《五人の夏、繋いだ笑顔》
夏休みのある午後二時。
駅前の広場には、
真夏の太陽が容赦なく照りつけていた。
「暑い……暑すぎる……。なんで
夏休みにわざわざ外に集まるのよぉ……」
結衣が日陰を探すように
周囲を見回していると、
向こうから乃愛とひまりが歩いてきた。
「結衣ちゃん、お待たせ」
「おっ、来た来た! 乃愛、ひまり!」
「ふふ。結衣、
さっきからずっと日陰に避難してたよね」
「だって暑いんだもん!
今日、絶対三十五度くらいあるって!」
「天気予報では三十二度だぞ」
背後から聞こえた声に、結衣が振り返る。
「高城くん! いつからいたのよ!」
「今来たとこ。……っていうか、
お前ら三人、相変わらず元気だな」
その隣には琉生もいた。
二人とも午前中のサッカー部を
終えたばかりで、
髪にはまだ少し汗が残っている。
「お疲れ様、琉生くん」
乃愛が嬉しそうに笑う。
「おう。乃愛も待たせたな」
「ううん。全然」
自然に交わされる二人のやり取りを見て、
結衣がニヤッと笑った。
「はいはい、ごちそうさまです。
もう私たちの前で隠す必要ないんだから、
堂々とラブラブしちゃってくださいねー」
「うっ……」
乃愛の顔が一気に赤くなるのを見て、
琉生がツッコむ。
「お前が言うなよ、橘」
「なんでよ!」
「……颯人、お前も大変だな」
「誰のせいだと思ってんだ、琉生」
「俺?」
「お前だよ」
颯人が呆れたようにため息をつく。
そんな二人を見て、ひまりが小さく笑った。
「でも、こうやって
五人で遊ぶのって久しぶりだね」
「そうそう! 今日は思いっきり遊ぶよ!」
結衣が両手を上げる。
「まずは商店街!
それから公園で休憩! 最後にみんなで――」
「お前、今日の予定もう全部決めてんの?」
「当たり前でしょ!」
「……相変わらずだな」
「何よ、その顔!」
五人の笑い声が、夏の午後の駅前に響いた。
それから五人は商店街を歩きながら、
夏休みらしい小さな買い物を楽しんだ。
結衣が気になる雑貨を見つけるたびに
立ち止まり、ひまりがそれを眺め、
颯人が「まだ買うのかよ」と呆れ、
琉生と乃愛がその後ろで笑っている。
買い物を終えた五人が店を出ようとした、
その時。
「ねえねえ、ちょっと待って!」
結衣が店先に並んだキーホルダーを指差した。
小さなニコちゃんマークの下に、
細長いタグがついている。
そこには――
『BEST FRIEND』
と、小さな文字で刻まれていた。
「かわいい……!」
乃愛が目を輝かせる。
「しかも、色違いが五個あるんだよ!」
ピンク、ブルー、イエロー、
ミントグリーン、オレンジ。
半透明なアクリルの五つの笑顔が、
夏の日差しの中でころころと揺れている。
「五人分、ちょうどあるな」
琉生が笑う。
「でしょ? みんなでお揃いにしようよ!」
「いいね。夏休みの思い出になりそう」
ひまりも頷いた。
「私、イエローがいいな」
乃愛がそっと手を伸ばす。
「じゃあ俺、ブルー」
「私はオレンジ!」
結衣が即答する。
「私はピンクにしようかな」
ひまりが微笑み、
残ったミントグリーンを颯人が手に取った。
「……俺、これか」
「高城くん、似合ってるよ」
「……そうかよ」
颯人が照れくさそうに笑う。
お会計を済ませ、五人はそれぞれの
キーホルダーをバッグにしまった。
「二学期になったら、
みんなスクールバッグに付けようね!」
結衣が嬉しそうに言う。
「それ、いいな」
琉生も笑った。
乃愛は袋の中のイエロー色のニコちゃんを
そっと見つめる。
二学期。
この小さな笑顔が、
五人のスクールバッグで揺れる日が、
今から少し楽しみだった。
「じゃあ、クレープ食べに行こー!」
結衣の声に、五人は笑いながら歩き出した。
夏の午後。
五人の手元には、
それぞれ違う色の小さな笑顔があった。
その後、駅前のクレープ店で
それぞれ好きなものを買い、公園へ向かった。
「はぁ~……生き返る~!」
ベンチに座った結衣が、クレープを
頬張りながら幸せそうな声を漏らす。
「結衣ちゃん、
さっきまで暑いって文句言ってたのに」
「甘いものは別腹なの!」
「それ、男子の前で使う言葉か?」
「高城くん、細かい!」
隣で琉生が笑いながらクレープを
食べていると、乃愛がふと、その手元を見た。
「琉生くん、クリームついてるよ」
「え?」
「ここ」
乃愛が指先で自分の頬を示す。
琉生が慌てて拭うと、
結衣がまたニヤニヤし始めた。
「はいはい。青春してますねぇ」
「うるせぇ、橘」
「だって見てて面白いんだもん」
「ふふっ……」
ひまりまで笑い始め、
乃愛は恥ずかしそうに俯いた。
そんな五人のスマートフォンが、
ほぼ同時に震えた。
「ん?」
見ると、結衣が作った五人のグループ
LINEに新しいメッセージが届いている。
【結衣:今日の写真、後でアルバム作ろー!】
【ひまり:いいね】
【颯人:俺の変な顔は載せんなよ】
【結衣:えー、どうしようかな~】
【颯人:おい】
【琉生:俺と乃愛の写真は?】
【結衣:もちろん大量に載せます】
【乃愛:えっ……!】
乃愛の顔が再び赤くなる。
「ちょっと結衣ちゃん……!」
「だって本当のことじゃん!」
「……まあ、俺は別にいいけど」
琉生が笑う。
「琉生くんまで……」
「だって、今日楽しいし」
その言葉に、乃愛はふっと笑った。
学校では毎日顔を合わせていた五人。
けれど、夏休みに入ってしまえば、
それぞれの予定があって、
こうして集まることも簡単ではない。
だからこそ、
今日の時間が少し特別に感じられた。
「ねえ」
ひまりがスマートフォンを見つめながら、
ふと顔を上げる。
「夏休みって、
まだ始まったばかりなんだよね」
「そうだよ!」
結衣が元気よく答える。
「じゃあ、まだまだ遊べるじゃん!」
「宿題もあるけどな」
「颯人、そういう現実的なこと言わない!」
「いや、現実だろ」
「ふふっ」
また笑い声が重なる。
乃愛はその光景を眺めながら、
胸の奥がほんのり温かくなるのを感じていた。
夏休みが始まってから、
琉生に会えない寂しさばかりを考えていた。
けれど――。
こうして友達と笑って、
琉生と一緒に過ごして、
夏休みにはまだたくさんの時間が残っている。
「ねえ、乃愛」
「え?」
「今年の夏、いっぱい思い出作ろうね」
結衣が笑顔で言った。
「うん……!」
乃愛も笑って頷く。
その横で琉生が、
誰にも気づかれないくらいそっと
乃愛の肩に近づき、小さな声で呟いた。
「……俺ともな」
「……うん」
乃愛の頬が、また少しだけ赤くなる。
「おい、琉生。聞こえてんぞ」
「マジかよ、颯人」
「お前ら、ほんっと仲いいな!」
二人の会話に結衣が笑い、
ひまりも楽しそうに笑う。
五人の笑い声が、
蝉の鳴き声と一緒に、
夏の青空へと溶けていった。
まだ始まったばかりの夏休み。
五人の関係も、
それぞれの胸に芽生えた想いも――。
この夏を通して、少しずつ
次の季節へ向かっていくのだった——。

