言うまでもないが、道中の車内は最悪だった。それは二人の間に気まずい沈黙が流れたとか、何らかのアクシデントで私とAが喧嘩をしてしまったとか、そう言う意味ではない。Aの惚気話に相槌を打たなくてはならなかったからだ。彼女は話した。これまでの全てを話した。Cの行動に違和感を覚えつつも、面倒見の良い先輩なんだなと感心していたこと。何度も二人で出かける誘いをしてきたのも、あくまで先輩としてこの職場を楽しんで欲しいがための行動と勘違いしていたこと。そしてついに告白され、彼の真意にそこでようやく気づいたということ。私の知らない間に、事態はずっと早く、大胆に進行していたらしいというのを突きつけられた。いくらか顔が白くなっていたかもしれないし、相槌は下手くその域を超えて泣きべそにすらなっていたもしれない。少なくとも思い返してみて、私はそのように感じている。それでもAが一向に話をやめなかったのは、やはり自らに降りかかった幸運を、誰かに聞いて欲しかったのに相違ない。
「こんな私を好きになってくれる人がいるなんて、驚きでした」
とか。
「あの人といると、楽しいんですよね。その日の予定も全部決めてくれて楽だし、趣味に熱心だし」
とか。
私にもし絵の才能があるなら、ここに一つ、あのときの自分の顔を正確に描写して貼り付けてしまいたい。確かに見たのだ。後続車を確認するふりをしてルームミラーに映り込んだ自分の顔を。取ってつけたような、という、これもやはり手垢にまみれた表現なのだが、とにかくそんな顔があれほど上手くできたのはあの時を置いて他にない。車で移動する間の四〇分間、私はAから耳の痛くなる話をずっとされた。彼女に罪はないし、彼女と付き合うことになったCにも罪はない。誰が悪いと言う話でもないというのは百も承知だが、ここまで酷いこともそうはあるまい。しまいには、ナビゲーションを頼んでいたAが話に夢中になって道を間違えてしまうこともあった。全部で二回。都度都度、私はよっぽどAを怒鳴りつけてやろうかと、感情の昂りを隠せなくなるような場面もあった。しかし耐えた。全ては私の、男としての至らなさが招いた結果でしかないのだ。
「こんな私を好きになってくれる人がいるなんて、驚きでした」
とか。
「あの人といると、楽しいんですよね。その日の予定も全部決めてくれて楽だし、趣味に熱心だし」
とか。
私にもし絵の才能があるなら、ここに一つ、あのときの自分の顔を正確に描写して貼り付けてしまいたい。確かに見たのだ。後続車を確認するふりをしてルームミラーに映り込んだ自分の顔を。取ってつけたような、という、これもやはり手垢にまみれた表現なのだが、とにかくそんな顔があれほど上手くできたのはあの時を置いて他にない。車で移動する間の四〇分間、私はAから耳の痛くなる話をずっとされた。彼女に罪はないし、彼女と付き合うことになったCにも罪はない。誰が悪いと言う話でもないというのは百も承知だが、ここまで酷いこともそうはあるまい。しまいには、ナビゲーションを頼んでいたAが話に夢中になって道を間違えてしまうこともあった。全部で二回。都度都度、私はよっぽどAを怒鳴りつけてやろうかと、感情の昂りを隠せなくなるような場面もあった。しかし耐えた。全ては私の、男としての至らなさが招いた結果でしかないのだ。

