僕が君を愛した証

 風弥に会えた日、もも子は夕食後、部屋で手紙を読むことにした。

『しばらく手紙を出せなくてごめんなさい。僕にはあまり自由な時間がありません。
 でも、そんな忙しい生活の中で、こうしてもも子さんと手紙をやり取りするのが、僕には癒しの時間になっています。
 僕は小さい頃から施設で育ち、お世話になった人達の為に今は仕事をしながら生活しています。
 携帯も嫌いで持っていないので手紙しか書けないけど、もも子さんか嫌じゃなければ、続けてくれると嬉しいです。
 もも子さんは、今したいことや行きたいところはありますか?
 僕は同年代の子達がするような遊びをしてみたいです。

 桃瀬 風弥』

 もも子は嬉しくて何度も見返した。
 桃瀬風弥、名前もかっこいいと思った。
 もも子は風弥の顔を思い出しながら、ペンを走らせた。

『桃瀬 風弥様

 お手紙ありがとう。
 風弥君は、忙しい毎日を送っているんですね。
 私はただ学校に行き、勉強しているふりをしてぼーっと過ごしています。
 もし風弥君が隣の席にいたら、私は怒られそうだね。ちゃんと勉強しなさいって。
 私は教室から雲を見ていることが多いかな。雲になって風に流されたいなって、時々思います。
 行きたいところは、遊園地かな。小さい頃に家族で行ったけど、最近は行ってないから。
 風弥君と行けたらいいな…なんて。
 また風弥君に会ったら、今度はもう少し話したいです。』

 もも子は少しだけデートを妄想していた。
 次の日に早速手紙を出した。

 手紙を出してから、風弥からの手紙は一週間返ってこなかった。
 もも子は少し体調が悪くなっていた。母とまた病院に行くことになった。
 血液検査からレントゲン、脳のMRIも撮った。体の痣の数は、太もも、腕、首、小さいのも合わせて十三カ所もあった。結局検査は四時間もかかった。
 赤木先生に呼ばれ、母と二人で診察室に入った。二人とも少し緊張して座った。真剣な顔をした先生がパソコン画面で検査結果を確認している。
「検査の結果ですが、ちょっと内臓機能の動きがよくないみたいです。貧血もひどくなってるのと、筋肉量もだいぶ落ちています。体重も落ちてるね。最近運動はできてたかな?」
「あー、体育は時々休んだりしてました。あとは少し疲れやすかったかも」
 もも子は最近の様子を思い出しながら話した。
「もも子さんは自分で気づいてないけど、頑張り過ぎているから、もう一度入院しましょう。点滴と食事療法で良くなるか、試してみましょう。他の科の先生と一緒に調べていきたいと思ってます。これから入院の手続きをしたいのですが、いいですか?」
 急にまた入院と言われ、もも子は戸惑った。
 母がもも子を心配そうに見る。
 もも子は頷き、明日からにして欲しいと伝えた。入院前に、一度手紙を出したかったのだ。
 先生は承諾し、次の日から入院することになった。

 家に帰り、もも子は勇気を出して書いてみた。一日でいい。一回ゆっくり会って、普通の高校生のデートをしてみたいと願いを込めて書いた。
 手紙を書き終わったのは夜九時になっていた。もも子は母に心配をかけたくなくて、こっそりと家を抜け出すことにした。
 駅に着くと、ハアハアと肩で息をした。ロッカーの前に立ち、大きく深呼吸した。鍵の壊れたロッカーをそっと開ける。
 ギギッ…
 少し錆びた音がする。そこには、黄色の封筒が入っていた。
 もも子はとても嬉しくなった。すぐに封筒を取り、そのままロッカーの前のベンチで読み始めた。

『もも子さんへ

 お手紙ありがとう。
 僕は最近韓国にいました。
 韓国は料理がとてもおいしく、少し食べすぎました。キムチもチヂミも冷麺も、本場は少し辛かったです。
 もも子さんは、韓国料理は好きですか?
 僕はよく、車の窓から外を眺めています。
 空を飛んでいる自由な鳥や、楽しそうな人たちの顔、僕にはないものをみんなが持っているのが羨ましいです。
 僕は時々、今の生活から抜け出したくなります。鳥になって、好きなところを自由に飛べたらどんなに幸せだろうと、毎日思います。
 もも子さんに、一つ僕の願いを聞いてほしいです。』

 もも子は次の文に目を疑った。
 そこに書いてあってのは、
「デート…」
 思わず声に出してしまった。

『僕と、デートしてくれませんか?
 一日だけ自由な日が出来て、もも子さんに会いたいです。
 六月六日、十時に星陵駅で会いましょう。
 待っています。

 桃瀬 風弥』

 もも子は嬉しすぎて何度も読み返した。
 自分で書いた手紙に、自分も会いたいと書いたのを思い出した。
 もも子は急いで自分の手紙を開き、ポケットに入れていたペンを取り出して、最後に書き足した。
 『六月六日、会いましょう』
 便箋を封筒にしまい、ロッカーに手紙を入れた。「風弥君と無事にデートできますように」と願った。
 もも子は夜空に星が輝く下で、スキップで家に帰った。

 六月三日、入院の荷物を持って母と病院へ行った。点滴が始まった。
「先生、いつ退院できる?」
 もも子は巡回に来た赤木先生に不安そうに聞いた。先生は血圧を確認しながら静かに話した。
「そうだなー。貧血が良くなれば通院に変えようと思っているから、数値が良くなれば退院できるよ」
「ね、先生?六日にお出かけしたいの。それまでに帰れる?」
 もも子は少し不安そうに聞いた。先生はもも子の態度に気づき、ニコッと笑った。
「デートかな?」
 もも子はハッとして恥ずかしそうに、「うん」と頷いた。
「それは退院しないとだな。いっぱい食べてよく寝て、少しリハビリも頑張れるかな?」
 もも子は、笑顔で答えた。
「うん、頑張る!先生、私、初めてのデートなの。だから絶対に行きたい」
「よし。それは絶対に行かないとだな」
 デートはもも子の目標になった。