ドキドキ大作戦


 少し待ってたら凪紬くんから電話が来た。

 その声がなんか……いつもと違った。
 凪紬くんの賑やかさがない……。

 静かな……。
 静かすぎる。


 ……声。



 凪紬くんに何かあったのかも。何となくざわつく胸を押さえながら人にぶつからないぐらいの速度で歩く。


 (早く凪紬くんの顔みて……安心したい)


 (凪紬くん……)


 柱のところに立ってる凪紬くん。


 凪紬くんの周りだけ……。

 空気が……少し違った。


 (なんだろ……)


 足が止まった。

 凪紬くんがぼくに気がついてくれ、手をあげてぼくのところまで来てくれた。

 ぼくに向ける笑顔は、いつもの凪紬くんなのに……。
 声と雰囲気だけが違う。

 (なにかが……ちがう……でもたろう上手く……言えない)

 凪紬くんは手に牛乳を持ってて、帰ろうとぼくに静かに言ってきた。
 ぼくは今の雰囲気をどう聞いていいのか分からなくて、頷くしかできなかった。


 いつものように凪紬くんの部屋の前で立ち止まろうとしたら、凪紬くんがそっとぼくの手を掴んだ。
「今日は、たろちゃんの部屋に行きたい」

 ぼくを見つめる凪紬くんの目が、真剣で……思わず息を呑む。


 (クマちゃんある……でも……今の凪紬くん……断るの……)


「じゃあ今日はたろうの部屋にしよっか」
 そう言って、ぼくは部屋の鍵をあけて凪紬くんと部屋に入った。

 2人でリビングに行く。
 凪紬くんが、ぼくの手を引いてソファーに座る。


 そして、ぼくの方に向き合って口を開いた。
「ぼく、たろちゃんに聞きたいことがあるの」

 その目があまりに真剣で、ぼくの胸は早鐘を打ち出した。


(なんか……よくないこと……言われる……気がする)

 怖い。そんな気持ちになる。

 指をぎゅっと握って次の言葉を待った。


「たろちゃん……たろちゃんの、……1番は……」


 凪紬くんは、それで口を1回閉じた。

 (たろう……なに……言われるの?)


 凪紬くんは静かに頷いてまた口を開いた。

「たろうちゃんの1番は……ぼく?」
 そう聞いた。



「たろうの……1番は、凪紬くんだよ」


 ぼくも、凪紬くんに向き合って凪紬くんの目をまっすぐに見て答える。

 凪紬くんは首を少しだけ傾ける。
 凪紬くんのサラサラの髪が少し揺れる。

「ほんと……に?」
「うん。たろうの1番は凪紬くん」

 もう1回、ゆっくり凪紬くんに語りかけるように伝える。

 凪紬くんは、静かに息を吐いた。

「たろうちゃんの1番じゃない日……くる?」
 
ぼくは、ソファーから立ち上がった。

 
 (クマちゃん……まだ……でも……今言う!たろう!)

 
 目を静かに閉じる。

 いまだ。そう頷いて、まっすぐに作業スペースに行く。
 

 凪紬くんに渡すクマちゃんを手に取って、凪紬くんのところに戻っていく。

「凪紬くんこれ」
 凪紬くんの視線はクマちゃんを見つめてる。

「これって……」
 凪紬くんが小さく呟く。

「うん。あのクマちゃん。これを渡してたろう、凪紬くんに気持ちを伝えようと思って……」

 ゆっくり凪紬くんにクマちゃんを渡す。

 凪紬くんは両手で、大事に受け取ってくれる。


「たろうの1番は凪紬くんです。たろうはずっと凪紬くんといたいです。このクマちゃん達みたいに、ずっと隣で手を繋いでいたいです」

 ソファーに座り、凪紬くんの目を見て伝える。

 凪紬くん、クマちゃんをゆっくり抱きしめる。

「……嬉しい。ぼくも、たろちゃんが1番だよ。それはずっと変わらない」
 そうぼくの目を見て言ってくれた。
 
「凪紬くん、たろうの恋人になってください。この1番に名前をつけたいです」

「うん。たろちゃんの恋人にぼくをしてください。ずっとぼくの1番はたろちゃんです」

 お互い言い合って、顔を見合わせてふっと笑う。

「よかったぁ――!たろちゃんの1番がぼくじゃなくなるかと思って不安だったんだ」
 凪紬くんがクマちゃんをしっかり抱きしめながら、笑いながらそんなことを言う。

「えぇぇぇ――!なんで!」
 ぼくはびっくりして立ち上がった。

「だって……」
 凪紬くんが少しだけ視線を下に落とす。

「たろうの1番はずっ――と凪紬くんだよ!たろうびっくりした」

「駅で青い髪の子といるたろちゃんみたんだ。それにさっきも」
 青い髪?
 ああ!さっちゃん。

「さっちゃん!」
「うん。多分さっちゃんだろうと思った。でも……なんだか仲良さそうで、ぼく……たろちゃんの1番がさっちゃんになんじゃ……」

 凪紬くんの言葉をさえぎるように言葉を被せた。

「凪紬くん。ない。それは絶対にないよ」
 一歩だけ、近づく。

 勘違いしてほしくなくて、凪紬くんだけをまっすぐ見つめて口を開く。

「他の誰かが、たろうの一番になることはない」

 一言一言ゆっくり、でもきちんと伝わるように伝える。

「さっちゃんは、たろうと凪紬くんのことを応援してくれてるんだよ。凪紬くんのこと、『なっちゃん』って呼んでるんだよぉ」
 おどけるように凪紬くんに伝える。

「えぇ。そうなの?ぼく、なっちゃんなんだ」
 凪紬くんも笑い出す。

「そーだよ!それに、さっちゃんはたろうが凪紬くん好きなの知ってる。クマちゃん作って告白するの応援してくれてたんだ」
「そっか」

 凪紬くんはクマちゃんの頭を撫でながら短くそう言った。

 少しだけ体をずらして、今日はぼくから凪紬くんにピッタリとくっつく。
 そしてぼくもクマちゃんの頭を撫でる。

「これね、今たろうのも作ってる。凪紬くんとお揃いにしたいと思って」
 凪紬くんが顔をあげてぼくのことを見る。

 その顔が、ぼくの好きなあのひまわりみたいな笑顔に変わった。

「嬉しい!お揃いなんだ。たろちゃんのクマちゃんも完成したら一緒にカバンにつけようね」
 凪紬くんはそう言ってくれた。

「これでぼくの宝物は3つに増えたね。さっ!たろちゃん牛乳買ってきたしカフェオレ作ってみよう」

 凪紬くんはそう言いながらぼくの手を引いて立ち上がった。
 手にはまだ、ぼくが渡したクマちゃんを握ったまま。




「おっ!たろー!クマちゃん!」
 後ろから声かけられる。

 振り返るとさっちゃん。

「さっちゃんおはよ」
「おはよー。いいねぇ。2体で手を繋いでるクマちゃん。かわいいねぇ」
 ぼくのカバンについてるクマちゃんを見てそう言う。

「たろーおめでとう」
 さっちゃんは、そう言って笑ってくれた。

 ぼくのカバンには、手を繋いだクマちゃんが揺れてる。

 ぼくたちみたい。