《親友の特権、秘密の白状》
男子の赤組テントの裏側。
競技を終えた男子たちが騒がしく
ポカリスエットを飲んでいる。
俺は体操服の胸元を
パタパタと仰ぎながら、
まだ顔の熱が引かない様子で戻ってくる。
ベンチに腰掛けていた高城颯人が、
スクイズボトルを片手に
ニヤニヤしながら立ち上がる。
「――お前、
まじで直球すぎて最高に面白いわ。
朝のハチマキのメッセージより、
よっぽど雑で直球じゃん」
ベンチの影からすっと現れた颯人が、
お腹を抱えてまじで楽しそうに
大爆笑しながら俺の前に立ちはだかった。
その涼しげな瞳の奥は、
完全に俺をからかい尽くす光で満ちている。
「うるせぇ颯人! まじで黙れ!!」
俺はグラウンドで何千人の前を
激走したときより大きな声を出して、
一瞬で耳たぶまで真っ赤に染め上げながら
颯人の肩を小突き返した。
「ほら、お前がでかい声で笑うから、
周りの奴らがこっち見てんだろっ!?」
大慌てで周囲を見渡すと、
サッカー部のチームメイトたちが
「羽瀬、お前お題何だったんだよー?」
「白石さん連れてくるとかまじ男見せたな!」
とニヤニヤしながらこっちを覗き込んでいる。
「お、男見せたとかじゃねぇよ!
走ってる最中にチラッと見たから、
俺がガチで勘違いしただけだよ!」
俺はお題が書かれた紙を慌てて
ポケットの奥深くへとねじ込み、
わざとらしく周囲の人にだけ
聞こえる大きな声を出した。
「『隣にいてほしい人』って
書いてあったのを、一瞬で『隣の席の人』
って見間違えたんだよ!
あー焦った、文字がゴチャゴチャしてて
紛らわしいんだって!」
「なんだよ羽瀬、見間違いかよ!
まじで付き合ってんのかと思って
勘違いしちゃったじゃん!」
チームメイトたちが
「もー、羽瀬くん紛らわしい!」と
爆笑しながら離れていくのを見届けて、
俺は大きく肩をなでおろした。
だけど、隣に立つ颯人の目は、
これっぽっちも騙されていなかった。
「誰も気にしてねぇよ。
お前が全校生徒の前で
『俺の隣はお前じゃなきゃだめなんだ!』
って叫んで腕引っ張ってった瞬間、
このグラウンドの全視線が
お前らに釘付けだったからな。
……カードの見間違いなんて、
よくそんな苦しい言い訳とっさに
思いついたな?」
「う……っ」
「今さら隠しても遅ぇよ。
お前のあの本気の目、
白石さんじゃなくてもビビるわ」
颯人は「はいはい」と呆れたように
笑いながら、スクイズボトルを
俺の胸元にぽんと押し付けてきた。
「ほら、飲め。
必死に走りすぎて喉カラカラだろ」
「……おう、サンキュー」
冷たいドリンクを喉に流し込む。
あいつの言う通り、
俺の心臓はさっきからグラウンドの
シャトルランより激しくドクドクと
暴れ狂っていて、
冷たい水分がまじで骨身に染みた。
「……それで? ちゃんと一位取れて、
白石さんにお題の答え合わせはしたのか?」
颯人がベンチに再び腰掛け、
少し声を潜めて聞いてくる。
相棒のその真っ直ぐな眼差しに、
俺はドリンクのボトルを握りしめたまま、
ぶっきらぼうに視線を落とした。
「……いや。ゴールした後に
白石さんに『お題、何が書いてあったの?』
ってあのポニーテール揺らしながら
下から覗き込まれてさ。
……まじで可愛すぎて
その場でキャパオーバーしたから、
片手で口元隠して『内緒、今は言えねぇ』
って逃げてきた」
「は⁉ お前まじでヘタレの極みだな!」
颯人がまた声を上げて
ベンチを叩いて笑い転げる。
「全校生徒の前で
あれだけ格好よく引っ張っておいて、
本人の前で『内緒』とか、
お前どれだけ余裕ねぇんだよ」
「うるっせぇなぁ!
しょうがねぇだろ、学校の中だし、
みんな見てるし……。
でも、今日の夜、LINEで
絶対に教えてやるから楽しみにしてて、
って……ちゃんと耳元で約束してきたわ」
俺は体操服のポケットの奥に
大切に仕舞い込んだ、あのクシャクシャの
白いお題の紙にそっと触れた。
颯人は少しだけ声を落とし、
俺にしか聞こえないトーンで
ニヤリと片眉を上げた。
「で?実際、その紙には
何て書いてあったんだよ。
応援してやってんだから俺にくらい白状しろ」
「――ッ」
逃げ道を完全に塞がれ、
俺は降参したようにガシガシと頭をかいた。
「……『隣にいてほしい、特別な人』だよ」
「ぶはっ、まじかよ!」
「笑うな! だから『隣の席の人』
って誤魔化したんだよ!
あんなの周りにバレたら
大騒ぎになるだろっ!?」
俺のそんな様子を見て、
颯人は笑うのをやめると、
本当に嬉しそうに、でも少し
呆れたようにフッと口元を緩めた。
俺の肩を力強くぽんと叩く。
「いいじゃん、最高。
夜のLINEまで『内緒』を
大事に持って帰れよ。
お前が白石さんの前だと
一ミリも格好つけられないの、
見ててまじで飽きねぇわ」
「……お前、本当に楽しんでるだろ」
「おう、めちゃくちゃ楽しい。
……ほら、次はいよいよ
最後の男子リレーだぞ。
赤組、今同点だからな。
最後お前がブチ抜いて、完全優勝決めるぞ」
颯人がニヤリと笑って、
俺の目の前に拳を突き出してくる。
「――当たり前だろ。
バトン、絶対トップで持ってこいよ」
俺も不敵に笑い返して、颯人の拳に、
自分の拳をガツンと力強くぶつけ合った。
言葉にしなくたって、
お互いに次の一歩を支え合っている
絶対的な相棒の信頼感。
この最高の相棒が俺の後ろを
走ってくれている安心感を胸に、
俺は次の最終競技へ向けて、
自分のスパイクの紐をキッと結び直した——。
