いくつものフラッシュがたかれ、そこは輝かしい場所だった。多くの報道陣が五人を求めていた。
取材が終わると、五人は楽屋に戻った。
「これから十分後に移動してテレビ局に向かいます。リハは二時間ですが、途中に取材二本入ります。本番は二十時から、三番目に歌います。二十時五十分終了後、事務所でライブ打合せです」
ハッシュが結成当初から面倒をみているマネージャの佐々木が大きな声でみんなに伝えた。
ハッシュは今や日本のトップアイドルになった。スカウトで集められたボーイズグループ。ハル、ヒカル、レオ、ジン、ユウタ。それぞれ個人の仕事もあり多忙だ。
五人は急いで着替えて次の現場に移動した。バスの中ではみんなそれぞれの時間を過ごしていた。ユウタが目を瞑ろうとしたとき、佐々木がユウタの横に座ってきた。
「ユウタ、今度ソロ写真集の話が来てる。受けていいよね?」
「あ、はい」
「カメラマンの羽田さんが、ユウタの自然体を撮りたいんだって。ユウタの好きな場所とか思い出の場所とかで撮影したいって。打ち合わせがあるから、その時までに考えといて」
「はい」
ユウタは、仕事は全て受けるようにしていた。みんなに迷惑がかからないように、みんなが求めてくれるユウタを演じていた。
この生活になって五年。アイドルというのは、表では華やかそうに見えているが、実際スケジュールに追われ、自分の意志など通じない世界になっていく。風邪をひいこうが、熱があろうが、足や腰が痛くても、みんなの前に立たなければいけない。休んだら損害が大きいのを知っているからだ。
佐々木がユウタの肩をポンポンと叩き、前の席に移動した。ユウタは外に目を向けた。雨が降り始めていた。
ふと、ユウタは一週間前のことを思い出した。
その日はなにもかもうまくいかなくて、ダンスや歌詞も間違えたり、失敗が多い日だった。少し落ち込み、ロケバスの中から外を見ていた。その日も雨で、ちょうど暗くなってきた時間だった。
東京の少し外れの小さな駅の前で、赤信号で車が止まった。
駅の小さな屋根の下で、赤い傘をさした女子高生が、濡れた子猫を抱っこしてハンカチで体を拭いていた。子猫は震えているようだった。車のライトに照らされて、女の子の顔が見える。長い髪に、前髪は眉ぐらい。優しそうな瞳。雨に濡れた制服。ユウタは一瞬で心を奪われた。とても綺麗な景色だった。
一瞬の光景が、ユウタにはとても大きな存在になっていた。自分には無くなっていた綺麗な心を見た気がした。あれから、その子の顔を何度も思い返した。
ユウタはその子に会いたいと思った。
五月の爽やかな夕日が、空に広がっていた。
その日は制服を着て、プロモーションビデオの撮影だった。彼女役の女優さんからもらった黄色い手紙をそっとリュックにしまうシーンの撮影だった。
撮影が終わり、ユウタは制服のまま車で都内に移動だった。ソロ活動のため、運転する佐々木の助手席にユウタが乗っていた。外はもう暗くなってきていた。
「ここ、見たことある」
ユウタはボソッとつぶやいた。
「前に通ったことあるかも。よく覚えてるね」
佐々木は運転しながら応える。
なんとなく見覚えがあった。
『青陵駅』と書かれた駅の前だった。
ユウタは思い出した。猫を助けていた女の子がいた駅だった。
「佐々木さん、ちょっとここの駅に寄りたいです!」
「じゃ、駅に停めるね」
佐々木は、ユウタの様子を見て驚いた。こんなユウタを見たのは初めてだった。
「佐々木さん、ちょっと待っててください」
そう言うとユウタは眼鏡をつけて車を出た。そして、駅の出入り口に行ってみた。彼女に会えないだろうかと少しだけ期待した。駅の入り口の横に、あまり使われてなさそうなロッカーがあった。ロッカーの前にベンチがある。
ユウタは学生に紛れるように、撮影で使っていたリュックを持っていた。ベンチに座ると、遠くから電車が来るのが見えた。
「あ」
ユウタは撮影で使った手紙を思い出した。何も書いていない手紙。もしあの子に会えたら手紙を渡そうと思い、ペンを探して手紙を書きだした。ふと目の前のロッカーに目をやる。
「よし」
ユウタはちょっと微笑みながらまたペンを走らせた。
電車がホームに入ってきた。明るい車内に目を向けると、電車にあの子がいるのが見えた。
ユウタはハッとし、慌てて手紙を封筒に入れた。急な展開で、とてもドキドキしてきた。
ホームに着いた電車から、人が沢山降りてきた。ユウタはみんなにばれないようにしながらも、あの子の姿を探した。
「いたっ!」
ユウタは思い切って近づいた。そして、トントンと肩を優しく叩いた。
目が合って、ドキッとした。可愛かった。ユウタは慌てて手紙をさっと彼女の前に差し出した。
「あとで、読んで」
彼女は驚いたように、手紙をゆっくり受け取ってくれた。ユウタは慌ててそこから去った。心臓の音が早くなっているのが分かった。
取材が終わると、五人は楽屋に戻った。
「これから十分後に移動してテレビ局に向かいます。リハは二時間ですが、途中に取材二本入ります。本番は二十時から、三番目に歌います。二十時五十分終了後、事務所でライブ打合せです」
ハッシュが結成当初から面倒をみているマネージャの佐々木が大きな声でみんなに伝えた。
ハッシュは今や日本のトップアイドルになった。スカウトで集められたボーイズグループ。ハル、ヒカル、レオ、ジン、ユウタ。それぞれ個人の仕事もあり多忙だ。
五人は急いで着替えて次の現場に移動した。バスの中ではみんなそれぞれの時間を過ごしていた。ユウタが目を瞑ろうとしたとき、佐々木がユウタの横に座ってきた。
「ユウタ、今度ソロ写真集の話が来てる。受けていいよね?」
「あ、はい」
「カメラマンの羽田さんが、ユウタの自然体を撮りたいんだって。ユウタの好きな場所とか思い出の場所とかで撮影したいって。打ち合わせがあるから、その時までに考えといて」
「はい」
ユウタは、仕事は全て受けるようにしていた。みんなに迷惑がかからないように、みんなが求めてくれるユウタを演じていた。
この生活になって五年。アイドルというのは、表では華やかそうに見えているが、実際スケジュールに追われ、自分の意志など通じない世界になっていく。風邪をひいこうが、熱があろうが、足や腰が痛くても、みんなの前に立たなければいけない。休んだら損害が大きいのを知っているからだ。
佐々木がユウタの肩をポンポンと叩き、前の席に移動した。ユウタは外に目を向けた。雨が降り始めていた。
ふと、ユウタは一週間前のことを思い出した。
その日はなにもかもうまくいかなくて、ダンスや歌詞も間違えたり、失敗が多い日だった。少し落ち込み、ロケバスの中から外を見ていた。その日も雨で、ちょうど暗くなってきた時間だった。
東京の少し外れの小さな駅の前で、赤信号で車が止まった。
駅の小さな屋根の下で、赤い傘をさした女子高生が、濡れた子猫を抱っこしてハンカチで体を拭いていた。子猫は震えているようだった。車のライトに照らされて、女の子の顔が見える。長い髪に、前髪は眉ぐらい。優しそうな瞳。雨に濡れた制服。ユウタは一瞬で心を奪われた。とても綺麗な景色だった。
一瞬の光景が、ユウタにはとても大きな存在になっていた。自分には無くなっていた綺麗な心を見た気がした。あれから、その子の顔を何度も思い返した。
ユウタはその子に会いたいと思った。
五月の爽やかな夕日が、空に広がっていた。
その日は制服を着て、プロモーションビデオの撮影だった。彼女役の女優さんからもらった黄色い手紙をそっとリュックにしまうシーンの撮影だった。
撮影が終わり、ユウタは制服のまま車で都内に移動だった。ソロ活動のため、運転する佐々木の助手席にユウタが乗っていた。外はもう暗くなってきていた。
「ここ、見たことある」
ユウタはボソッとつぶやいた。
「前に通ったことあるかも。よく覚えてるね」
佐々木は運転しながら応える。
なんとなく見覚えがあった。
『青陵駅』と書かれた駅の前だった。
ユウタは思い出した。猫を助けていた女の子がいた駅だった。
「佐々木さん、ちょっとここの駅に寄りたいです!」
「じゃ、駅に停めるね」
佐々木は、ユウタの様子を見て驚いた。こんなユウタを見たのは初めてだった。
「佐々木さん、ちょっと待っててください」
そう言うとユウタは眼鏡をつけて車を出た。そして、駅の出入り口に行ってみた。彼女に会えないだろうかと少しだけ期待した。駅の入り口の横に、あまり使われてなさそうなロッカーがあった。ロッカーの前にベンチがある。
ユウタは学生に紛れるように、撮影で使っていたリュックを持っていた。ベンチに座ると、遠くから電車が来るのが見えた。
「あ」
ユウタは撮影で使った手紙を思い出した。何も書いていない手紙。もしあの子に会えたら手紙を渡そうと思い、ペンを探して手紙を書きだした。ふと目の前のロッカーに目をやる。
「よし」
ユウタはちょっと微笑みながらまたペンを走らせた。
電車がホームに入ってきた。明るい車内に目を向けると、電車にあの子がいるのが見えた。
ユウタはハッとし、慌てて手紙を封筒に入れた。急な展開で、とてもドキドキしてきた。
ホームに着いた電車から、人が沢山降りてきた。ユウタはみんなにばれないようにしながらも、あの子の姿を探した。
「いたっ!」
ユウタは思い切って近づいた。そして、トントンと肩を優しく叩いた。
目が合って、ドキッとした。可愛かった。ユウタは慌てて手紙をさっと彼女の前に差し出した。
「あとで、読んで」
彼女は驚いたように、手紙をゆっくり受け取ってくれた。ユウタは慌ててそこから去った。心臓の音が早くなっているのが分かった。
