共有させて、ワカハちゃん

林間学校のキャンプ場は、湖のほとりにある鬱蒼とした森の中だった。

「いいか、ここは蚊やブユが多いからな。絶対にジャージの裾を捲るなよ」

教師の権藤が、虫除けスプレーを撒き散らしながら注意を促す。

昼間のプログラムは、驚くほど健全だった。

飯盒炊爨での火おこし、湖畔でのフィールドワーク。ワカハは重い水缶を軽々と運び、カポエイラで鍛えた足腰の強さを見せつけていた。ジャージ越しでも分かる、その太もものしなやかな曲線。動くたびに浮き出る、背中の肩甲骨のライン。

(……あんなに動いて。あんなに健康的なのに。夜になれば、またあの『お返し』が始まるのか……?)

佐藤は知っていた。この林間学校には、教師たちも見て見ぬふりをする「伝統」があることを。

テントのメンバーは夜が更ければ入れ替わり、誰がどのテントにいても、朝までに戻っていれば咎められない。

それは「共有」を文化とするこの村の、年に一度の解放区なのだ。

夕食後の片付け中、ワカハが佐藤の横を通り過ぎる際、小さく囁いた。

「……今夜。……楽しみだね、佐藤くん」

その声は、森のざわめきに紛れて、佐藤の耳の奥にだけ、熱い楔(くさび)のように打ち込まれた。