春風、君を待つ

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大学を卒業し、社会人としての新卒の一年目は、お互いに慣れない業務や新しい環境に戸惑い、肉体的にも精神的にも目まぐるしい日々だった。
けれど、一年が経ち、ようやくお互いの新生活や仕事のペースが安定してきたこともあって、僕たちはごく自然な流れとして、二人で一緒に暮らすこと――「同棲」を始めた 。


二人で不動産屋を回り、いくつか内見をした中で、僕たちはあるアパートの角部屋を選んだ 。
格段に新しくて綺麗だとか、最新の設備が整っているとか、そういうわけでは決してない、ごく一般的なアパートの一室だった 。けれど、この部屋を選ぶのに、僕たち二人は少しの時間もかからなかった 。


なぜならその部屋の大きな窓の外には、見事な枝ぶりの桜の木がそびえ立っていたからだ 。春になれば、満開の桜の花びらが風に舞い、部屋の窓を開けるだけで、あの優しくて少し切ない、暖かさのいっぱい詰まった「春の匂い」をめいっぱいに運んできてくれる――そんな予感が、出会ったあの日の喫茶店の記憶と重なって、僕たちの心を一瞬で奪ったのだった 。


新しく始まる二人だけの生活。窓から吹き込む微かな風を感じながら、僕は隣で楽しそうに荷解きをする澄花の背中を見つめ、これから始まる新しい季節に、静かに胸を躍らせていた。