ドキドキ大作戦


 さっちゃんと生地屋さんに寄った帰り道、新しくできたケーキ屋さんが目に入った。

「さっちゃんあそこに寄ってもいい?」
 ケーキ屋さんを指さして聞いてみる。

「もちのろんよん♪新しいお店だねー」

 さっちゃんもすぐ頷いてくれて、そのまま店内に入る。


 ショーケースに並ぶ数々のケーキたち。

「おいしそう」

 思わず口からこぼれおちる。

 色とりどりのケーキに目移りしそうになる。
 真ん中の段にある艶々したいちごのショートケーキ。

 これだ。

 (凪紬くんも、好きなケーキだ……)

 顔をあげて、スタッフさんにショートケーキを2つ注文する。

「なっちゃん甘いものたべれるの?」
 ショーケースから目を離さずに、聞いてくるさっちゃん。

「あんまり甘いのは苦手だけど、いちごが好きなの」
 さっちゃんがパッと顔をあげる。

「くぅーいいねぇー。なっちゃんのあのビジュアルで甘いもの苦手。なのにイチゴはすき。かわいいねぇー」

 握り拳を作って盛り上がってるさっちゃん。


 2人ともケーキを買って、お店を出る。

 お互いケーキの箱を手に持ちまた歩き出す。
「じゃあ、また明日。たろー、なっちゃんの感想聞かせてねーん」

 さっちゃんはそう言って、隣のホームに行くために階段を登り始めた。



 駅からマンションまでの帰り道。

 左手に握ってるケーキの箱をそっと持ち上げる。
 凪紬くん喜んでくれるかな。どんな味かな。

 箱を見ながら。凪紬くんの喜ぶ顔が頭に浮かぶ。


 (はやく帰ってこれ見せよう!)

 ケーキが揺れないように、気をつけながらすこーしだけ歩みを早める。


 凪紬くんの部屋について、冷蔵庫にケーキをなおす。

「たろちゃん、ただいま――」
 バタバタ。足音が聞こえると思ったら、凪紬くんの声も聞こえてきた。

「凪紬くんおかえり」
 キッチンから顔を出す。


「たろちゃんこれ見て!」
 手に持ってるエコバッグから何かを取り出す凪紬くん。

 そのまま、キッチンまで走ってくる。

 凪紬くんの手にあったのは…。

「カフェオレ?」
「ううん。これを牛乳に混ぜたらカフェオレになるんだって」

 弾んだ声で説明してくれる。

「えぇ。そんなのがあるの?」
凪紬くんから受け取ってパッケージをまじまじと見てみる。

「ね!すごいよね!!これならと思って買ってきた」

 この前、牛乳を買ってコーヒーに入れてみたけど、
 苦くてダメだった。

「うん。これから飲めるかも」
「ね!さっそく試してみよ」

 グラスを2人分用意してる凪紬くん。

「あっ!凪紬くん!たろうもいいもの買ってきた」

 そうだ!と思って冷蔵庫に向かう。
 冷蔵庫をあけて、白い箱を取り出す。

「ケーキ?」
 箱を見て、凪紬くんが聞く。

「うん!新しいお店見つけたの!みてほら!」
 箱をあけて凪紬くんに見せる。

「わぁ――!イチゴ!美味しそう」
 箱を覗き込んで目をキラキラさせてる凪紬くん。

 ぼくは、ケーキを、凪紬くんはカフェオレの準備を始めた。

 トレーに2人分のお皿を乗せて、テーブルに行く。

 テーブルにトレーを置いたら、凪紬くんがぼくに近づいてきた。


「たろちゃん、ただいま」

 凪紬くんがそう言ってぼくに抱きついてきた。
 ぼくも凪紬くんを抱きしめる。

「凪紬くんおかえり」

 この瞬間がいつもすき。


「さっ!食べよ!」

 するっとぼくの体から抜けて椅子に座る凪紬くん。
 ぼくも椅子に座り、2人でいただきますをする。


「飲んでみて」
 凪紬くんがワクワクした目でぼくの手にあるグラスを見てる。

 一口飲んでみる。

「……うん。苦くない。これならたろうも飲めそう」


 あまい、味がする。

 凪紬くんも一口飲んでみてる。

「甘いね。ぼくは、これよりコーヒーの方が好きかも」
 そう言いながら笑う凪紬くん。

 フォークを手にして、ケーキを食べる凪紬くん。

「うん!たろちゃんこれ美味しいよ!生クリームも甘さとイチゴの酸っぱさがバッチリ」
 一口食べて、親指をグッとする凪紬くん。

「たろうも食べる!」
 フォークを手に取り、一口食べた。

「うん。美味しい!」
 凪紬くんに笑顔でそう伝える。

「ね。美味しいね。たろちゃんありがとう」
「凪紬くんもたろうのためにありがとう」

 キョトンとした顔する凪紬くん。

「これ買ってきてくれたの嬉しかった」
 グラスの液体を指差す。

「あぁ!たろちゃんこの前苦くて飲めないと落ち込んでたから」

 その時を思い出したのか、笑い出す凪紬くん。
 少しだけむくれるぼく。

「だって。たろうも凪紬くんと同じ味を飲みたかったんだもん」
 ぼくを見ながら嬉しそうな顔をする凪紬くん。

「そうだね。でも、こんなふうに同じ空間で同じものを食べれてることがぼくは嬉しいよ」
 そう言ってくれる凪紬くん。

 凪紬くんは、少しだけ視線をグラスに落とした。

「だからね、無理して同じの飲まなくてもいいんだよ。でもぼくの好きを知りたいって思ってくれるたろちゃんの気持ちは受け取ってるよ」
 そう言って胸に静かに手を置く凪紬くん。

「うん。たろうも凪紬くんと同じものを感じたかった。でもコーヒーはちょっと大人の味みたい。たろうはこれぐらいがいいみたい」

 そう言ってグラスを手に持ち、カフェオレを一口飲んだ。

 凪紬くんも飲んでる。

「やっぱりぼくには甘えかな。でもなんかこれ、甘さがたろちゃんみたい」
 そんなこと言って笑う凪紬くん。

「えぇ!たろうこんなに甘くないよ!」
「甘いよ。たろちゃんの甘さだと思ったらこれも悪くないね」

 またそう言って一口飲む凪紬くん。

「それにこの甘さだと、いちごの酸っぱさが引き立つね」
 そう言ってケーキを食べる凪紬くん。

 ぼくも同じようにしてみる。
 酸っぱいイチゴが口の中であまさと交わってちょうどいいおいしさになる。

 (なんだか……)
 (ぼくたちみたい)