ドキドキ大作戦


「ただいま——!」

 玄関を開けると、ふわっといい匂いが香ってきた。

 今日の夜ご飯は、たろちゃん特製の唐揚げだな。
 匂いでわかり玄関先でにんまりとする。

 どたどた。バタバタ。

「凪紬くんっ!おかえり!」
 足音と共にたろちゃんが玄関まできてそのままの勢いでぼくに抱きついてきた。

「たろちゃん」
 たろちゃんを抱き止める。

 ぼくの肩に頭を乗せてぐりぐりしてるたろちゃん。


(こんなに甘えたな、たろちゃん最近なかったのに)


 何か起きた?
 たろちゃんが悲しむことあった?

 そう考えたら胸がひやっとなる。

 何も言わずにぼくに抱きついたままのたろちゃん。


「たろちゃん。ぼくまだ靴履いたままだよ。笑」
 背中をトントンと優しく撫でながら、冗談ぽくそう言ってみる。

「あっ、凪紬くんごめん」
 すこぉ——しだけばつの悪そうな顔をしてるたろちゃん。

 靴を脱いで直す。

 カバンを廊下に置いて、たろちゃんの目の前で手を広げる。
 何も言わずに黙って抱きついてくる。

 (何があったの?)

 ここまでたろちゃんがなるのは珍しい。

 (ぼくのたろちゃんを悲しませるの、誰)

 まだ見知らぬ誰かに怒りが湧いてくる。

 しばらくたろちゃんはそのままぼくに抱きついてた。


「凪紬くんごめんね。充電したの」
 そう言ってぼくから離れるたろちゃん。

 顔にはいつもみたいな笑顔はない。


 たろちゃんの手を繋いでそのままリビングに行き、ソファーに座る。

「たろちゃん。ぼくもたろちゃんの充電する」
 そう言って今度はぼくからたろちゃんに抱きついた。

 ぼくが抱きついたら、静かに少しだけ息を吐くたろちゃん。

「たろちゃん今日は唐揚げ作ってくれたんだ。ありがとう」

 そう優しく声をかける。
 黙ってぼく抱きついたまま。

 (ここは、たろちゃんが話すまでまとう)

 シーンとした部屋にぼくのトントンの音だけが響く。


「あのね。今日ね」
 たろちゃんが静かに話し始めた。

「さっちゃんとお友達のお見舞いに行ったの」

 うん。朝からそう言ってた。
 怪我をしたお友達のお見舞いに行くからお見舞いどうしようとたろちゃん悩んでた。

「そこでね……凪紬くんをみたの」

 あっ、お友達の病院ってうちの病院だったんだ。

 今日は実習のために確かに院内にいたな。
 そんなことを考える。

「今日は実習あったから院内いたね。声かけてくれたらよかったのに」
 
 ふるふると首を横にするたろちゃん。

「できなかったの」

 ポツリと聞こえるたろちゃんの声。

「凛として、隣のお友達に色々教えてる凪紬くんみたら、たろう……」
 そう言ってまた黙るたろちゃん。

「凪紬くんが遠く感じたの」


(今日の甘えたさんの理由これなんだ)


 ぼくはたろちゃんからゆっくり離れる。
 そして、たろちゃんの手を握る。

「たろちゃん。ぼくはずっとそばにいるよ。たろちゃんだけだよ」
 たろちゃんが心配になれば、いくらでもぼくがそう伝えるよ。

「うん。わかってる。たろうも分かってるの。でもぉ——」
 恥ずかしそうに下を向くたろちゃん。

 ん?
 首を傾げてたろちゃんの言葉を待つ。

「白衣みたいなのを着た……凪紬が可愛くてたろうドキドキもしたの」
 手を繋いでない方の手で胸を押さえるたろちゃん。

「こんな可愛い凪紬くんがたろうの恋人さんなんだって思ったら夢みたいに感じたの」
 一気にそう言うたろちゃん。

 ぼくの顔はみるみるにやけてしまう。
 
「さっちゃんにもね、たろーなに?惚れ直したの?と言われたの。からかわれたのっ!」

 ぷーっと頬を膨らませる、たろちゃん。

「ふふっ。そっか。たろちゃんはぼくに惚れ直して、心配になったんだ」
 笑いながらたろちゃんの頬をツンツンする。

「だって!凪紬くんが可愛いし、凛としてて綺麗だし、こんな綺麗で可愛い人がお医者さんになったら患者さんみんな凪紬くんの元に集まるもん!」
 真剣な目で話すたろちゃん。

「ふふっ。ありがとう。たろちゃん」
「たろうは、真剣なの」

「うん。わかってる。ぼくがお医者さんになって、みんなにモテたらどうしようと不安になったんだね」
 たろちゃんにそう伝える。

「うん。だって……たろうの凪紬くんなのに」
 すこぉ——しだけ、恥ずかしそうに視線を下に向けて話すたろちゃん。

 (可愛いたろちゃん)

「たろちゃん」
 ぼくの方を向いて欲しくて名前を呼ぶ。

「ぼくはね、何があってもたろちゃんが1番だよ。それだけはずっと変わらないよ」

 
 この秘密はたろちゃんに教えよう。


「それにね、実習の日は大学でもらったクマちゃんをかならずポケットに入れてるんだよ」

 大きな目をもっと大きく見開くたろちゃん。

「だからね、ぼくがそう見えてるとしたらたろちゃんを感じられてるからだよ」
「凪紬くん!」

 ぼくに抱きついてくるたろちゃん。

「たろう!作る!実習のとき用のクマちゃん」
 そう耳元で大きく宣言してくれた。

「うん。楽しみに待ってる」

 たろちゃんは、ぼくから離れて立ち上がった。
 そしてぼくに手を差し出した。

「そうと決まれば凪紬くんご飯を食べて、クマちゃんのデザインしよ!ポケットに入るサイズとか教えて」

 一気にぼくの好きな作業する前のたろちゃんの顔になった。
 ぼくもたろちゃんの手を握り立ち上がる。

「そうだね。たろちゃんの特製唐揚げ食べたい!いい匂いでぼくもお腹ぺこぺこだよ」
 
 2人で笑いながらテーブルに向かう。

 ご飯を食べ終わり、2人でテーブルに向き合う。

 (たろちゃんからのお守り、また増えそう)