ふーっと息を吐いて、ペンを置いた。
静かな部屋にペンを置いた音が響いた。
(ちょっとだけ、休憩しようかな)
椅子から立ち上がり、キッチンに行き、グラスに冷たいコーヒーを注ぐ。
注いだコーヒーを見ながら、これはたろちゃん飲めないな。と思いふふっと笑う。
ぼくは試験前。たろちゃんは発表前。
お互い自分の夢はきちんと追う。
そう決めてるから夕ご飯を食べ終わってたろちゃんは部屋に帰った。
少しでも、たろちゃんの空気を感じたくてリビングで勉強をしてるぼく。
(たろちゃん今頃なにしてるかな?ミシンかけてるかな?)
ミシンに向かう時のたろちゃんを思い浮かべる。
真剣な表情で、布を形に作り上げていくたろちゃん。
普段の可愛いたろちゃんとは違う表情にいつもドキドキする。
たろちゃんに会いたいな。でも締め切り明後日と言ってたから……と考える。
グラスを持ってそのまま椅子に戻る。
たろちゃん連絡して見てもいいかな?
スマホを手にして画面を表示させる。
(あっ……たろちゃん)
たろちゃんからメッセージが届いてる。
たろちゃんのアイコン画面をそっと指で優しく撫でる。
たろちゃんもぼくのこと考えてた?
そう思ったらそれだけでぼくの心は満たされる。
画面をタップする。
『凪紬くんまだ起きてる?』
たろちゃんらしい文面に笑顔になる。
『うん!起きてる!今休憩中』
たろちゃんそっち行っていい?
そう書いた。……でも、指でそっと消す。
(明後日までの我慢)
自分にそう言い聞かせる。
ガチャ……。
ん?玄関から音がする?
そう思った時に、リビングの扉が開いた。
「たろちゃん」
「へへっ。凪紬くん休憩中って。だからきたの」
目の前にはたろちゃん。
たろちゃんは正面の椅子に座るわけでもなく、ぼくの前に来て所在なさげにしてる。
ぼくも椅子から立ち上がった。
そして両手をゆっくり広げた。
「凪紬く――ん!」
勢いよくぼくに抱きついてくるたろちゃん。
(うん。うん。これだよね)
久々の甘えたさんたろちゃんだ。
そのままたろちゃんの手を引いてソファーに行く。
ぼくがソファーに座ったら、たろちゃんもぼくの隣に座る。
そして……。
そのままぼくのお腹あたりに抱きついてきた。
ぼくはたろちゃんの髪の毛をゆっくり撫でる。
「たろちゃんお洋服は?」
「うん。もう少しで完成しそう」
少しだけ言い淀むたろちゃん。
何も言わずに、頭を撫でるのを続ける。
「最後、ここはこうした方がいいかな。こうしたいな。あっ、でもこの方がこの服には合うかな。とかたくさんアイディアが出てきて。紙に書き留めきれなくなっちゃった。そしたら凪紬くんに会いたくなった」
「ふふっ。そうなんだ」
(ぼくに会いたいと思ってくれたことが、嬉しい)
「それでね。凪紬くんが休憩してるって見て我慢できなくなったの」
くるっと向きを変えてぼくの顔を見てくるたろちゃん。
下から見つけられると、たろちゃんの顔かっこいいな。とかまつ毛が長いな。とかそんな感想が出てくる。
「ぼくもちょうどたろちゃんに会いたいって思ってたよ」
たろちゃんの目を見ながらそう伝える。
「へへっ。タイミングバッチリだったね」
嬉しそうに笑うたろちゃん。
「うん。バッチリ」
ぼくのお腹あたりから起き上がって隣に座るたろちゃん。
ぼくの手をゆっくり握ってくる。
「たろうね、凪紬くんがいたら頑張れるの。今もさっきまで頭の中でバーっとアイディア出てきてごちゃっとしてたの。でも凪紬くんとこうしてたら、頭の中です――っと一つになった」
「そっか。じゃあ最後の調整も、もうバッチリだね」
「うん!バッチリ。完成したら見てね」
ぼくの顔を覗き込んでキラキラした目でそう言うたろちゃん。
「もちろん!いつだってぼくがたろちゃんの作品を1番にみるんだよ」
頷きながらたろちゃんにそう伝えた。
ぼくの手を離して立ち上がるたろちゃん。
んー。と伸びをするたろちゃん。
「よしっ!凪紬くんにパワーもらえた。たろうもうちょっと頑張る」
「うん。頑張ってきて。でも無理はしないでね」
「ありがとう。凪紬くんもお勉強無理しないでね」
ぼくもソファーから立ち上がる。
「うん。もう少ししたら今日はもう寝る」
たろちゃんの背中にそっと手を添える。
「頑張れ!たろちゃん!」
そう言いながら少しだけ力を入れて背中を叩いた。
「たろう頑張る!じゃあまた明日」
「うん。また明日」
たろちゃんはそう言ってリビングから出て行った。
たろちゃんの作品どんな感じなのかな?そう考えながらぼくもテーブルに戻って座る。
グラスに入った液体を見る。
会いたいと思ったら会えた。
(いつでも、たろちゃんがいると頑張れる)
よし!ぼくもあと一息頑張ろう。
そう思ってペンを手に取った。



