共有させて、ワカハちゃん

「……嘘だろ。本当に、信号が一つもないのかよ」



佐藤は、東京から持ってきた最新モデルのヘッドホンを首にかけ、泥の跳ねた通学路を歩いていた。親の転勤という身勝手な理由で放り出されたこの村は、彼にとって「退屈」を形にしたような場所だった。視界を遮るビルはなく、あるのは見渡す限りのキャベツ畑と、湿った土の匂い。



(無理だ。一週間も持たない。渋谷の喧騒が恋しい……スタバに行きたい。コンビニまで徒歩30分って、どんな罰ゲームだよ!)



脳内で延々と不満を並べ立てていたその時、耳を劈つんざくような鋭い風切り音が聞こえた。



「——ッ!?」



音のした方、畑の真ん中の空き地に目を向けた佐藤は、息を呑んだ。



紺色のセーラー服。その裾を激しく翻し、一人の少女が舞っていた。逆立ちの状態から、しなやかに、そして凶暴なほど鋭く、片足が空を切り裂く。



(何だ……? ダンス? いや、格闘技か!?)



彼女の動きには、都会的な洗練とは無縁の、野生の美しさがあった。踏み込むたびに地面の泥が舞い、セーラー服の隙間から覗く白い脇や、カポエイラ特有のステップで鍛え上げられた太ももが、朝の光に照らされて眩しく輝いている。



少女は流れるような動作で着地し、乱れた髪を無造作にかき上げた。そして、はぁ、と熱い吐息を漏らしながら、誰もいないはずの空に向かって呟く。



「青嵐あおあらし キャベツの海を 蹴り分けて 君を待つなり ジンガの歩幅」



(短歌……? 今、短歌を詠んだのか、彼女……?)



シュールすぎる光景。だが、その少女の胸元の大きな膨らみが、激しい呼吸に合わせて上下する様から、佐藤は目を逸らすことができなかった。それが、彼と「ワカハ」の、すべてを狂わせる出会いだった。