隣の席のキミとひみつの合図   ~強い絆と恋の付箋。どれだけ離れても、君にだけ届く想いがある~


《親友プロデュース、恋する勝負服!》
月曜日の放課後。
賑やかな駅前のショッピングモール。


パステルカラーのブラウスや
チェックスカートが並ぶお洒落なショップ。


結衣が次々と
お洋服を抱えて乃愛に押し付け、
ひまりが目を光らせて冷静に吟味している。


「――よし!
今日は乃愛の『最高に可愛い』を
私たちが一二〇パーセント
引き出してあげるからね!」


放課後のチャイムが鳴ると同時、
私は結衣とひまりに
両脇を抱えられるようにして、
駅ビルのお洋服屋さんへと連れてこられた。


男子と話すのは緊張しちゃうし、
普段は学校と図書室の往復ばかり。


こんなにきらきらした
女の子たちの空間に来るだけで、
私は気後れしてカバンの紐を
ぎゅっと握りしめてしまう。


朝、学校に着くなり、
二人にスマホの画面を見せて
大パニックで相談した。


羽瀬くんから届いた、あのLINE。


『じゃあさ、今度の土曜日部活休みだから、
市立図書館で一緒にテスト勉強しない?

……白石さんに教えてもらったら
絶対大丈夫な気がするし!

……急にごめん。でも、
マジで一緒に行きてーなって、だめかな?』


という、不器用で真っ直ぐな、
熱いお誘いメッセージ。


それに対して、私がベッドの上で
のたうち回るくらい緊張しながら返した、


『うん、大丈夫だよ!
私も、土曜日会えるの、すっごく嬉しいです。
羽瀬くんの私服見てみたいな!
……楽しみにしてるね』


という、一生懸命なお返事。


二人は画面を見た瞬間。


「ちょっとこれ、
羽瀬くん本気すぎじゃない⁉」


「『一緒に行きてーな、だめかな?』って、
あの余裕な羽瀬くんが文字で
甘えてるのヤバすぎる!」


「乃愛も『すっごく嬉しい』って、
最高に可愛いお返事返したね!」


と、自分のことのように大興奮して、
そのままこの「勝負服選び作戦会議」
を立ち上げてくれたのだ。


「ほら乃愛、まずはこれ試着室で着てみて!」


結衣が目を輝かせながら、
鮮やかなミントグリーンのワンピースを
私の胸元に当てた。


「え、ええっ⁉
これ、ちょっと大人っぽすぎるというか、
スカート短くないかな……?」


私がオドオドしていると、
ひまりが横からすっと入り、結衣を停止した。


「結衣、それじゃ羽瀬くんの心臓が保たない。
……羽瀬くんのあのブルーの付箋のイメージや
乃愛の透明感を活かすなら。

こっちのほんのり桜色のトーンのブラウスに、
アイボリーのギャザースカートの方が
いいと思う。

清楚だけど、絶対に男の子が
ドキッとする女の子らしさが出るよ」


「……っ、ひまり、天才かよ!!」


結衣が大きく拍手をして、
私を試着室の白いカーテンの向こうへと
優しく押し込んだ。


カーテンの向こうで、
私は緊張で震える手で
大急ぎでお洋服を着替えた。


鏡に映った自分の姿を見て、
私は思わず小さく息を呑む。


いつも学校の地味な制服や、
部屋着のゆるいパーカー姿しか
見せていない私が、
まるで別人の女の子みたいに、
優しくて柔らかい雰囲気に包まれている。


(……これ、本当に、私なのかな。
羽瀬くん、変だって思わないかな……)


「乃愛ー? 着替えられた? 開けるよ?」


結衣の声と同時に、
カーテンがしゃっと開いた。


待っていた二人が、私の姿を見た瞬間、
言葉を失ったように「……わぁっ!」
と同時に目を丸くした。


「ちょっと、乃愛……可愛すぎ!!」


結衣が自分の両頬を押さえて大絶叫する。


「もう、私の乃愛がこんなに
可愛くなっちゃってどうしよう!

これ、土曜日の駅の改札前で
羽瀬くんが見たら、
絶対に直視できなくて顔真っ赤にして
照れまくるに決まってるじゃん!」


「うん。本当に素敵、乃愛。
すごく優しい雰囲気で、
乃愛の良さが全部出てる」


ひまりも、いつもの冷静な表情を緩めて、
本当に愛おしそうに柔らかく微笑んでくれた。


男子が苦手で、
お隣の席になっただけで
ロボットみたいにガチガチになっていた私。


そんな私の不器用さを
ずっと一番近くで知っている二人が、
私の小さな一歩を、こんなに温かく、
一生懸命にプロデュースしてくれている。


「ありがとう、二人とも……。
私、すごくドキドキするけど。
このお洋服なら、
少しだけ自信が持てる気がする……」


私がおでこまで赤くなりながら
はにかむと、結衣ちゃんは
私の肩をぎゅっと抱きしめて、
太陽みたいに弾ける笑顔を見せてくれた。


「あったり前でしょ!
私たちの乃愛なんだから、
世界一可愛いんだからね!

よーし、このまま乃愛の部屋に行って、
当日の髪型とかメイクの予行練習も
しちゃうんだから!」


「ふふ、賛成。じゃあ、
お会計して乃愛のお家に行こうか」


お買い物の紙袋を抱えてお店を出る。


あれほど怖くて不安だった土曜日が、
大好きな親友たちが見守ってくれている
という安心感だけで。


なんだか宝箱を開ける前みたいに、
優しくて温かい待ち遠しさに
変わっていくのが分かった。


お店を出て、
お互いの腕を組んで楽しそうに
駅中の広い通路を歩いていく——。