王太子妃になりそこねた公爵令嬢は、我儘をつき通す

結局のところ、クラリッサ・ブランデルウッドは生粋の公爵令嬢なのだ。
甘やかされて育ち、我儘放題。それがすぐに直るわけがない。
そこまでは分かる。
分からないのは、何故ここにいるのか?ということだ。

「……アリスさん、聞いてます?」
「その話は聞かないといけないのか?」
「……聞いてほしいと思ってます」

我儘だという自負はあるせいか、勢いは減った。
だが結果は変わらない。

「聞かされてる」
「……アリスさんは意地悪ですわ」
「そちらは相変わらず我儘ですね」
「アリスさんの敬語って怖いです」
「普通は逆だろう?」
「なんかこう……怨念が籠もってる感じがします」
「……なんだそれ?というか普通に考えて公爵令嬢に敬語は当たり前です」
「もう今更ではありませんか?それに!!」
「……」
「アリスさんは先生ですから!!」
「……それはまだ諦めていないのか……」

気づいてはいた。
お弁当と一緒に必ず教科書とノートを持ってきていた。
そして、昼を食べ終えると目の前でノートを広げ、分からなくなると手を止め、チラチラと見てくる。
無言の圧力だ。
アリステアは無視をした。こちらも敢えて本やら課題やらを持ち込むようにしてやった。

「諦めません!!」
「……そもそもなんで先生が必要なんだよ?」
「十位になるためですわ!」

ぐっと握りこぶしを見せつけてきた。
しかし十位になるには特進クラスよりも成績が良くなくてはいけない。

「無理ではありませんか?」
「そこで敬語は止めてくださいません!?」
「……無理だろ」
「いいえ、十位にならなくてはいけませんの」
「……何のために?」
「もちろん王太子妃になるためですわ!」

アリステアは本格的に、この公爵令嬢が分からなくなった。

「……この間、ベアトリス・ウェクスリーが婚約者だと発表されたばかりでは?」
「ええ!!ですから、それをひっくり返すために十位になりますの!」

どうしてそうなるのか?
さっぱり分からない。
というか、そもそも。

「王太子妃になりたかったのか?」
「……いえ?」

なぜそこで首を傾げて不思議そうにするのか?
ローズピンクの瞳がきらきらしているが、無駄に輝いているだけではないだろうか?

「なりたくないのに、ひっくり返す必要はどこに?」

そう返すと、パチパチと瞬きをした。

「だって、わたくし王太子妃になるべくして生まれたって言われてますの」

(……見えてきた)

「お父様もお兄様も、それから叔父様も」
「……叔父様って」
「ええ、国王陛下ですわ」

(……おい。陛下よ、いくら姪が可愛いからってそれはないだろう)

「それなのに勝手に別の方が婚約者になったんですの。話が違うと思いません?」
「……」

本人は至って真面目だ。
これ以上なく真面目で、アリステアはなんと返すべきか悩んだ。
だが、言えることはひとつ。

「諦めろ」
「嫌です!!」

むぅと唇を尖らせ、その勢いでカリカリとペンを走らせている。

(なんだって……こんなにもあほなんだ……)

呆れてしまう。
だが、それでも努力をしようとしていることは認めるべきなのかもしれない。……いや、アリステアが認める必要はないか。

(まぁ……どうでもいいんだが……)

ひらり、ひらりと、フェアリーブロッサムの花びらが舞う。
淡いピンクの花びらが光を受けきらりと反射した。

(もうすぐ、五月)

定期試験は五月末。
それまでに十位になるなんて、どう考えても無謀だと思う。

公爵令嬢の成績は知らない。
だが、ペンを持つ手がところどころ止まる様子から、おのずと結果は見えてくる。

(……どちらにしても、王太子妃は無理だろう)

アリステアは、ピンクブロンドの頭を眺めながらそう思った。