王太子妃になりそこねた公爵令嬢は、我儘をつき通す

「お兄様!!」

アリステアを呼ぶ声と、腹の上に掛かる重み。

サマーホワイトの木の下で寝転がっていたら、ドンとのしかかられた。
領地に戻ってからずっと追いかけ回され、安住の地を求めて外に出たというのに、すぐに見つかる。

「……なんなんだ、お前は」
「お兄様、淑女にそんな話し方はよくありませんわ」

つんと尖らした唇。ませた話し方。
半年会わないうちに、生意気さに拍車がかかっている。

「淑女は人の腹に乗らない」
「だってお兄様が相手してくださらないから」
「フレディー兄様に相手してもらえ」
「まぁ、フレディー兄様はアリ兄様と違ってお忙しいのですよ」
「……」
「お兄様は久しぶりに領地に帰ってきて、それも暇なんですから、妹の相手をするのは当然ですわ!」

ふんと鼻まで鳴らすので、その鼻をつまんでやった。

「……淑女はそんな態度はとらない」

(いや……筆頭公爵令嬢も似たようなものだったか?)

さすがに鼻を鳴らしはしなかったが。

「お兄様は淑女なんてご存知ないのでは?」

どこまでいっても生意気だ。
相手をするのは疲れるが、相手をしないともっと疲れる。
見つかった以上は諦めるしかない。

「で、何の用があったんだ?」
「最初からそう言えばよろしいのに」
「……誰だ、お前をそんなに甘やかしたのは?」
「何をおっしゃってますの?甘やかされているのはお兄様です」
「……言っていることが分からないぞ」
「だって、まだ婚約者がいらっしゃらないではありませんか?」
「……うるさい」
「お兄様がちゃんと顔を出せば、その辺のご令嬢なんてイチコロですのに」

妹の手が前髪に伸び、ぐいっと後ろに引っ張られた。

「イチコロなんて使うな」

小さな手首を持ち上げ、離させる。
ぐしゃぐしゃと前髪を戻した。

「瞬殺ですわ」
「……」
「どうしてお父様もお母様も、フレディー兄様もトム兄様も、アリ兄様のわがままをお許しになるのかしら」
「……わがまま」
「そうでしょう?お兄様はわたくしの為にも、とても素敵な縁組をしてくださらないと」
「……お前のためなのか?」
「勿論ですわ!!わたくし、王子様と結婚したいと思っておりますの」
「……お前も夢見ることができたんだな」
「言っときますけど、白馬に乗った王子様、ではありませんのよ」
「……おい、無理だ。絶対に何があっても無理だ!!」
「分からないじゃありませんの。この可愛さ、可憐さ、そして聡明さ、三拍子そろっているんですのよ!」
「可愛さと可憐さは同じようなものだ、必要なのは家格だ」
「……で、す、か、ら」
「ソフィー、お前はあほだ」
「お兄様、わたくしは本気です!!」
「だから、あほだと言っている」
「ふぅ~、お兄様は我が家で一番頭が良いのに、一番頭が悪いんですわ」
「……あのな」
「手に入るものは手に入れる、その努力を怠ってはいけませんの」

その力強さは、どこかあの公爵令嬢のようだった。

「というわけで」

ソフィアがアリステアの上からどく。
そして小さな手がアリステアに向けられた。

「来年の祈り袋を一緒に選んでくださいませ」
「……母上と一緒に選べばいいのでは?」
「もう!どうしてそうなのですか!!」

ソフィアの手をとると、ぎゅっと強い力で握り返された。

「いいですか、お兄様。王都の洗練された空気を纏ったその手で、わたくしの祈り袋を選んで欲しいのです」
「……テキトーに選べばいいんだな?」
「お兄様、そうやって来年の祈りの実もテキトーに選ぶ気ですわね?」
「どれだって一緒だろ?」
「そういうところです!!」
「……うるさいなぁ」
「淑女に向けて言う言葉ではありません」
「はいはい」
「もう!!わたくしが一緒にいましたら、お兄様の祈りの実もちゃんと選んで差し上げますのに」
「はいはい」
「……お兄様の祈り袋もちゃんと選んで差し上げますわ」

むぅと膨れた頬が、どこか赤くて可笑しくなる。

「今年もソフィーに選んでもらうとするよ」
「ええ、ちゃんと選びますから、ね」

ソフィアと並んで街まで向かう。
その間もお小言は止まることを知らない。

(……相変わらずだな)

街に着くと、ソフィアが勢いよく飛び出しそうになる。
慌てて手に力を入れて止め、注意をしようと口を開きかけたのだが。

楽しそうにキラキラと輝く目。

それが、ローズピンクの瞳を思い起こさせる。

(今頃どうしてるのか……)

本物の淑女は、優雅にお茶でも飲んでいるのかもしれない。