《雨の日の付箋、相合傘!?》
昼間は日差しも出て
鳥たちの歌声が響いていた
気持ち良い晴れだったが、
今は激しいゲリラ豪雨が降っている。
放課後の校舎。
窓の外は豪雨のような激しい雨が
地面を叩きつけている。
あの放課後の図書室で、
淡いブルーと桜色の付箋を交換してから、
私たちの毎日には、
誰にも見えない秘密のループが生まれていた。
付き合っているわけじゃない。
だけど、学校生活のあちこちに、
羽瀬くんが私のためだけに仕掛けてくれる
「内緒の足跡」が、確かに存在していた。
始まりは、激しいゲリラ豪雨が降った、
ある日の放課後だった。
「うわ、最悪! 乃愛、傘持ってる?」
隣でカバンを抱えた結衣ちゃんが、
窓の外を見て悲鳴を上げる。
「う、うん。
私は折りたたみ傘があるから
大丈夫だけど……」
「よかったー!
私とひまりは置き傘あるから、
先に下駄箱行ってるね!」
そう言って二人が教室を出たあと、
私は机の横に引っ掛けていた
折りたたみ傘を手に取った。
その時、カサリ、
と持ち手のビニール部分に何かが触れた。
「あ……」
隠れるようにして貼られていたのは、
あの綺麗なミントグリーンのような、
淡いブルーの付箋だった。
そこには、
羽瀬くんの真っ直ぐな文字で、
小さくこう書かれていた。
『白石さん、折りたたみ傘、持ってる?
俺、今日傘忘れて詰んでるから……
もしよかったら、俺を一緒に傘に入れて、
……なんてな』
「っ、」
心臓がトクンと大きく跳ねる。
半分は冗談かもしれない。
でも、もし本気だったら……?
頭が真っ白になりながらも、
私は自分の筆箱から
桜色の付箋を一枚取り出して、
急いでペンを走らせた。
誰もいない教室で、
何度も何度も心臓をバクバクさせながら、
震える手で。
『小さめの傘ですけど、
もしよかったら、一緒に……』
そこまで書いて、
恥ずかしすぎて心臓が破裂しそうになり、
私はその文字をぐちゃぐちゃっと
二本線で消した。
バレたらどうしよう。
こんなワガママ。
私なんかじゃ引かれちゃう。
私はその下に、大急ぎでこう書き直した。
『少し小さいですけど、
入るなら、使ってください。
下駄箱の上の棚に置いておきます』
急いで下駄箱へ向かい、
上の棚に付箋付きの
自分の折りたたみ傘をそっと置いた。
ちょうどそこにいた結衣ちゃんが。
「あ、乃愛! 自分の傘置いていくの?
じゃあ私の置き傘大きいし、
一緒に入りなよ!」と声をかけてくれた。
「うん、ありがとう……」
結衣ちゃんの大きな傘に
相合い傘で入れてもらいながら、
私は「消したから絶対にバレてないよね」
と、胸の奥の小さな秘密に
ハラハラしていた。
翌朝、下駄箱を開けると、
綺麗に畳まれた私の傘と一緒に、
また新しいブルーの付箋が残されていた。
『めちゃくちゃ助かった。
白石さんの傘、すげーいい匂いした。
濡れて風邪ひいてない?
今日の授業中、寝たらまた合図して。
ありがとな』
「――っ、」
下駄箱の前で、
私はその付箋を両手で包み込むようにして
胸に抱きしめた。いい匂いだなんて……。
それに、
私が傘を置いていっちゃったから、
帰り道に雨に濡れちゃわなかったか、
私の体を心配してくれている。
彼の真っ直ぐな優しさが、
朝の冷たい空気の中で
私の顔を真っ赤に沸騰させていく。
その後の国語の授業。
私は二本線のないピュアな心配だけを込めた
桜色の付箋を貼ってプリントを手渡した。
『雨すごかったけど、大丈夫でしたか?』
それを受け取った羽瀬くんが、
隣の席で嬉しそうに小さく
吹き出す気配がして、
私はたまらなく愛おしい気持ちで
胸がいっぱいになった。
私たちは間違いなく、
誰にも邪魔されない二人の言葉で、
深く、優しく、繋がっている——。
