――夏休みが終わり、学園が始まった。
授業は初日からびっちり。
クラリッサはお昼の鐘が鳴るとすぐに、お弁当と鞄を掴んで、教室を出た。
本当は走りたいところだけれど、淑女は廊下を走らない。
できるだけ早足で歩き、教室棟を出てから走り出した。
中庭は外だ。外なら走っても構わないはず。
いつもの角を曲がってすぐ。
「……いらっしゃらない」
東屋にはアリスさんの姿がない。
急いで来たのだから、クラリッサの方が早くて当然だ。
「なんだか、わたくしだけ会いたいみたいですわ」
不満に思いながら、クラリッサはお弁当を広げる。
久しぶりのサンドイッチ。
片手でもぐもぐしながら、アリスさんが来るのを待つ。
(あ!)
いつものように背を丸めて歩いてくる。
もっさりとした長い黒髪。
全然変わってなくて、嬉しくなる。
「アリスさん!!」
クラリッサはサンドイッチを置いて、駆け出した。
* * *
公爵令嬢がこちらへと駆け寄ってくる。
その勢いの強さに、アリステアは思わず足を止めた。
「お久しぶりですわ」
公爵令嬢が嬉しそうに笑う。
どこかでサマーホワイトの花が光った気がする。
前髪越しでも眩しく感じられ、目を細めた。
* * *
「で、お母様と一緒に蕾の夜のドレスのデザインについて考えましたの」
「……そうか」
「アジサイのような綺麗なのが良くて」
「……?」
「あそこに咲いてた青と紫のアジサイがとても綺麗でしたでしょう?」
「ああ……」
「だから、わたくしああいう感じが良くて」
「蕾の夜なら、白のドレスと決まっているんじゃないか?」
「そうなのです……本当は青か紫のどちらかが良かったのですけど」
「……それなら、卒業パーティーのドレスをそれにすれば。あ、もう決まっているのか?」
「いえ!たぶん、まだだと思いますわ。お母様とお話してみます」
ソフィアと同じくらいの勢いで、公爵令嬢が喋る。
夏休みの出来事を逐一報告され、勉強はどうした、と言いたいのだが、言えない。
(……まぁ、久しぶりだしな)
楽しそうな様子に水を差すのも気が引け、彼女の声に耳を傾ける。
「でも、わたくし今までピンクのドレスばかりでしたの……」
「あ~……」
「それも可愛らしいデザインで」
「……父君か兄君の好みということか?」
「分かりませんけれど、それが似合うからって」
「なるほど」
彼らの気持ちは分からなくはない。
ふわりとした雰囲気の彼女に、可愛らしいドレスはさぞかし似合っているのだろう。
「……やっぱりアジサイのようなドレスは似合わないかしら?」
その視線は、今は咲いていないアジサイに向けられている。
そんなにあれが気に入っていたのだろうか。
確かに綺麗ではあったが。
「似合わないということは、ないと思うが?」
「……そうですの?」
「まぁ、見てみないことには断言できないが」
「あの綺麗な青とか、紫とかですわよ?合うかしら?」
「試しにリボンをその色にしてみたらどうだ?」
「……リボン?」
「ほら、いつも髪を一つにまとめるときに使っているだろう?ピンクのリボン」
「あ……!!そうですわね!」
ポンと嬉しそうに手を叩く。
一つ一つの問題を解決できると、すぐに喜ぶ。単純だ。
「さっそく明日してきますから、ちゃんと見てくださいね?」
「……あ、あぁ」
アリステアは、自分の首を絞めた気がした。
* * *
その日の夜。
「……クラリッサ、貴女何してるの?」
お母様がクラリッサの部屋を訪れ、その惨状に目を丸くしている。
クローゼットや小物入れの中身をすべて引っ張り出しているところだった。
「それがお母様……」
クラリッサはアリスさんと約束したリボンの話をする。
「でも、どんなに探してもピンクか白しかないのです」
「……そうね」
「青と紫が欲しいのに。せめてどっちかでも……」
侍女にも手伝ってもらったというのに、青と紫のリボンがない。
「貴女、自分が何色のリボンを持っていたか知らなかったの?」
「……?ピンクかなぁとは思ってましたけど?」
「お気に入りのリボンはどれ?」
「お気に入り?」
「そう、好きなリボンよ?」
「ええと……これと、これかしら?」
「……」
よく使う二つを見せると、お母様は何故か眉間に皺を寄せた。
「あの?」
「……わたくしも貴女のことをちゃんと見ていなかったのね」
「え?」
「いいえ、なんでもないわ。それより、わたくしのリボンでも良いかしら?」
「お母様、リボンをお持ちですの?」
使っているところを見たことがない。
リボンではなく綺麗な宝石が散りばめられた髪飾りを愛用していた気がする。
けれど、お母様はふふっと口元に指を当てて内緒話をするかのように教えてくださった。
「ええ、わたくし可愛いものが大好きですのよ……あら?貴女は綺麗な方が好きなのよね。好みの物があるといいのだけど」
「青と紫はありますの?」
「ええ。色だけなら大丈夫」
お母様がふわりと笑った。
「お願いします」
「それじゃあ、行きましょう?」
お母様の後に続いて、クラリッサは部屋を出た。
授業は初日からびっちり。
クラリッサはお昼の鐘が鳴るとすぐに、お弁当と鞄を掴んで、教室を出た。
本当は走りたいところだけれど、淑女は廊下を走らない。
できるだけ早足で歩き、教室棟を出てから走り出した。
中庭は外だ。外なら走っても構わないはず。
いつもの角を曲がってすぐ。
「……いらっしゃらない」
東屋にはアリスさんの姿がない。
急いで来たのだから、クラリッサの方が早くて当然だ。
「なんだか、わたくしだけ会いたいみたいですわ」
不満に思いながら、クラリッサはお弁当を広げる。
久しぶりのサンドイッチ。
片手でもぐもぐしながら、アリスさんが来るのを待つ。
(あ!)
いつものように背を丸めて歩いてくる。
もっさりとした長い黒髪。
全然変わってなくて、嬉しくなる。
「アリスさん!!」
クラリッサはサンドイッチを置いて、駆け出した。
* * *
公爵令嬢がこちらへと駆け寄ってくる。
その勢いの強さに、アリステアは思わず足を止めた。
「お久しぶりですわ」
公爵令嬢が嬉しそうに笑う。
どこかでサマーホワイトの花が光った気がする。
前髪越しでも眩しく感じられ、目を細めた。
* * *
「で、お母様と一緒に蕾の夜のドレスのデザインについて考えましたの」
「……そうか」
「アジサイのような綺麗なのが良くて」
「……?」
「あそこに咲いてた青と紫のアジサイがとても綺麗でしたでしょう?」
「ああ……」
「だから、わたくしああいう感じが良くて」
「蕾の夜なら、白のドレスと決まっているんじゃないか?」
「そうなのです……本当は青か紫のどちらかが良かったのですけど」
「……それなら、卒業パーティーのドレスをそれにすれば。あ、もう決まっているのか?」
「いえ!たぶん、まだだと思いますわ。お母様とお話してみます」
ソフィアと同じくらいの勢いで、公爵令嬢が喋る。
夏休みの出来事を逐一報告され、勉強はどうした、と言いたいのだが、言えない。
(……まぁ、久しぶりだしな)
楽しそうな様子に水を差すのも気が引け、彼女の声に耳を傾ける。
「でも、わたくし今までピンクのドレスばかりでしたの……」
「あ~……」
「それも可愛らしいデザインで」
「……父君か兄君の好みということか?」
「分かりませんけれど、それが似合うからって」
「なるほど」
彼らの気持ちは分からなくはない。
ふわりとした雰囲気の彼女に、可愛らしいドレスはさぞかし似合っているのだろう。
「……やっぱりアジサイのようなドレスは似合わないかしら?」
その視線は、今は咲いていないアジサイに向けられている。
そんなにあれが気に入っていたのだろうか。
確かに綺麗ではあったが。
「似合わないということは、ないと思うが?」
「……そうですの?」
「まぁ、見てみないことには断言できないが」
「あの綺麗な青とか、紫とかですわよ?合うかしら?」
「試しにリボンをその色にしてみたらどうだ?」
「……リボン?」
「ほら、いつも髪を一つにまとめるときに使っているだろう?ピンクのリボン」
「あ……!!そうですわね!」
ポンと嬉しそうに手を叩く。
一つ一つの問題を解決できると、すぐに喜ぶ。単純だ。
「さっそく明日してきますから、ちゃんと見てくださいね?」
「……あ、あぁ」
アリステアは、自分の首を絞めた気がした。
* * *
その日の夜。
「……クラリッサ、貴女何してるの?」
お母様がクラリッサの部屋を訪れ、その惨状に目を丸くしている。
クローゼットや小物入れの中身をすべて引っ張り出しているところだった。
「それがお母様……」
クラリッサはアリスさんと約束したリボンの話をする。
「でも、どんなに探してもピンクか白しかないのです」
「……そうね」
「青と紫が欲しいのに。せめてどっちかでも……」
侍女にも手伝ってもらったというのに、青と紫のリボンがない。
「貴女、自分が何色のリボンを持っていたか知らなかったの?」
「……?ピンクかなぁとは思ってましたけど?」
「お気に入りのリボンはどれ?」
「お気に入り?」
「そう、好きなリボンよ?」
「ええと……これと、これかしら?」
「……」
よく使う二つを見せると、お母様は何故か眉間に皺を寄せた。
「あの?」
「……わたくしも貴女のことをちゃんと見ていなかったのね」
「え?」
「いいえ、なんでもないわ。それより、わたくしのリボンでも良いかしら?」
「お母様、リボンをお持ちですの?」
使っているところを見たことがない。
リボンではなく綺麗な宝石が散りばめられた髪飾りを愛用していた気がする。
けれど、お母様はふふっと口元に指を当てて内緒話をするかのように教えてくださった。
「ええ、わたくし可愛いものが大好きですのよ……あら?貴女は綺麗な方が好きなのよね。好みの物があるといいのだけど」
「青と紫はありますの?」
「ええ。色だけなら大丈夫」
お母様がふわりと笑った。
「お願いします」
「それじゃあ、行きましょう?」
お母様の後に続いて、クラリッサは部屋を出た。
