高校の入学式の日の朝。
掲示板に貼り出されたクラス割を見て教室に入る。
クラスの中には既にある程度の生徒が揃っていてザワザワしてる。
顔見知りに手を振りながら黒板に貼ってある座席を確認し、教壇からその自分の席に向かう。
その時……。
身長が高くてスタイルもいいかっこいい男の子がカバンを手に持って不安そうな顔をしてるのが目に入った。
その瞬間……。
一気にぼくの視界から全てが消えた。
一瞬で無音になった。
教室のクラスメイトも綺麗に並んでる机も全部。
その男の子だけがぼくの視界にいる。
足が止まる。
なんてかっこいい子なんだろう。
その時の印象はそれだった。
だけど、その子が今にも泣きそうな不安そうな顔をしてる。
君は何がそんなに不安なの?
なんでそんな泣きそうな顔なの?
ぼくにできることない?そんな気持ちに駆られて、自分の席に行くこともぼくの頭の中から一気に消えた。
その子の元にいきたい。
その衝動だけで足が動いてる。
この子に話しかけたい。
なんでそんな顔してるの?
ぼくが力になれない?
そんな気持ちが次々に湧き起こる。
その子の隣まで着いた。
あっ……この子の隣ぼくの席だ。
視界でそれを確認したら、自然と口角が上がる。
その子を驚かせないように、怖がらせないようにそっと近づくことにした。
音を立てないようにゆっくりと自分の机にカバンを置く。
話しかけようと近づいた時、その子のカバンにぬいぐるみがついてるのが目に入った。
すごい。可愛い。
市販でこんな可愛いぬいぐるみある?
可愛いものが好きなのかな?
身長が高くてかっこよくてスタイルのいい彼がこんな可愛いぬいぐるみをつけてることにさらに興味が湧いた。
この子を見かけてからぼくの心はワクワクが止まらない。
こんな気持ち初めてだ。
カバンについてるぬいぐるみを指さしながら、怖がらせないように、ゆっくりと話しかけてみた。
びっくりした顔をしてぼくの方を見てくれたその子は、目鼻立ちがすっきりとして遠目で見た時よりも間近でみた方が迫力ある顔立ちをしてた。
かっこいい。
胸をガツンと殴られたみたいな感覚もはじめてだ。
目をぱちぱちさせながら、緊張してるのかぼくの顔を見ながら、ぬいぐるみをその子が作ったことを教えてくれた。
これだけかっこよくてスタイのいい彼がぬいぐるみをつけてるだけでも目を引いたのにそれを本人が作ってることに驚いて目がまんまるくなる。
彼の見た目と中身のギャップに猛烈に興味が湧いた。
もっと彼と話したい。もっと彼を知りたい。
これまでぼくが感じたことない、知りたいの欲が次から次に溢れ出てくる。
怖がらせないように、ぬいぐるみを触っていいか聞いたら、黙って頷いてくれた。
何この子。
見た目と中身のギャップが可愛すぎる。
ぼくは絶対この子と仲良くなる。
そう決めた。
こんなにもぼくの興味を掻き立ててくれる人にこれまで出会ったことがない。
昔からある程度のことはそつなくできてた。人の顔色をみるのも得意で、大人が何を求めて何を言いたいのか察していい子を演じるのもできた。
色々言われるよりも、ニコニコして人に嫌われないようにする方が得だ。そう本能的にも理解してる……そんな可愛げのない子供だった。
勉強も人間関係にも困ったことがなかった。
周りから見たら困ったことがない満たされた人に見えてる。
でも……ぼく自身が興味を抱けるものがなかった。
ずっと心の中に空洞があった。
はじめてその空洞が埋まった……そんな気がした。
ぼくの心が彼に惹きつけられる。
彼のことを知りたい。
彼と仲良くなりたい。そう猛烈に感じる。
ぼくが初めて興味を抱けたのは彼だけだった。
ぬいぐるみを触らせてもらいながら、自然にさりげなく自己紹介をしながら彼の名前を聞いてみる。
「あっ……たろうは。」
自分のことをたろうと呼んでる彼にまた俄然興味が湧く。
見た目と中身のギャップがたまらない。
見た目のかっこよさとは正反対に中身はとても可愛らしい男の子なんだろう。
彼と出会ってからぼくのワクワクが止まらない。
「たろうの名前は、中津太郎といいます。」
「中津くん。これからよろしくね。ぼくのことは好きに呼んでね。中津くんのことはなんと呼んでいい?」
彼がぼくのことをなんと呼んでくれるんだろ?
また新たな興味が湧く。
青木くんかな?
流石に凪紬くんはないよね?
なんて思ってワクワクしながら、彼の返事を想像する。
「たろうのことも凪紬くんが好きに呼んでいいよ」
予想を裏切って凪紬くんと呼んでくれたことに、ぼくの方がテンションあがる。
「ありがとう。じゃあたろちゃんと呼ぶね」
さりげなくぼくもたろちゃんと呼んでみたけど、嬉しそうにハニカム笑顔がまた可愛い。
たろちゃんが作ったぬいぐるみにも興味があり、色々質問してたら洋服まで自分で作っていた。
たろちゃんのギャップにぼくの心が止まらない。
心が楽しくてワクワクするってこんな感覚なんだ。
そしたら
「なつくん……このクマちゃんにお友達がいるんだけど、なつくん嫌じゃなければもらってくれる?」
顔に断られるかな?
嫌がられるかな?と不安がいっぱいです。
と書いてある顔でおずおずとぼくに聞いてくるたろちゃん。
お友達のクマちゃんをぼくにくれる?そんなの絶対もらうに決まってる。
ぼくはたろちゃんのこと、すごく気に入った。
こんなギャップがあって可愛い子、目を離すなんて勿体無い。
自然と口角が上がり笑顔になる。
次の日たろちゃんは友達のクマちゃんをぼくにくれた。さっそくそれをたろちゃんと同じようにカバンにつけて、たろちゃんにクマちゃんと同じようにぼくたちも仲良くなりたいとぼくの正直な気持ちを伝えた。
その時のたろちゃんの少し恥ずかしいような、嬉しいような表情。
今でもぼくは忘れてない。
あの笑顔を見た時にこんなにぼくの心を揺さぶる人は、たろちゃん以外いない。
それからたろちゃんとはいつも一緒にいた。
たろちゃんが「本当はたろう明るくて騒がしい性格なの」と言うからもっと素のたろちゃんを見たくなった。
どんなたろちゃんでも知りたい。
ぼくの隣でくったくなく笑う明るいたろちゃんをみるのだけで心が満たされる。
たろちゃんがぼくにだけ心を許してくれて甘えてくれる。
たろちゃんはすぐに「なつく――ん」そう言ってぼくに抱きついてくれる。
たろちゃんが抱きつくのはぼくだけ。
昔からずっと胸にあった空洞。
たろちゃんと出会ってから感じてない。
卒業するまでずっとクマちゃんはたろちゃんとお揃いでカバンにつけてた。
大学のカバンにもつけようとしてたら、たろちゃんが新しいクマちゃんを持ってきてくれた。
「大学用に新しいクマちゃん作ったの。凪紬くんまたもらってくれる?」
これまでのクマちゃんとは違い、洋服も色違いのペアルックになってさらにお互いのクマちゃんを合わせると手を繋いでるようになってる。
「可愛い。ぼくこれ大学につけていく。大学でたろちゃんいなくて寂しいと思ってたけど、クマちゃんがいてくれるから寂しくないね」
「たろうもそう思ってお揃いにしたの」
毎回たろちゃんはぼくの想像を超えてくる。
たろちゃんにずっと惹きつけられてる。
たろちゃんは毎日ぼくの部屋に来て一緒に課題をしたり、たろちゃんはデザインをしたりしてた。
たろちゃんの部屋にはミシンなど作業するスペースもあるから、作業する時は自分の部屋にいく。
ぼくも次にたろちゃんがどんなものを作るのかワクワクするし、たろちゃんが作ったものをみるのが好きだからそんな時は邪魔せず部屋で勉強したりしてる。
けど……最近たろちゃんがおかしい。ぼくの部屋に来ない。
たろちゃんが3日もぼくに抱きついてないなんてありえない。
たろちゃんの部屋に突撃したら、ぼくの課題を心配してのことだったらしい。
ぼくが、たろちゃんいないと寂しいと思ってることを全然理解してなくてぼくも流石に拗ねた。
反対だよ。ぼくはたろちゃんがいなかったら何も楽しくないんだから。
それを理解してないたろちゃん。
たろちゃんがすぐ謝ってくれて抱きついてくれたからささくれだった心も落ち着いた。
ぼくの1番はたろちゃんだって自覚してよねの意味を込めてきちんと「1番はたろちゃんだよ」そう伝えた。
たろちゃん目をまんまるくして嬉しそうに笑ってぼくに抱きついてきた。
「もうこんなことしないでよ」
たろちゃんにはきちんと伝えた。
けど……。
たぶんたろちゃんは気がついてない。
ぼくたろちゃんが1番って伝えてる意味を理解はしてない。
理解してよ!意味分かってよ!
そう言いたくなったけど、ちょっと鈍感かところもたろちゃんの可愛いところだから今はまぁこれでいっか。と思ってる。
どうせぼくとたろちゃんが離れる日なんて来ないしね。

