べて改札口から中に入りぼくの視界から消えて行った。
 

 あれがさっちゃん?
 今日たろちゃんはさっちゃんと出かけたってこと?

 行き先は手芸屋さんだったり生地屋さんだろう。
 さっちゃんと出かけてるときは大体そうだ。

 きっと今日もそうだろう。

 そう思うのに、たろちゃんが"出かける"それしか言わなかったことが気になって仕方ない。
 

 さっちゃんと出かけることをぼくに言いたくなかった?

 たろちゃんがぼくに隠し事した?

 なんで?
 


 ぼーっと突っ立てたらしい。

 後ろから「あの?信号青でも渡ってないみたいですが、どうかありますか?」と声をかけられて慌てて信号を見る。

 信号が青から赤に変わってた。
 青になるのを待って駅に向かった。

 それからどうやって家に帰り着いてソファーに座ったのか……覚えてない。



 
「凪紬くん?凪紬くん?」
 たろちゃんがぼくの目の前で手を振ってる。

「凪紬くんどうしたの?ぼーっとしてる?」
 たろちゃんが心配そうな顔でぼくを見てる。

「あっ……たろちゃん。おかえり」
 そう言うのが精一杯だった。

「ただいま。凪紬くんどうしたの?今日元気ない?お弁当買ってきたけど、食べられそう?」
 たろちゃんがテーブルを指差して2人分のお弁当が置いてあるのがわかる。

「ありがとう。食べる」

 そう言って、ソファーから立ち上がってテーブルに向かう。

 たろちゃんが隣で心配そうな顔してるのがわかる。
 たろちゃんに心配させたいわけじゃないのに。

 2人で向かい合わせに座って手を合わせていただきますをしてお箸を手に取る。

 たろちゃんが目の前にいてぼくのためにお弁当買ってきてくれる。

 いつものように話さなきゃと思うのにさっき見た光景が頭から離れない。
 

「たろちゃん今日どこに出かけたの?」
 モヤモヤしたままにするのは、ぼくらしくない!そう思ってる聞いてみることにした。

「うん。さっちゃんがお洋服作るのにレース欲しいって言うからたろうも一緒に行ったんだ」

 たろちゃんはいつも行くあのお店に行ったよ。
 さっちゃんの新作こんな風なの作ってるんだ。

 なんて話してくれてた。

 たろちゃんが普通だったからぼくの心は少しずつ穏やかになって行った。

 そっか。


 たろちゃん別にぼくに隠し事したわけじゃないんだ。

 そう思って安心したのに……。
 

 なんでだろう……。


 さっちゃんと並んで歩いてるたろちゃんの姿が頭から離れない。


 どうしようもなく胸がざわつく……。