春風、君を待つ

*
窓から差し込む光が徐々にオレンジ色へと染まり始める。


流石に夕方もなると、午前中あれほど酷かった二日酔いも、心なしか随分と醒めてくるのを感じていた。


頭がはっきりとしてくるにつれて、昼間にやってきたさっきの2人がやたらと気にしていたあの部屋のことが、どうしても頭から離れなくなっていく。吸い寄せられるように廊下を進み、気づけば僕はそのドアの前にぽつんと立っていた。


開けちゃいけない、開けるべきではない。そう頭では何度も自分に言い聞かせ、強く分かっているはずなのに、僕の心は裏腹に「今すぐ開けるべきだ」と激しく訴えかけてくる。


ざわつく胸を抑えながら、ゆっくりと右手を伸ばし、冷たいドアノブにそっと手をかける。
ゴクリと息を呑み、意を決して力を込めた。


ガチャ―


静かな家の中に、重々しい金属音が響く。
開け放たれた部屋の奥に見えたのは、見覚えのある水色のマグカップ、棚に綺麗に収納された旅行雑誌、そして机の上に乱雑に散らかったままの文房具とノートだった。
そして何より、そこにある開けた窓からそよそよと部屋の中に入ってくるのは、優しく、どこか切ない春の匂いだった。
「ああそうか、、。」
僕はすべてを察し、ただ静かにその場に立ち尽くしていた。