映画から四日ほどが経過した。この頃になると、私の予感は(悪い予感だ)はいよいよ的中する兆しのようなものを見せ始めていた。まず一つには、Aから私に話しかけるという機会が目に見えて減少していた。少し前までは自分の過去の体験談や失敗談を赤裸々に語り、私に対しある種積極的とも呼べる言動を繰り返してきた彼女が、それまでのことが嘘だったかのように話さなくなった。これ以上の深い話は二人きりでないと出来ないのかもしれない、という淡い期待も浮かんだが、事務所で二人になってもAの口は開かなかった。ずっと自分の仕事に集中しているだけである。試しに声をかけてみたが、わずかに微笑んで反応を示すだけで話に広がりがなかった。まさか、と思った。考えうる限り最悪の展開を想像した。
 そこで私はもう一度行動に出てみることに決めた。その日の夕方、仕事の終わった後でそれとなくAと二人になることに成功し、明日の予定がないか訊いた。彼女曰く、予定はないということだった。
「明日の夜に映画に行きませんか、今度こそ」
 思い切って私はそう言った。ここで断られるようだったらもう可能性は残されていない。逆に、ここで提案を受け入れられるのならまだ最悪の未来が決定したわけではないはずだ。破滅を決定的なものにするか否かという、まさに重要な局面だった。
 肝心の彼女は私の提案を受け入れ、翌日に映画に行く運びとなった。私は安堵し、つい口が軽くなって普段の倍喋るようになった。事務所裏手にある休憩所まで彼女に随行し、特にこれと言って用件もないのに入り浸って彼女にくっついた。彼女がいつも、帰りのバスを待つ間にそこで時間を潰しているのは重々承知のことだった。偶然にもその日、休憩所には私とAと二人きりだった。千載一遇のチャンス、とまでは言わないがここを逃す手もあるまい。目一杯饒舌ぶりを発揮し、彼女を笑わせることに躍起になる。次第に彼女も破顔して見せることが多くなる。あれこれと、自分の話をしたがるようになった。私はここでも自惚れた。まだ私にも可能性が残っているのではにないかという、視野狭窄に陥った。
「よければ、車で家まで送りますよ」
 雑談がひとしきり続いた後になって、もう一度提案。Aは「それは悪いですよ」などと言いながら満更でもなさそうだった。
「本当に、良いんですか」
「家に帰っても、やることがないですから」全くの嘘だ。