すれ違っていたのだ、と私は合点した。私と彼女とは、同じ倉庫を使用しながらなんの偶然か顔を合わせる機会を逸していたらしい。私は二つ返事で彼女の頼み事を聞き入れ、二人して倉庫まで戻った。この時、重要だったのは、彼女は何も休憩直前の私を捕まえなくとも良いという点だ。他にもスタッフは大勢いる。いずれも男性ばかりで、中には事務所の掃除係をしていた相方の男もいた。脈絡なく私に声をかけるのは、ちょっと狙っていると思わないだろうか。いや、きっとこんなのは突飛な妄想、妄言の類なのだろう。私はまだ恋人というものを知らない。幼い頃から人との関わりを絶って生きてきたから、たかが手を貸してくれという頼み事でもさえも一人前の男子として頼られているのだと錯覚を起こすのに違いがない。
とにかく、そうして(この文章の羅列には、どうも「とにかく、そうして」が多いように思われるが、これは私の単なる癖であって私自身それほど気にかけていないのだが、どうにも引っ掛かりを覚える者がいたら申し訳ない)、私は建造されて一〇年は経つだろう古い倉庫の、錆に塗れた鍵の取り扱いを教えて、そうして休憩をとるのだった。
阿呆と呼べる人間はそう多くはない。どこかの作家の言葉によれば、本当に何も考えていない人間など存在しないらしい。人は必ず、頭では何かを考えている。考えずにはいられない。どれだけ阿呆そうに映ったとしてもそれはあなたの目に燻みみたいなものがあって、実相を正確に捉えることが出来ていないだけだという話だ。
彼女は言った。
「私、普段何も考えてないんだよね」
これは、嘘。
「よく人に考えろと言われるんです」
これも、嘘。人は多かれ少なかれ考えずにはいられない生き物なのだ。
どこかの国の哲学者は人間を考える葦だと言った、言ってのけた。日本人のとある歌手は、思考を放棄すべきでないと歌詞に書いて歌った。ある学者は、我々ホモ・サピエンスという生き物が地球上で生存競争に打ち勝った原因を、想像力にあると力説した。人とは、元来考えなしに生きられない種類の生き物であるらしい。これによれば、私は愚かな考えに取り憑かれ、物思いに耽り、そして自滅したということになるだろう。先にも書いたが、私はこの手記『愛について』で取り上げているとある実在の女性に好意を持って迫り、敢えなく撃沈する運命を辿った。現存するホモ属の生き残りである我々ホモ・サピエンスが元来持ち合わせている想像力と思考力によって自滅を遂げた。人を三一万五〇〇〇年もの間生かしてきた脳のメカニズムによって破滅を迎えた。やはりこれは、滑稽話ということになるのではないか。
少し脱線気味になっている感があるので、話を元に戻す。
とにかく、そうして(この文章の羅列には、どうも「とにかく、そうして」が多いように思われるが、これは私の単なる癖であって私自身それほど気にかけていないのだが、どうにも引っ掛かりを覚える者がいたら申し訳ない)、私は建造されて一〇年は経つだろう古い倉庫の、錆に塗れた鍵の取り扱いを教えて、そうして休憩をとるのだった。
阿呆と呼べる人間はそう多くはない。どこかの作家の言葉によれば、本当に何も考えていない人間など存在しないらしい。人は必ず、頭では何かを考えている。考えずにはいられない。どれだけ阿呆そうに映ったとしてもそれはあなたの目に燻みみたいなものがあって、実相を正確に捉えることが出来ていないだけだという話だ。
彼女は言った。
「私、普段何も考えてないんだよね」
これは、嘘。
「よく人に考えろと言われるんです」
これも、嘘。人は多かれ少なかれ考えずにはいられない生き物なのだ。
どこかの国の哲学者は人間を考える葦だと言った、言ってのけた。日本人のとある歌手は、思考を放棄すべきでないと歌詞に書いて歌った。ある学者は、我々ホモ・サピエンスという生き物が地球上で生存競争に打ち勝った原因を、想像力にあると力説した。人とは、元来考えなしに生きられない種類の生き物であるらしい。これによれば、私は愚かな考えに取り憑かれ、物思いに耽り、そして自滅したということになるだろう。先にも書いたが、私はこの手記『愛について』で取り上げているとある実在の女性に好意を持って迫り、敢えなく撃沈する運命を辿った。現存するホモ属の生き残りである我々ホモ・サピエンスが元来持ち合わせている想像力と思考力によって自滅を遂げた。人を三一万五〇〇〇年もの間生かしてきた脳のメカニズムによって破滅を迎えた。やはりこれは、滑稽話ということになるのではないか。
少し脱線気味になっている感があるので、話を元に戻す。

