共有させて、ワカハちゃん

(……熱い。まだ、残ってる。指の先、唇の裏、そして鼻腔にこびりついたあの備品倉庫の、埃とワカハさんの匂いが……!)

朝、佐藤は自室の布団の中で、爆発しそうな心臓を必死に抑えていた。昨日の放課後に授けられた、あの「手ほどき」。都会での17年間、女子とまともに目を合わせることすら稀だった自分にとって、それはまさに宇宙創生(ビッグバン)に等しい衝撃だった。

(どうする!? 今日からどういう顔で彼女に会えばいい!? 「昨日は最高だったよ、ワカハちゃん」なんて言ったら即座に事案だし、かといって「やあ、いい天気だね」なんて他人行儀も不自然すぎるだろ! そもそも、あれは『付き合ってください』の承諾だったのか!? それとも、田舎流のディープな挨拶なのか!? ああぁぁぁ!!)

鏡の前で30分かけて寝癖を直し、勝手に「特別な関係」になったつもりで登校した佐藤。だが、教室のドアを開けた瞬間、その高揚感は北風にさらされた洗濯物のように凍りつくことになる。

「あはは! ワカハちゃん、今日も肌ツヤいいじゃん。なんかいいことあった?」
「……そう? 昨日は、よく眠れたからかな」

ワカハは窓際の席で、クラスの男子生徒・田中たちの中心にいた。それだけならまだしも、田中は当然のようにワカハの肩に腕を回し、彼女の豊かなバストが腕に当たるのも気にせず、楽しげに談笑している。ワカハもそれを拒む様子はなく、時折、田中の耳元で何かを囁いてはクスクスと笑っている。

(……は? なに……あれ。昨日、僕にあんなことしたのに。なんで、平気で他の男とあんな距離にいるんだよ!? 昨日のは……僕だけに向けられた特別なものじゃなかったのかよ!?)

佐藤の期待は、朝の光に溶けて虚無へと変わった。