青年の助力もあり、Dは彼の父親によって傷の手当てを受けることができた。父親は痛みのために涙を我慢できない息子に、手厳しい言葉の数々を浴びせて行った。まるであの青年とは正反対である。そんな父子の様子をただ横で座って眺めていた私だったが、ふと畳の間の上に財布が一つ転がっているのを発見した。これをお読みの方には察しがつくだろうが、私の犯した罪の一つはこの財布から金を盗んでいくと言う内容だ。嘘偽りなくここに書き記しておく。泣き叫ぶDと、Dを宥めつつ包帯を巻いていくDの父親。彼らの背後に畳の間があり、偶然にも私はちょっと足を伸ばせばそこまで辿り着くと言う位置にいた。魔が刺したのだ、と言うとなんとも愚かしい言い訳に聞こえるだろう。私は音を立てないようそっと足を一歩、また一歩と進めた。父子は相変わらずこちらに気づかない様子だった。私なんかに構っている暇ではないのだから当然だ。これ幸いと、もはや二人の方に視線も向けず畳の上を行進した。そして使い古された黒い革製の財布を取り上げ、中の紙幣を一枚抜き出した。それが千円札であったのか一万円札であったのか確認もしなかった。その時盗ったのは千円札だった。結果だけ言えばこの窃盗は誰にもばれなかったのだが、もし財布から抜き出したのが千円札ではなく一万円だった場合、Dの父親は私を徹底的に疑ってかかったかもしれない。
心臓が今にも口から飛び出してきそうなほど激しく打ち付けている。足は震えてがくがく言い始め、立っているのがやっとの状態だった。もしDたちに見られていたらと考えるとぞっとする。
まさに一世一代の賭けのような窃盗はうまくいった。うまくいき過ぎてしまったかもしれない。
そこからは、泥棒になって生活を送ったのだった。
私は盗んだ。友人たちから文房具や本などを盗んだ。どれも発覚する危険性がないものばかりだった。私はあれ以来、全て借り物と称して難を逃れると言う術を編み出していた。母親は物を借りると言う行為についてはアレルギーであるかのように反応したものの、盗みを働いてくるよりはましだと思ったのだろう、それほど強く咎めたりはしなかった。
「次に友達に会うときに返しておきなさい」
おおかた、このような文言が出て終了だった。あるいは言うまでもなく、私は増長した。もはや欲しいものは親にねだって買ってもらうのではなく、自らの手を伸ばせば良いのではないかという錯覚に陥った。そしてある夜、眠っている母親の枕元に置いてあった財布から一万円を盗み出し、そして、発覚してしまった。
心臓が今にも口から飛び出してきそうなほど激しく打ち付けている。足は震えてがくがく言い始め、立っているのがやっとの状態だった。もしDたちに見られていたらと考えるとぞっとする。
まさに一世一代の賭けのような窃盗はうまくいった。うまくいき過ぎてしまったかもしれない。
そこからは、泥棒になって生活を送ったのだった。
私は盗んだ。友人たちから文房具や本などを盗んだ。どれも発覚する危険性がないものばかりだった。私はあれ以来、全て借り物と称して難を逃れると言う術を編み出していた。母親は物を借りると言う行為についてはアレルギーであるかのように反応したものの、盗みを働いてくるよりはましだと思ったのだろう、それほど強く咎めたりはしなかった。
「次に友達に会うときに返しておきなさい」
おおかた、このような文言が出て終了だった。あるいは言うまでもなく、私は増長した。もはや欲しいものは親にねだって買ってもらうのではなく、自らの手を伸ばせば良いのではないかという錯覚に陥った。そしてある夜、眠っている母親の枕元に置いてあった財布から一万円を盗み出し、そして、発覚してしまった。

