君と交差点

俺の高校生活は、今のところ平凡すぎる。
体育祭でキャーキャー言われることも、文化祭の後夜祭で告白されることも、部活や生徒会で結果を残すこともない。

高校に入学したころはもっとドラマとか漫画みたいな高校生活が待っていると思っていた。
実際はそんなことはなく、高3になった今、どこへ行っても進路進路で刺激がない。彩りのない俺の人生、このままモノクロが続くのだろうか。

「迷子のお知らせです。3年D組、花谷千冬(はなたにちふゆ)くん。お友達がお待ちです」

教室のドアに同じ部活の神田(かんだ)が立っていた。

「おー神田、早く帰ろうぜ」

カバンを持って神田の元へ走った。

「いやーその事なんだけど、今日お前と帰る予定だったじゃん。ちょっと待たせるかもしれん」
「あ、そうなん?なんかあった?」
「いやーちょっと呼び出されてて……」

と、申し訳なさそうに言う神田。

「お前また告白かよ!」
「ごめん!すぐ戻るから!」

手を合わせて謝っているが、口角が上がっている。新手の嫌がらせだろうか。

「大丈夫だよ。また今度一緒に帰ればいいし!それに呼び出してる人にも悪いし。じゃあな」

そう言って教室を出た。

俺と違って神田は生徒会長をしながらバレー部の部長もしている。そのためとてつもなくモテるのだ。
今までも何回かこういうことがあったから慣れている。
歩いているとスマホが鳴った。

『まじでごめん』

神田から謝罪のメールが届いた。

『大丈夫だよー1年生?』
『うんそう』
『そっかー』

そのまま歩いていると信号に着いた。その瞬間、ブーっとスマホが鳴ったので画面を見ると神田から電話がかかっている。

「もういいのに」

「もしもしー?」
『あ、花谷?ごめんな!』
「いいのいいの、気にしてねぇから!てか、なんて断ったんだよ」
『好きな子いるからごめんねって』
「いや嘘は良くないやろ」
『いや、嘘じゃないんだけど』
「は!?うっそ誰!いつから!」
『B組の佐藤さん。1か月前ぐらいからずっと気になってる』
「早く言えよぉ〜」

好きな人がいた神田に驚きが隠せず盛り上がっていると、信号が青に変わり、人が動き出した。
まぁ、電話終わってから進めばいっか。

『ごめんてー。お前は?』

と、神田に聞かれ、答えようとしたその時、


交差点を渡る1人の人に目を奪われた。


白くてふわっとした肩にフリルが付いているワンピース。黒くて長くてゆるっと巻いた髪。底が薄い靴を履いているが身長は俺よりも少し低いぐらいでスタイルが良い。
スマホから『花谷?おーい。ごめんそんなショックだった?ねぇごめんてー』と、声が聞こえるが頭には入っていない。
何故かはわからない。何故かはわからないけど、その人が見えなくなるまで俺はそこから少しも動けなかった。

「あぁ、ごめん。なんだって?」
『もー、嫌われたかと思ったじゃねぇか』
「一理あるかもな」
『え!マジかよ』
「嘘だよ」

神田と話しながらも、俺はあの人が歩いていった方向を見ていた。

◇◇◇


それから数日、あの人を交差点でよく見かけるようになった。いや、俺が無意識に探しているのかもしれない。
見かけるときはいつも同じ服装、同じ髪型をしている。あの服がお気に入りなのだろうか。それとも何か理由があるのだろうか。
たまに横断歩道で立ち止まり、太陽を見上げて笑っている。本当に映画の中から出てきたみたいな人だ。
見れば見るほど惹かれていってしまった。
目と眉毛が並行で切長で。少し八重歯っぽいのがとても可愛い。そして黒目が小さいのが好きだ。調べたら三白眼というものらしい。

「……?…たに?花谷!」

ハッとして顔を上げるとすごい顔をした神田がいた。

「あぁ、ごめん。なんだっけ」
「もうなんだよぉー。佐藤さん脈アリかもしれねぇって話だよ!」
「あぁそうだったね」
「お前マジでどうした?恋でもしたか?」
「恋…かも」
「は!?ついにお前にも春が!どこの誰だよ!教えろ!」

と、どんどん近づいてくるうるさい神田を振りほどきながら答えた。

「俺もわかんねぇんだよ交差点で見かけるぐらいで」
「てことは…お前一目惚れか!」
「悪いかよ!」
「いいなぁー俺もしてみたかった」
「お前には佐藤さんがいるだろ」
「それとこれとは別」

なんて話しているうちに、

「いつか話せたらな」

という気持ちがどんどん大きくなっていった。