「確かに映画には行けなくなったかもしれないが、それでも博物館には行くことになっている。貴重な休日の、それも夕方までの時間をCと使おうとするところを、私との予定に傾けた。これはまだ、終わったわけではないのではないか」
 思えば思わるるという、摩訶不思議な言説が私の胸中に何度も去来した。世迷言だとはっきりわかっているとしつつも、どこかでそれが世間の実態をよく表した諺なのではなかろうかと信じようとした。まずあり得ないと思われる事象にだって、思わぬ抜け道のような物が隠れている。人の心理というのも、表層だけを掬って類推してみてもわかったものではない。あるいは、もしかしたら、万に一つ、ひょっとすると、実態とは大きな乖離を見せるものである。そうだろう、人間とはわからないものなのだから。私は、信じよう。私が信じたいと思ったものを信じる。これは人にのみなせる技だ、他のどんな動物にだってできる芸当ではない。信じるとは、人間に許された行為であるべきだ。
 そうして私は失恋したのだ。六月一九日、これが失恋記念日になった。