僕が君を愛した証

 朝、教室では女子が歌番組の話で盛り上がっていた。
 もも子の席は窓際の後ろから二番目で、眺めは最高だった。
「もも子はハッシュ知ってる?」
「え?」
 外を見ていたもも子の前の席に、友達の由夏が座ってきた。
「ハッシュタグティーンてグループの略。知ってる?」
 由夏はキラキラした瞳で携帯電話をいじり、画像をもも子に見せてきた。
「これ、イケメンでしょ?」
 画面には男の子が五人並んでいた。もも子は全然分からなかった。
「うーん、今日テレビ見てみるね」
「絶対見てよ!まじかっこいいから!」
「分かった」
 もも子は由夏の楽しそうな顔を見て微笑んだ。
「あれ?ここどうしたの?痣出来てるよ」
 由夏がもも子の首の右側を指さした。
「え?」
 もも子が手鏡をポケットから取り出し、自分の首を確認した。五百円玉くらいの大きさの黒い痣が出来ていた。そっと右手で痣を触ってみた。傷みはなかった。
「寝てる間にぶつけたかなー」
「もも子はちょっと抜けてるからなー。気をつけてね」
「うん」
 結構大きな痣に、朝から気づかなかったことに少し疑問を感じていた。

 学校の帰り道、電車から降りるとロッカーに向かった。手紙の返事が来ているか、楽しみだった。もも子はロッカーのドアをゆっくり開いた。
 黄色の封筒が入っていた。
 封筒には、『もも子さんへ』と書かれていた。嬉しくて、手紙を胸にかかえて足早に帰った。
 家に着くと、すぐに自分の部屋に行った。椅子に座り、少し手汗がついた手紙をゆっくりと開けてみた。
 黄色が好きなのかな?と思った。

『もも子さんへ
 お返事ありがとうございました。
 急に手紙を渡して、驚かせてごめんなさい。
 僕は17歳の高校二年生です。
 でも、あまり学校には行けていません。
 もも子さんに手紙を書こうと思ったのは、君がきっと心の優しい人なんだろうと思ったからです。
 先日、駅で君が雨で濡れている猫を、助けている姿を見かけました。
 僕には、あの光景がとても眩しく見えたんです。
 あの猫はどうしているか分かりますか?
 僕はもも子さんがどんな人なのか、知りたいです。
 良かったら、また手紙を下さい。
 桃瀬 風弥』
 
 もも子は手紙を読み終わると嬉しさがこみ上げ、すぐに返事が書きたくなった。便箋を取り出し、少し頭の中で整理をして右手を動かした。

 『桃瀬 風弥様
  お手紙ありがとうございました。
  私が猫といるところを見られていたのは、驚きました。
  あの猫は、今は私の家族になりました。
  イチゴと名付けました。元気にしています。
  私も高校二年生です。
  私はどちらかというと楽天的な性格です。
  家族は、父、母、姉、イチゴです。
  私は勉強が得意ではありません。
  趣味は、強いて言うなら空を見ることです。
  特に、雲をずっと眺めていることが大好きです。
  桃瀬さんは、どんなことが好きですか?
  桜井 もも子』

 もう少し書きたかったけど、あまり長い文も嫌がれるかと思い、今回はやめておいた。ひまわり模様の便箋を半分に折って封筒に閉まった。
 封筒の表に『桃瀬 風弥 様』と書いた。

 夕食後、ソファーに座って春菜とテレビを見ていた。歌番組が始まり、もも子は学校での話を思い出した。
 出演者が出てきて、その中にハッシュタグティーンというグループを見つけた。
「春菜はハッシュって知ってるの?」
 もも子が、春菜に聞いた。
「うん、知ってるよ。大人気のグループだよね」
 春菜が当たり前のように応える。
「そうなんだ。私、今日学校で初めて聞いたんだよね」
「まじ?この、ユウタって子がめっちゃイケメンなんだよ」
 テレビには、確かにイケメンの爽やかな男の子が映っていた。茶髪で前髪は少し長め、化粧もしていて肌も綺麗。背も高く、黄色い半袖から出ている二の腕はしっかり筋肉がついている感じだ。
 ユウタが話し始めると、観覧席のファンがキャーキャー騒いでいる。
「新曲もかっこいいんだよ。ダンスもすごく上手でさ」
 春菜が少し身を前にして、楽しそうに話す。
 曲が始まると、五人がバク転をしてユウタの顔が抜かれる。もも子はユウタに衝撃を受けていた。輝くほどの笑顔でパフォーマンスをしている姿が、眩しく見えた。人気の理由が少し分かった気がした。自分とは、住む世界が違うんだろうなと感じていた。