隣の席のキミとひみつの合図   ~強い絆と恋の付箋。どれだけ離れても、君にだけ届く想いがある~


《放課後の部室、男子の恋バナ》
西日が差し込む放課後の部室。


部活後のむっとした熱気の中、
他の部員たちが「お疲れ!」
と次々に帰っていく。


着替えを終えた副キャプテンの颯人が、
スポーツバッグを肩にかけながら、
まだ熱心にスマホを眺めている琉生の頭を、
丸めたタオルで軽く叩いた。


「おい琉生、
いつまでニヤついてんだよ。
早く着替えて鍵閉めろ」


「って、てめ……ニヤついてねぇわ。
……あ、これ。昨日のデートのお土産。
乃愛から、お前にって」


琉生がバッグの底から取り出したのは、
お洒落にラッピングされた
小さなクッキーの袋だった。


颯人はそれを片手で受け取ると、
片眉を上げてフッと不敵に笑う。


「へぇ、白石さんから?
……お前、俺が教えたカフェ、
本当に行ったんだな」


「おう。おかげさまでな。
……つーか、元はと言えばお前が
『テスト赤点だったら次の遠征外す』
とか脅して、図書館で勉強しろって
言ってきたからだろ」


「あ? 誰が赤点寸前で
俺に泣きついてきたと思ってんだよ。
『なんで俺が?』って言いながら、
付き合ってやった俺の優しさに感謝しろ」


颯人は長机に腰掛け、
スポーツバッグをドサリと置いた。


「で? 土曜の図書館デート、
どうだったんだよ。
待ち合わせの時計台で、
チキらずにちゃんと喋れたか?」


「喋れたわ。……っていうかさ、
待ち合わせの時計台に着いた時、
乃愛が先に待ってたんだけど。

近くにいた男子に
声をかけられそうになってて」


「マジか。で、お前はどうしたんだよ」


「……別に、乃愛の頭にポンって
手を置いて『悪い、待たせた』
って自然に間に入って助けただけだよ」


「へぇ、やるじゃん((笑))。
いつもはボケッとしてるくせに、
そういう時だけは視野が広いわけだ」


「うるせぇよ。でも、そのあと、
ちゃんと白石さんの私服を見たらさ
……桜色のブラウスに、
アイボリーのスカート穿いてて、
髪型もハーフアップってやつにしてて」


琉生は思い出したように、
手元のタオルをぎゅっと握りしめる。


「あまりに可愛すぎて、
『反則、まともに見れねぇ』って
口走っちゃってさ。

そしたら、乃愛も顔真っ赤にして、
『羽瀬くんもかっこいいです』って……」


「はいはい、ごちそうさま。
お前ら最初からクライマックスだな」


颯人は呆れたように息を吐きながらも、
その目はどこか楽しそうに、
親友の報告を待っている。


「で、肝心の勉強はどうだったんだよ。
俺の教え方が良かったから、
白石さんに良いとこ見せられたんだろ?」


「あぁ。乃愛が教えてくれたのも
分かりやすかったし。
……っていうかさ、お昼に乃愛が、
手作りのお弁当持ってきてくれたんだよ」


「マジか。お前にはもったいねぇな」


「美味すぎて『最高のご褒美じゃん』
って本気で言ったわ。
……で、帰りに例のカフェ行ったんだよ。
ココア頼んだらさ、
セットで猫の形のクッキーがついてきて」


琉生は身を乗り出し、少し早口になる。


「乃愛がそれ見て『茶トラに似てる!』
って大喜びしてさ。
その姿がマジで可愛くて、
思わずスマホで写真撮ったんだよ。

そしたら照れながら
『私も羽瀬くんの写真ほしい』って言われて、
俺も同じポーズで写真撮られた」


「待て」


颯人が片手を上げて琉生を遮り、吹き出す。


「お前、ココア持って猫クッキー
並べて写真撮られたのか?
あのクール気取ってる琉生くんが?」


「うるせぇ! 乃愛に頼まれたら
断れるわけねぇだろ!」


顔を真っ赤にして怒る琉生。


颯人は「くくっ」と喉を鳴らして笑う。


さすがサッカー部の守護神、
琉生の扱い方を完全に熟知している。


「まぁ、お前のキャラ崩壊は置いといて。
そこからどうやって進展したんだよ。
お前、まだ付き合ってねぇんだろ?」


颯人の鋭いパス(問い詰め)に、
琉生は一瞬言葉を詰まらせ、
そっぽを向いた。


首筋まで真っ赤にしながら、
ぼそぼそと話し始める。


「……カフェ出て、
駅までの並木道歩いてる時にさ。
乃愛が急に立ち止まって、
服の袖引っ張りながら言ってきたんだよ。
『寂しいな』って。
……『また一緒にお出かけできたら嬉しい』って」


颯人は無言で先を促す。


ゲームの流れを読む時と同じ、
真剣な目つきだ。


「……あんなの、
我慢できるわけねぇだろ。
だから俺、もう格好つけるのやめて、
全部本音で言った。

『俺もめちゃくちゃ寂しい、
ずっと手繋ぎたかった』って」


「ほう、言うじゃん」


「そんで、そのまま手取って、恋人繋ぎした」


「やったな、琉生!!」


颯人は満足そうに頷き、
ポンと琉生の肩を叩いた。


「キーパーの俺でも止められない、
ナイスシュートだな。
白石さん、どんな反応だった?」


「耳まで真っ赤にして、
でも嬉しそうに、
ぎゅって握り返してくれたんだ。


まだ付き合ってはないけど
……近いうちに、絶対ちゃんと告白する」


「当たり前だろ。
そこまで行って日和ったら、
マジで次の遠征干すからな。

……あ、そういや昨日の夜のLINEは?
変化なし?」


颯人がニヤリと笑うと、
琉生は少し照れくさそうに
スマホ画面を見つめた。


「……いや。
いつもは名字呼びだったんだけどさ。
夜の最後のLINEで『おやすみ乃愛』
って送ったら、
あいつも『おやすみなさい琉生くん』
って……名前で、返してきた」


「ひゅ〜〜、進展しまくりじゃん。
……ってか、文字だけ名前呼びとか、
お前まじで確信犯すぎて引くわ」


「うるせぇ、わざとじゃねぇよ!」


顔を真っ赤にして言い返す琉生を見て、
颯人はフッと表情を和らげ、
少し真面目なトーンで言葉を紡いだ。


「――まぁ、焦らなくていいからさ、
その白石さんへの真っ直ぐな気持ち、
ずっと大事にしろよ。
次の体育祭でも、リレーでも、
お前が格好いいとこ見せるの、
俺が一番近くでサポートしてやるから」


「……おう。颯人、まじでありがとな」


琉生が噛み締めるように言うと、
颯人はバッグを掴んで立ち上がり、
照れ隠しのようにニヤニヤしながら
部室のドアへ向かった。


「ふん、感謝するなら次の試合と体育祭、
死ぬ気で走れよ。
……次は、お前の惚気じゃなくて
『付き合いました』って報告、
楽しみにしてるからな」


「あぁ、分かってる。
……あと、次は颯人の恋愛相談、
俺が絶対に乗るからな。いつでも頼れよ」


「は? 俺を誰だと思ってんだよ。
周りを見るのが俺の仕事。
お前と違って、
恋愛でパニックになったりしねぇわ」


口の悪い、だけど最高に
頼もしい相棒の言葉に、琉生は笑った。


「まぁ、その時が来たらな」


言い合いながら、
二人は夕陽に染まる部室の鍵を閉め、
並んで歩き出した——。