僕が君を愛した証

 あれから風弥は、部屋に閉じこもっていた。ニュースでは、ユウタが体調不良のためしばらく休養すると発表された。
 もう何もやる気が起きなかった。生きている意味がなかった。自分がどうでもよくなった。
 風弥の顔は、何の希望も持たない廃人のようになっていた。変なことをしないか、佐々木は毎日心配になった。
 数日後、春菜から佐々木に、話があると連絡が来た。家に来てもらうようにした。
 佐々木は、ボサボサの髪でスウェット姿の風弥をリビングのソファに誘導した。
 春菜が、風弥の向かいのソファに座る。春菜が風弥を見ても、目は合わなかった。風弥の別人のような姿に、春菜は驚いた。
「春菜ちゃん、来てくれてありがとう」
「こちらこそ、お時間作ってくれて、ありがとうございました」
 春菜がお辞儀をする。
「今日は、どうしたの?」
「もも子のお葬式、無事に終わりました」
「それは良かった。お葬式は行けなくてごめんね」
「いえ、病院で最後に会ってもらえて、もも子喜んでると思います。ありがとうございました」
 佐々木が悲しそうに風弥を見る。風弥は目がうつろで、まったく動かなかった。
「それで、遺品を整理してたら出てきたものがあって」
 春菜がカバンの中から、白い封筒を取り出した。
 風弥が封筒に目を向ける。もも子がいつもロッカーに入れてくれた封筒だった。風弥は目を見開く。
「それって…」
 久しぶりに発した声だった。風弥が春菜と目を合わせる。
「もも子が風弥くんに宛てた、最期の手紙。読んでもらえる?」
 風弥は震えながら手紙を受け取った。
「もも子、風弥くんに会えて楽しい人生だったって言ってたよ。ライブ、かっこよかったって感動して泣いてた。佐々木さん、無理言ってすみませんでした。本当にありがとうございました」
 春菜は2人に深々とお辞儀をした。
「もも子ちゃんがそう言ってくれて、風弥も俺も嬉しいよ。ライブ見に来てくれて良かった。こちらこそありがとう」
 佐々木が春菜にお辞儀する。隣で風弥は、手紙を見つめて泣いていた。

 風弥は部屋で手紙を読むことにした。ベッドに座り、震える手で封筒を開けた。
 風弥は涙でぼやけた視界を拭うように手で涙を拭いた。もも子の字は、力のない感じだったが、一生懸命書いたのが伝わってきた。

『風弥君へ

 もしかしたら、これが最後の手紙になるかもしれない。
 これを風弥君が手にしない未来を期待しながら書くね。
 私は、痣が出来ては消え、消えては出る病気になっちゃったみたいで、先生も原因が分からないんだって。
 風弥君と会っている時、痣が出てたかもしれない。でも、風弥君は私に言わないでくれたのかなって思う。
 私にとって、風弥君と出会ったことが奇跡で、風弥君と過ごした時間は宝物だった。
 私の何もない日常が明るくなって輝いて、毎日楽しくなって、世界が変わった。
 私に手紙をくれてありがとう。声をかけてくれてありがとう。
 風弥君の手紙が来るのが嬉しくて、風弥君に書く手紙を考えるのが楽しくて、ずっと心がドキドキしてた。
 風弥君に会えて、とってもとっても嬉しくて、風弥君をもっと知りたいと思った。
 風弥君の顔も、髪も、手も、声も、全部全部好きになった。
 初めてのデート、緊張したけど最高の一日だった。
 初めての彼氏と遊園地なんて、私は幸せ者だなって思った。
 ジェットコースター、怖かったね。風弥君が手を握ってくれて、とっても嬉しかった。
 あの時撮ったプリクラ、あれから毎日眺めてるよ。
 一緒に乗った観覧車、ずっと時が止まればいいのにって思ってた。
 風弥君との時間が、もっとあればいいのに。風弥君ともっと一緒にいたいって。
 風弥君がユウタだってなんとなく分かってきて、風弥君のすごさにびっくりしたよ。
 忙しいのに手紙を書いてくれてありがとう。忙しいのに時間を作ってくれてありがとう。
 風弥君は、みんなに幸せを与えていて、みんなを笑顔にできる人。
 まるでひまわりのような人。
 風弥君は、みんなに愛されていて、沢山の人から必要とされているから、きっとこれからも忙しいと思うけど、自分をちゃんと愛してあげてね。
 風弥君が嬉しいときは、私も嬉しい。
 風弥君が悲しいときは、私が悲しさを半分もらう。
 風弥君が幸せでいてくれたら、私も幸せ。
 だから、無理は絶対にしないでね。
 私が、もしこの世にいなくなっても、ずっと風弥君を見守ってるよ。
 私が初めて愛した人だから。
 絶対に幸せになって。
 私の分まで、広い世界を見てね。私が出来なかったこと、私が知らないこと、風弥君を通して感じるから。
 生き続けて。
 きっと、大丈夫。
 風弥君は一人じゃない。
 風弥君は風弥君のままでいて。

 桜井もも子は、桃瀬風弥を、世界で一番愛しています』

 手紙を読み終わり、風弥の顔は涙でぐしょぐしょになっていた。


 もも子の手紙を読んだ次の日、風弥は佐々木がいるリビングに顔を出した。
「ユウタ、大丈夫か?」
 風弥の顔はコケていたが、目には光が戻ったように見えた。
「佐々木さん、僕、復帰します」
 佐々木は驚いて目を見開いた。
「お、そうかそうか。すぐ準備に入ろう」
 風弥は真剣に佐々木を見ていた。
「佐々木さん、一つお願いがあるんですけど」