ドキドキ大作戦


「たろちゃん!今日ぼく2限からなの」
 朝ごはんを一緒に食べながら凪紬くんがそう口を開いた。

「そうなの?じゃあたろうは、先にいくね」
「ううん。ぼくも一緒に行く」

 パンを口の中に入れながら、ん?という顔を凪紬くんに向ける。

「今日はぼくがたろちゃんを送って行くの」

 ちょっとだけ胸を張ってそう言う凪紬くん。
 楽しいことを見つけた。そんな顔をしてる凪紬くん。

「凪紬くん。なにか企んでる?」
 そう聞いてみた。

「へへっ。バレた?」
「うん。だって面白いこと思いついたって顔してる」

 ぼくがそう言ったら凪紬くんは弾けるような笑顔で声を出して笑う。

「さすがたろちゃん。ぼくのこと分かってるね」
 ぼくに親指をグーっとしてくる。

「凪紬くんのことなら分かるよ」
 ぼくも、親指をグーっとして返す。

「ぼくね!さっちゃんに会いたいの!」
 立ち上がって宣言するようにそう言う凪紬くん。

 ぼくはびっくりして目を大きく見開く。

「さっちゃん?」
「そう!さっちゃん!ぼくのことなっちゃんって呼んでるさっちゃん!」

 ぼくの頭の中はハテナになり首を傾げる。

「たろちゃんのお友達に会ってみたいの!」
 こうなった凪紬くんは、さっちゃんに会うまで諦めない。

「わかった。さっちゃんに連絡してみるね」

 テーブルに置いてあったスマホを手に取り、さっちゃんにメールを送る。

 大学の校門前でさっちゃんを、待ってるぼくたち。
 さっちゃんからは10分遅れるから待っててと連絡が来てる。

 凪紬くんがソワソワしてるのが横にいて分かる。

「凪紬くん。そんなにさっちゃんに会いたいの?」
「うん!会いたいよ!」

 弾けた笑顔をぼくに見せる凪紬くん。

「たろう……。なんだかさっちゃんに、会わせたくなくなってきた」
 目を見開いてびっくりした顔をする凪紬くん。

「えぇ――!なんで?どうして?」
「……だって。なんか……凪紬くん、たろうが隣にいるのにさっちゃんの方がいいみたいなんだもん」

 凪紬くんの方を向いて、ほっぺたを膨らませる。

「もう!たろちゃん可愛い――!ぼくの1番はたろちゃんだけだよ」
 凪紬くんがそう言ってくれて、少し機嫌がなおる。

「たろうも同じ。凪紬くんだ……」

「朝からあつい2人がいるねぇ――!きゃ――!もう聞いてて胸キュンなんですけどぉ。可愛いなっちゃんとかっこいいたろーが校門前でいちゃついてるの最高じゃん」

 ぼくの言葉に被せるように後ろから声が聞こえる。

「さっちゃん」
 振り返ったら両手を頬に添えて「んーこれぞ恋愛の醍醐味」なんて独り言を言ってる。

「さっちゃんどこからきてんの」
 ぼくはそう声をかける。

「ん?まぁ当たり前に校門から来るの面白くないっしょ。なっちゃん初めましてだし、ちょっと驚かそうと思ったら、朝からあま――い会話聞こえてもう最高」

 今日のさっちゃんはピンクのウィッグに淡いオレンジのワンピースを着てる。

「あれ?さっちゃんそれ?」
 ぼくがさっちゃんの服を指差す。

「あっ、これ?なっちゃんが会いたいって言ってくれたから私のお気に入りの新作きてきたの!これ着替えに帰ったからちょっと遅れちゃった。ごめんねぇ」

 さっちゃんがぼくと凪紬くんに手を合わせて謝ってくる。

「凪紬くん、こちらがさっちゃん」
 びっくりした顔をした凪紬くんにさっちゃんを紹介する。

「あっ……初めまして、凪紬です。いつもたろちゃんがお世話になってます」
 さっちゃんに頭を下げる凪紬くん。

「初めまして。沙月です。こちらこそいつもたろーのお世話をしてます」
 そう言って頭を下げるさっちゃん。

 2人とも顔をあげて顔を見合わせて、笑い始める。

「たろちゃんから話を聞いて会いたいと思ってました」
「私も、たろーにずっと会わせてと言ってので、会えて嬉しいです。勝手になっちゃんと呼ばせてもらってます」

「好きに呼んでください。ぼくもさっちゃんと呼んでますし」
 2人とも初めて会ったと思えない。

 ぼくを抜きにしてどんどん話をしてる。


 (なんか……おもしろくない……)


 黙って下を向く。

「たろちゃん?どうしたの?」

 ぼくの様子に気がついた凪紬くんが声をかけてくれる。
 ゆっくり顔をあげる。

 凪紬くんもさっちゃんも怪訝そうな顔をしてる。

「たろー?」
「たろちゃん?」
 黙ってるぼくに2人が呼びかける。

「なんか……いやだ」

 2人とも、ん?なにが?そんな顔をしてる。

「凪紬くんはたろうの凪紬くんなの!さっちゃんでもあげないもん」
 そう言った。


 (あっ……言葉……間違えた)


 そう思った時にはもう遅かった。



 2人とも両手を叩いて大爆笑してる。

「たろー大丈夫。なっちゃんはたろーのなっちゃんなの知ってる。分かってる」
 凪紬くんがぼくの腕をそっと掴んでくれた。

「ぼくの1番はたろちゃん。それはずっと変わんないよ」
 凪紬くんがニコニコした顔でそう言う。

「もぉ――!たろー私にまでヤキモチ妬いてんのウケるんですけどぉ」
「たろちゃんの仲良いお友達だから会いたかったんだよ」

 2人とも口々にそう言う。

 ちょっと恥ずかしくなって黙るぼく。
「でも、たろちゃんがそう言ってくれてぼく嬉しかったよ」
 凪紬くんがそう言う。

「さっちゃん、これからもたろちゃんのことお願いします」
 凪紬くんは、さっちゃんに向き合って、静かに言った。

「はい。任されました。たろーのことしっかり勉強させます」
 ちからこぶを作って凪紬くんにそう言うさっちゃん。

 今度ゆっくりご飯でもなんて話して、凪紬くんは大学に向かった。

 もちろん、講義室でぼくがさっちゃんに言った発言は即座にみんなに伝えられ、みんなからも爆笑されてしまった。