ドキドキ大作戦


 部屋に帰って来てベッドに座って頭を抱えてる。
 視線の先には、机に置いてあるクマのぬいぐるみ。

 ベッドから立ち上がって、クマちゃんを手に取る。

 ぼくには、ずっっ――と大好きで大切な人がいる。

 大切な人の名前は『凪紬(なつ)くん』

 この前凪紬くんとお互い1番同士だね。
 これからずっと一緒にいようね。
 そう確認した。
 
 (したけど!たろう、大事なことしてない!)
 
 凪紬くんにぼくが1番と言われて
 身体中が嬉しさを駆け回って、ぴやぁぁぁ――と舞い上がってしまった。
 肝心なお付き合いしてくださいを言ってない。


 (なんてこったぁぁぁぁ――!)

  クマちゃんをぎゅっと抱きしめる。

 (たろう!なにしてるんのぉぉぉ――!)

 (たろう凡ミスしてるゾ!)

 クマちゃんの頭をゆっくり撫でながら心の中でツッコミを入れてみる。
 凪紬くんが1番って言ってくれたのに。

 (たろう!告白しろよ!男だろ!)

 こんなチャンスを逃すなんて……。
 クマちゃんも、何してんの!という目でぼくを見てる気がする。

 ぼくが、こんなに明るいキャラクターに戻れてるのは凪紬くんのおかげ。
 明るく自分を出せてるのも全部凪紬くんのおかげ。
 ぼくは凪紬くんと出会ってから本当の自分に戻ることが出来た。
 
 
 ぼくと凪紬くんの出会いは高校の一年の入学式。
 
 昔から可愛いものが大好きで、そのうち自分でぬいぐるみや服を作るようになった。
 自分で絵を描いてその通りに作ることが楽しくてウキウキして自分頭の中で描いてたものが出来上がる。
 その瞬間が、何より好きだった。
 
 小学生の時に友達だと思ってた子から『男なのに可愛いもの好きとかぬいぐるみ作るなんて気持ち悪い』そんな風に言われ、それからみんなにバカにされてきたから中学までは目立たずに本来のたろうの性格を出さずに家以外ではぬいぐみや服を作ってるのことを内緒にして、可愛いものを持つのも我慢して大人しく過ごしてた。
 

 高校は知り合いが1人もいないところを選んだ。
 もう好きなものを好きという気持ちを隠さずにいたかった。

 このままずっと自分の好きなもの我慢したり性格を隠したりするの嫌だ。
 そう思って入学式の時カバンにお気に入りの自作のクマのぬいぐるみを付けて行った。
 

 桜の花びらが風に舞ってヒラヒラしてる中、ぼくはドキドキしながら校門から校舎に入る道を歩いた。

 カバンにつけたクマのぬいぐるみを時々触りながら、大丈夫。大丈夫。と心の中で唱える。
 
 校舎の下駄箱前の掲示板にクラスが張り出されてあり、それを確認して今から一年過ごす教室に向かう。
 

 家を出るまでは、周りの反応なんて気にしないもん。
 好きなものを堂々とつけてるだけだもん。

 なんて言い聞かせながら歩いてきたけど、周りの反応が気になって今はドキドキしてる。

 ここまでは、誰からも何も言われてないしカバンにクマのぬいぐるみをつけても誰からもジロジロ見られてない。

 少しほっとして、教室の中に入り自分の席を見つける。
 
 知り合い同士が話してたり席が隣になった子達が話したりしてざわざわした空気に触れて、ぼくの胸が早鐘を打ち始めた。

 指定された席に行き、カバンを机に置いて椅子に座ろう。そう思うのに、周りの笑い声やざわざわした声にそわそわして座れずに立ちすくんでいた。
 
 そんなぼくに話しかけてくれたのが凪紬くん。
 凪紬くんは、同じクラスでぼくの隣の席だった。
 
 隣の机にきて、ぼくと同じようにカバンを置いてそのままぼくに話しかけてくれた男の子。
 それが凪紬くんだった。

 その男の子は、ぼくのカバンについてるクマのぬいぐるみをみて話しかけてくれた。

「わぁ。可愛いね。これ」

 クマのぬいぐるみを指さして、目をキラキラさせて、ぼくに近づいて話しかけてくれた。

 その子はぼくよりも身長が低くて、目線を合わせるためにちょっとだけ下を向いたらサラサラの茶色のストレートな髪を耳あたりで揃えて切っていて大きな目とすべすべほっぺの印象的な可愛い男の子がそこにはいた。

 それが凪紬くんとの出会いだった。
 
「これ……たろうが作ったんだ」
 
 緊張しながらも褒めてくれたのが嬉しくて、声をかけてくれた男の子にそう伝える。
 大きな目をさらに大きく見開いて驚いた顔をしてる。

 その顔が可愛くてぼくの胸はなんて言われるか不安のドキドキとその男の子の顔が可愛くて見惚れ、両方でドキドキした。
 
「えぇ。君が作ったの?すごいね。触っていい?」
 
 興味津々な顔でそう聞いてくれたのが嬉しくて、胸がいっぱいになって言葉が出なくて黙って頷く。
 
「すごい。可愛いし、上手くできてるし、君器用なんだね。あっ……ぼくぬいぐるみが可愛くてまだ自己紹介もしてなかったね。ぼくの名前は青木凪紬と言います。君の名前を聞いてもいい?」
 

 あおきなつくん。
 心の中でなつくんの名前を何回も呼んでみる。

 
「あっ……たろうは。」
 緊張して上手く言葉が出ないぼくのことを、ん?と優しい笑顔で笑いながら待ってくれる優しいなつくん。
 
「たろうの名前は、中津太郎といいます。」
「中津くん。これからよろしくね。ぼくのことは好きに呼んでね。中津くんのことはなんと呼んでいい?」
 
 首を傾げる凪紬くん。
 凪紬くんが首を傾げたらサラサラっと髪の毛が肩につく。凪紬くんの髪すごくサラサラなのがわかる。

 青木くんじゃなくてなつくんそう呼びたいな。
 そう思って勇気を出して名前で呼んでみる。
 
「たろうのことも凪紬くんが好きに呼んでいいよ」
「ありがとう。じゃあたろちゃんと呼ぶね」

 ぼくが凪紬くんと呼んでもちっとも嫌な顔せずに、ぼくこともたろちゃんと呼ぶねと笑ってくれた凪紬くんの笑顔が夏のひまわりのように明るくて眩しくてたろうは一気に凪紬くんに心を奪われた。
 
「ぼくたち立ったまま話してる。座ろっか。たろちゃん隣同士よろしくね」
 凪紬くんが笑いながらそう言ってくれた。

 凪紬くんがそう言ってくれるまでたろう緊張して、立ったままだったことも忘れてた。
 
 凪紬くんと一緒に椅子に座った。

 凪紬くんが椅子をたろうの机の方に近づけて、話しやすいようにしてくれぬいぐるみもっとみてもいい?と聞いてくれてた。

「この子、クマちゃんって言うの」
 胸が詰まって言葉が出にくい。なんとかそれだけ伝えたら。

「クマちゃん!よろしくね」
 凪紬くんはクマのぬいぐるみを優しく撫でながらそんな風に挨拶をしてくれた。

 (たろうのこともクマちゃんのことも、全然嫌がってない)

 そう思ったら、なんだか涙が出そうになる。
 
 凪紬くんはぼくが作ったクマちゃんに興味を持ってくれたくさん質問してくれた。

「これどうやって作ったの?」
「こんなクマちゃんにしたいなと思ったらまず絵を描いてるの。それからデザイン決めてるの」

「たろちゃん絵も描けるの?すごい!えっ……じゃあもしかしてこの服もたろちゃんが?」
 凪紬くんがすごい。すごい。と褒めてくれるから息が詰まって言葉が出なくなる。
 
 (こんな風に手放して喜んでくれるの……パパとママ以外いなかった)

 凪紬くんはぼくが言葉に詰まっても、急かすことなくゆっくり待ってくれた。
 それでぼくも少しずつ緊張がなくなってスムーズに話せるようになってきた。

 ぼくが洋服もデザインしてクマちゃんに合うよう作ったこと、こんなイメージで作るんだと話すと、凪紬くんはすご――いとびっくししながらも拍手したりと沢山の反応をくれる。

 ぼくは、勇気を出して凪紬くんに聞いた。

「なつくん……このクマちゃんにお友達がいるんだけど、なつくん嫌じゃなければもらってくれる?」

 凪紬くんに伝えた。凪紬くんから返事が来るまでの沈黙が少し怖い。
 凪紬くんはびっくりした顔をした後に目を細めてにっこり笑ってくれた。

「いいの?ぼくにくれるの?嬉しい。たろちゃんのクマちゃんのお友達ぼく大切にするね」

 凪紬くんの声が弾んでて嬉しそうに言ってくれる。

 (なつくん……たろうが作ったのクマちゃんもらってくれるって言ってくれた)

 その事実だけで胸の奥がギュッと握られたように痛くなる。嬉しさで泣きそうになる。
 友達のクマちゃんを大切にするそう言ってくれた。

 そこからぼくと凪紬くんは仲良くなった。
 なんでも話せる友達になった。

 友達と言ってるけど、ぼくにとっては大切な大好きな人。
 
 凪紬くんは次の日クマちゃんのお友達を持っていたら、すぐにカバンにつけてくれて『たろちゃんとお揃いだね。クマちゃんたちみたいにぼくたちも仲良くなりたいな』そんな風に言ってくれた。

 凪紬くんは、ぼくと仲良くなりたいそう言ってくれたのも、ぼくが作ったクマちゃんや洋服をみてもちっとも変な顔せずに褒めてくれるた。
 
 あの日、誰かの顔色をうかがうのをやめられた瞬間だった。

 
 凪紬くんの中学のお友達が凪紬くんのカバンについてるクマちゃんをみつけた。

「青木何つけてんの?クマのぬいぐるみ?」
「そう!これぼくの友達のたろちゃんが作ったんだよ。すごいよね」
「隣に座ってるのが、たろちゃんだよ」

 お友達にそう説明してくれながら、カバンのクマちゃんを友達に見せてくれれた。
 自分で作るってすごくない?手先が器用だし、絵のセンスも必要になるしすごい才能だよね。」

 凪紬くんがそう言ってくれたからお友達もぼくのことをすげぇと言ってくれた。

 誰も男のくせになんて言わなかった。
 
 凪紬くんはいつもニコニコして柔和な雰囲気がピッタリでみんなに優しくて凪紬くんの周りにはいつも人が集まる。

 その凪紬くんがぼくのクマちゃんを「いいでしょ」と言ってみんなに見せてくれた。

 クラスメイトもぼくに『たろちゃん新作できたら見せてね』とか『たろちゃんこんなの作れる?』とか聞いてくれるようになったのも凪紬くんがクマちゃんを見せてくれたから。

 凪紬くんがいたから、最初からクラスのみんなにぼくは可愛いものや洋服やぬいぐるみを作るのが好きだと知ってもらえてた。

 気がついたら、凪紬くんの隣で、ぼくは自分のままでいられるようになっていた。