今日はぼくの方が帰るのが早かった。凪紬くんは遅くなると言ってたのでぼくが夕ご飯を作る。
冷蔵庫の中をみて牛乳がある、とか言いながら頭の中でメニューを組み立てる。
今日はグラタンにしよう!冷凍庫にバゲットがあるし、うん。バッチリだ。
凪紬くんが帰ってくる時間に合わせて完成させていく。
あとはオーブンに入れるだけ。の時に玄関から声が聞こえた。
「たろちゃん。ただいま」
パタパタの足音と共にリビングの扉が開いた。
「凪紬くんおかえり」
グラタンを手に持ってるので、キッチンから声だけかける。
「いい匂い――」
凪紬くんがキッチンに入ってきた。
「今日はグラタンにしたよ。凪紬くんが好きなエビとイカも入れてるよ」
「美味しいそ。楽しみ」
凪紬くんがぼくに近寄ってきた。
グラタンをオーブンに入れてるのをじっとみてる凪紬くん。
オーブンに入れてグラタンを焼き始める。
「たろちゃん。ただいま」
凪紬くんがもう一回そう言った。
ぼくに抱きついてくる。
「うん。おかえり」
ぼくも抱きしめ返す。
「ふふっ。これで明日も頑張れそう」
凪紬くんがそっとぼくから離れてそう言う。
「さっ!お腹すいた。ぼく飲み物とか食器出すね」
凪紬くんがそう言って動き出す。
2人で準備をして、テーブルに座る。
お互い顔を見合わせて「いただきます。」を言ってスプーンを取る。
「そう言えば、さっちゃん髪の色変わったんだね。それに長さも短くなってた」
不意に凪紬くんがそう言った。
「さっちゃん?」
ぼくは首を傾げた。
「うん。今日会った時髪の毛ピンクでボブだったから」
凪紬くんがもぐもぐしながらそう言う。
「あぁ!さっちゃんはその日の服によって髪変えるの。今日のあれはウィッグだよ」
凪紬くんに説明する。
「えっ!?そうなの?青い髪じゃないの?」
グラタンをすくう手を止めてぼくをみてくる。
「うん。青い髪に染めてるけど、その日の服によってピンクだったり赤だったり色々だよ」
「えぇ!ぼくさっちゃん探してたのに」
ガックリという感じで肩を落とす凪紬くん。
「そうなの?」
初めて聞いた話に目が丸くなる。
「うん。駅でさっちゃん見てからどんな子か知りたくて探してたんだ」
ちょっとだけ恥ずかしそうに話す凪紬くん。
頭の中で、その言葉を反芻する。
(あの……キョロキョロしてたのって……)
凪紬くんの行動が今理解できた。
嬉しくなり、ニヤニヤしてしまうぼく。
「もぉ。たろちゃんニヤニヤしすぎ」
凪紬くんにそう言われる。
「ごめん。でも嬉しくって」
「ぼくは、ちょっと恥ずかしい」
照れてる凪紬くん。
スプーンを置いて、凪紬くんに話しかける。
「あのね、たろうあの時凪紬くんが背中押してくれたから、あの大学に行けたの。今楽しいのも、さっちゃんたちに出会えたのも全部凪紬くんのおかげなの」
凪紬くんは、ぼくの顔をみながらスプーンを置いた。
「たろちゃん違うよ。たろちゃんが好きなものを諦めなくて頑張ったからだよ。たろちゃん自身が掴み取った今だよ」
静かに、そうゆっくり言ってくれた。
「……っ。ありがとう」
泣きそうになるのを誤魔化すように下を向く。
「これからも、たろちゃんが迷ったらぼくが背中押す。ぼくはずっとたろちゃんの隣にいるからね」
頭の上から凪紬くんの声が聞こえる。
顔をあげて凪紬くんをみる。
「たろうも!たろうもそうだよ!凪紬くんのそばにずっといる。凪紬くんの背中を押すのはたろうがしたい」
凪紬くんは、ぼくを見て静かに頷いてくれた。
そのあと、口に入れたグラタンはなんだかいつもより熱い気がした。


