《放課後の茶トラ》
「――本当に、いいのかな」
放課後の廊下、
上履きからスニーカーに
履き替えるだけの時間が、
今の私にとっては心臓の音を
響かせるだけの秒針に変わっている。
今日の琉生くんの部活は、
ミーティングだけで早く終わる。
そんな、普段の私なら
知るはずもなかったスケジュールを、
お昼休みの終わりにすれ違いざま、
彼は耳元で楽しそうに教えてくれた。
『放課後、あの場所な。
内緒で茶トラに会いに行こ』
内緒。その四文字の響きだけで、
胸の奥がぎゅっと
切なくなるほどに甘く痺れる。
男子と二人きりでどこかへ行くなんて、
生まれて初めての経験だった。
しかも相手は、クラスの中心にいて、
裏表がなくて、誰もが悪口を言わずに
笑顔で囲むような、あの羽瀬くんだ。
昇降口を出て、
他の生徒たちの目が届かない校舎の裏手へと、
数歩先を歩く彼の背中を追いかける。
いつもならサッカー部のユニフォーム姿で
グラウンドを駆け回っている彼が、
今日は少し着崩した制服のままで、
カバンを肩に引っ提げて歩いている。
その少し頼もしい背中を見ているだけで、
視界が熱くなる。
「白石さん、足元気をつけて。ここ、足場が悪いから」
羽瀬くんが振り返り、
いつもの爽やかな笑顔を私に向けた。
彼が案内してくれたのは、
体育館の手前にある、古い備品倉庫の横。
グラウンドを区切る高い生垣との間に
挟まれた、細くて小さな隙間だった。
学校の敷地内だけど、
用務員さんくらいしか通らない、
文字通りの『隠れ家』。
生垣の隙間をすり抜けると、
そこにはコンクリートの割れ目から
青々とした雑草が生い茂る、
二人分だけの秘密の空間が広がっていた。
西日がきれいに差し込んでいて、
驚くほどポカポカと温かい。
「あ、いた……っ」
私の声に反応したのか、
古いパレットの隙間から、
ぽてっとした丸い体が顔を出した。
西日に照らされて、
綺麗なオレンジ色に輝く茶トラ。
いつもは教室の窓から
遠く眺めているだけのその子が、
今は私たちのすぐ足元にいる。
「な? 言った通り、
ここなら近くで見られるだろ」
羽瀬くんが嬉しそうに目を細めて、
その場に屈み込んだ。
つられて私もスカートの裾を押さえながら、
彼の隣に並んでしゃがみ込む。
トクン、と心臓が跳ねた。
肩と肩が触れ合いそうなほど、距離が近い。
教室での席が隣同士になった時も
緊張したけれど、遮る机がないこの空間では、
羽瀬くんの体温や、かすかに香る
男の子特有の石鹸のような匂いが、
ダイレクトに私の感覚を支配していく。
「……可愛い。いつも窓から見てるより、
ずっとちっちゃいんだね」
「だろ? いつも毛繕いばっかしてさ。
あ、白石さん、手、出してみ」
羽瀬くんが私の顔を覗き込んだ。
彼の真っ直ぐな瞳に、
緊張で顔を赤くしている
自分が映り込んでいる気がして、
慌てて視線を茶トラへと落とす。
「触っても、怒らないかな……?」
「大丈夫。俺、こいつとマブダチだから」
そう言って、羽瀬くんが
私の右手首をそっと下から包み込んだ。
衣服越しじゃない、
彼の大きな手のひらの熱が、
私の肌に直接伝わってきて、
息が止まりそうになる。
彼は私の手を優しく導くようにして、
茶トラの頭へと近づけた。
そっと、短い毛並みに触れる。
ぽかぽかと温かくて、柔らかい。
「……あ、鳴いた」
「白石さんのこと、気に入ったみたいだな」
羽瀬くんが手を離したあとも、
私の手首には彼が触れていた場所だけが、
熱い磁石でも埋め込まれたみたいに
じんわりと熱を持ったままだった。
茶トラは気持ちよさそうに目を細め、
私の指に頭を擦り付けたあと、
お座りをして前足を
『ぐる、ぐる』と回すようにして、
顔を洗い始めた。
「あ、それ……」
「ん? ああ、これな」
羽瀬くんが自分の手首を、
茶トラの動きに合わせるようにして、
お腹の前で小さく二回
『ぐる、ぐる』と回してみせた。
「授業中、白石さんが教えてくれた
招き猫の手。こうやって合図送ったら、
こいつ、こっち来るんだよ」
悪戯っぽく笑う彼の横顔が、
夕日に照らされて信じられないくらい眩しい。
胸が苦しい。
サッカーが上手くて、格好良くて、
みんなに優しい羽瀬くん。
そんな彼が、私のためだけに時間を割いて、
私が見ていた小さな世界を、
こんなに大切に共有してくれている。
ただのクラスメイト。
ただの、席が隣同士の女の子。
それだけのはずなのに、
この秘密の隠れ家の中で、
私はどうしようもないくらい、
彼の特別な存在になりたいと
願ってしまっていた。
「……ふふ、本当に真似してる」
私が小さく笑うと、
羽瀬くんは「だろ?」と
満足そうに鼻を鳴らした。
学校のヒーローみたいな彼が、
私の見つけた小さなノラ猫の前で、
まるで子供みたいに無邪気な顔をしている。
そのギャップがたまらなくて、
私の胸の奥はさっきからずっと、
いっぱいいっぱいだった。
「でも、びっくりしちゃった。羽瀬くん、
本当にこの子のことよく見てるんだね」
膝を抱え直しながら、
私は静かに言葉をこぼした。
すると、羽瀬くんは茶トラの背中を
優しく撫でながら、
ふっと視線を私の方へと巡らせた。
「俺が見てたのは、茶トラだけじゃないよ」
「え……?」
「白石さんがさ、いつも窓の外を
すっごく優しい顔で見つめてるから。
だから俺も、気になって
そっち見るようになったんだ」
夕暮れの手前の光の中で、
羽瀬くんの真っ直ぐな瞳が私を捉える。
心臓がドクン、と大きな音を立てた。
私のことを見ていた……?
クラスの真ん中にいて、
いつもたくさんの人に囲まれている彼が、
窓際で縮こまっているだけの
私のことを見ていただなんて、
想像もしていなかった。
「わ、わたし……変な顔して見てた、かな。
猫、可愛いなぁって思って、
ついぼーっと……」
恥ずかしくて顔が熱くなり、
私は慌てて自分の膝に
顔を埋めるようにして隠した。
そんな私を見て、羽瀬くんは困ったように、
でもすごく愛おしそうに笑った。
「変な顔なわけないじゃん。
むしろ、なんかいいなぁって思ってた。
あ、白石さんってこういう顔で笑うんだって。
教室にいる時、いつも緊張した顔してるからさ」
「それは……男子と話すの、
あんまり慣れてないから、で……」
「知ってる。俺が席替えのとき『よろしく』
って言っただけで、ロボットみたいに
ガチガチになってたもんな」
からかうような口調だけど、
そこには意地悪なニュアンスなんて
一ミリもなくて。
むしろ、私の不器用さを丸ごと
受け入れてくれているような、
毛布みたいな温かさがあった。
「俺さ、みんなでワイワイ
騒ぐのも好きだけど……」
羽瀬くんは茶トラから手を離すと、
芝生の上にぽんと手を置いて、
少しだけ真面目な声で続けた。
「こうやって、
白石さんと二人で静かに過ごす時間、
すげー落ち着く。……っていうか、
誰にも邪魔されたくない、なんてね」
「……え?」
羽瀬くんの口からこぼれた言葉の意味が、
すぐには頭に届かなくて、
ただ間抜けに瞬きを繰り返してしまう。
誰にも、邪魔されたくない。
その言葉が、夕日に温められた狭い隙間に、
静かに吸い込まれていく。
ドクン、と胸の奥が、
今まで聞いたこともないような
大きな音を立てた。
どうしよう。
いつもみんなの中心にいる羽瀬くんが、
どうして私なんかとの時間を
そんな風に言ってくれるの?
嬉しすぎて、でも怖くて、
頭の芯がジーンと痺れていく。
――これ以上は、ダメだ。
本能的に、心のどこかで警告の音が鳴っている。
これ以上、彼の眩しさに近づいてしまったら。
これ以上、彼の特別な言葉を、
私だけのものだと勘違いしてしまったら。
私はきっと、もう二度と、
ただの『隣の席の女の子』
には戻れなくなってしまう。
カバンの紐を握る指先が、小さく震えた。
彼の言葉の優しさに甘えて、私の胸の奥に、
今まで知らなかった
真っ黒でわがままな気持ちが、
トクンとのぞく。
(……私だって、邪魔されたくない)
(羽瀬くんのあの笑顔も、優しい声も、
全部……私だけだったら、なんて)
そんなこと思っちゃダメなのに。
私なんかじゃ、釣り合わないのに。
一度はじけてしまった独占欲は、
もう、私の小さな体には収まりきらない
くらいに膨らんで、
痛いほど胸を締め付けていた。
「……私も。羽瀬くんといるの、
最初はすごく緊張したけど。
今は、その、すごく……楽しいんです」
消え入りそうな声で、
精一杯の本音を口にすると、
羽瀬くんは一瞬だけ驚いたように
目を見張った。
正式に付き合う前の、
もどかしくて甘い空気が、
倉庫の白い壁に反射する
夕日の光の中に溶けていく。
「……そっか、俺も楽しい」
照れくさそうに、
だけど今度は『なんてね』
なんてはぐらかさずに。
彼は眉を下げて愛おしそうに笑った。
その笑顔に、私の心臓は限界だったーー。
「――本当に、いいのかな」
放課後の廊下、
上履きからスニーカーに
履き替えるだけの時間が、
今の私にとっては心臓の音を
響かせるだけの秒針に変わっている。
今日の琉生くんの部活は、
ミーティングだけで早く終わる。
そんな、普段の私なら
知るはずもなかったスケジュールを、
お昼休みの終わりにすれ違いざま、
彼は耳元で楽しそうに教えてくれた。
『放課後、あの場所な。
内緒で茶トラに会いに行こ』
内緒。その四文字の響きだけで、
胸の奥がぎゅっと
切なくなるほどに甘く痺れる。
男子と二人きりでどこかへ行くなんて、
生まれて初めての経験だった。
しかも相手は、クラスの中心にいて、
裏表がなくて、誰もが悪口を言わずに
笑顔で囲むような、あの羽瀬くんだ。
昇降口を出て、
他の生徒たちの目が届かない校舎の裏手へと、
数歩先を歩く彼の背中を追いかける。
いつもならサッカー部のユニフォーム姿で
グラウンドを駆け回っている彼が、
今日は少し着崩した制服のままで、
カバンを肩に引っ提げて歩いている。
その少し頼もしい背中を見ているだけで、
視界が熱くなる。
「白石さん、足元気をつけて。ここ、足場が悪いから」
羽瀬くんが振り返り、
いつもの爽やかな笑顔を私に向けた。
彼が案内してくれたのは、
体育館の手前にある、古い備品倉庫の横。
グラウンドを区切る高い生垣との間に
挟まれた、細くて小さな隙間だった。
学校の敷地内だけど、
用務員さんくらいしか通らない、
文字通りの『隠れ家』。
生垣の隙間をすり抜けると、
そこにはコンクリートの割れ目から
青々とした雑草が生い茂る、
二人分だけの秘密の空間が広がっていた。
西日がきれいに差し込んでいて、
驚くほどポカポカと温かい。
「あ、いた……っ」
私の声に反応したのか、
古いパレットの隙間から、
ぽてっとした丸い体が顔を出した。
西日に照らされて、
綺麗なオレンジ色に輝く茶トラ。
いつもは教室の窓から
遠く眺めているだけのその子が、
今は私たちのすぐ足元にいる。
「な? 言った通り、
ここなら近くで見られるだろ」
羽瀬くんが嬉しそうに目を細めて、
その場に屈み込んだ。
つられて私もスカートの裾を押さえながら、
彼の隣に並んでしゃがみ込む。
トクン、と心臓が跳ねた。
肩と肩が触れ合いそうなほど、距離が近い。
教室での席が隣同士になった時も
緊張したけれど、遮る机がないこの空間では、
羽瀬くんの体温や、かすかに香る
男の子特有の石鹸のような匂いが、
ダイレクトに私の感覚を支配していく。
「……可愛い。いつも窓から見てるより、
ずっとちっちゃいんだね」
「だろ? いつも毛繕いばっかしてさ。
あ、白石さん、手、出してみ」
羽瀬くんが私の顔を覗き込んだ。
彼の真っ直ぐな瞳に、
緊張で顔を赤くしている
自分が映り込んでいる気がして、
慌てて視線を茶トラへと落とす。
「触っても、怒らないかな……?」
「大丈夫。俺、こいつとマブダチだから」
そう言って、羽瀬くんが
私の右手首をそっと下から包み込んだ。
衣服越しじゃない、
彼の大きな手のひらの熱が、
私の肌に直接伝わってきて、
息が止まりそうになる。
彼は私の手を優しく導くようにして、
茶トラの頭へと近づけた。
そっと、短い毛並みに触れる。
ぽかぽかと温かくて、柔らかい。
「……あ、鳴いた」
「白石さんのこと、気に入ったみたいだな」
羽瀬くんが手を離したあとも、
私の手首には彼が触れていた場所だけが、
熱い磁石でも埋め込まれたみたいに
じんわりと熱を持ったままだった。
茶トラは気持ちよさそうに目を細め、
私の指に頭を擦り付けたあと、
お座りをして前足を
『ぐる、ぐる』と回すようにして、
顔を洗い始めた。
「あ、それ……」
「ん? ああ、これな」
羽瀬くんが自分の手首を、
茶トラの動きに合わせるようにして、
お腹の前で小さく二回
『ぐる、ぐる』と回してみせた。
「授業中、白石さんが教えてくれた
招き猫の手。こうやって合図送ったら、
こいつ、こっち来るんだよ」
悪戯っぽく笑う彼の横顔が、
夕日に照らされて信じられないくらい眩しい。
胸が苦しい。
サッカーが上手くて、格好良くて、
みんなに優しい羽瀬くん。
そんな彼が、私のためだけに時間を割いて、
私が見ていた小さな世界を、
こんなに大切に共有してくれている。
ただのクラスメイト。
ただの、席が隣同士の女の子。
それだけのはずなのに、
この秘密の隠れ家の中で、
私はどうしようもないくらい、
彼の特別な存在になりたいと
願ってしまっていた。
「……ふふ、本当に真似してる」
私が小さく笑うと、
羽瀬くんは「だろ?」と
満足そうに鼻を鳴らした。
学校のヒーローみたいな彼が、
私の見つけた小さなノラ猫の前で、
まるで子供みたいに無邪気な顔をしている。
そのギャップがたまらなくて、
私の胸の奥はさっきからずっと、
いっぱいいっぱいだった。
「でも、びっくりしちゃった。羽瀬くん、
本当にこの子のことよく見てるんだね」
膝を抱え直しながら、
私は静かに言葉をこぼした。
すると、羽瀬くんは茶トラの背中を
優しく撫でながら、
ふっと視線を私の方へと巡らせた。
「俺が見てたのは、茶トラだけじゃないよ」
「え……?」
「白石さんがさ、いつも窓の外を
すっごく優しい顔で見つめてるから。
だから俺も、気になって
そっち見るようになったんだ」
夕暮れの手前の光の中で、
羽瀬くんの真っ直ぐな瞳が私を捉える。
心臓がドクン、と大きな音を立てた。
私のことを見ていた……?
クラスの真ん中にいて、
いつもたくさんの人に囲まれている彼が、
窓際で縮こまっているだけの
私のことを見ていただなんて、
想像もしていなかった。
「わ、わたし……変な顔して見てた、かな。
猫、可愛いなぁって思って、
ついぼーっと……」
恥ずかしくて顔が熱くなり、
私は慌てて自分の膝に
顔を埋めるようにして隠した。
そんな私を見て、羽瀬くんは困ったように、
でもすごく愛おしそうに笑った。
「変な顔なわけないじゃん。
むしろ、なんかいいなぁって思ってた。
あ、白石さんってこういう顔で笑うんだって。
教室にいる時、いつも緊張した顔してるからさ」
「それは……男子と話すの、
あんまり慣れてないから、で……」
「知ってる。俺が席替えのとき『よろしく』
って言っただけで、ロボットみたいに
ガチガチになってたもんな」
からかうような口調だけど、
そこには意地悪なニュアンスなんて
一ミリもなくて。
むしろ、私の不器用さを丸ごと
受け入れてくれているような、
毛布みたいな温かさがあった。
「俺さ、みんなでワイワイ
騒ぐのも好きだけど……」
羽瀬くんは茶トラから手を離すと、
芝生の上にぽんと手を置いて、
少しだけ真面目な声で続けた。
「こうやって、
白石さんと二人で静かに過ごす時間、
すげー落ち着く。……っていうか、
誰にも邪魔されたくない、なんてね」
「……え?」
羽瀬くんの口からこぼれた言葉の意味が、
すぐには頭に届かなくて、
ただ間抜けに瞬きを繰り返してしまう。
誰にも、邪魔されたくない。
その言葉が、夕日に温められた狭い隙間に、
静かに吸い込まれていく。
ドクン、と胸の奥が、
今まで聞いたこともないような
大きな音を立てた。
どうしよう。
いつもみんなの中心にいる羽瀬くんが、
どうして私なんかとの時間を
そんな風に言ってくれるの?
嬉しすぎて、でも怖くて、
頭の芯がジーンと痺れていく。
――これ以上は、ダメだ。
本能的に、心のどこかで警告の音が鳴っている。
これ以上、彼の眩しさに近づいてしまったら。
これ以上、彼の特別な言葉を、
私だけのものだと勘違いしてしまったら。
私はきっと、もう二度と、
ただの『隣の席の女の子』
には戻れなくなってしまう。
カバンの紐を握る指先が、小さく震えた。
彼の言葉の優しさに甘えて、私の胸の奥に、
今まで知らなかった
真っ黒でわがままな気持ちが、
トクンとのぞく。
(……私だって、邪魔されたくない)
(羽瀬くんのあの笑顔も、優しい声も、
全部……私だけだったら、なんて)
そんなこと思っちゃダメなのに。
私なんかじゃ、釣り合わないのに。
一度はじけてしまった独占欲は、
もう、私の小さな体には収まりきらない
くらいに膨らんで、
痛いほど胸を締め付けていた。
「……私も。羽瀬くんといるの、
最初はすごく緊張したけど。
今は、その、すごく……楽しいんです」
消え入りそうな声で、
精一杯の本音を口にすると、
羽瀬くんは一瞬だけ驚いたように
目を見張った。
正式に付き合う前の、
もどかしくて甘い空気が、
倉庫の白い壁に反射する
夕日の光の中に溶けていく。
「……そっか、俺も楽しい」
照れくさそうに、
だけど今度は『なんてね』
なんてはぐらかさずに。
彼は眉を下げて愛おしそうに笑った。
その笑顔に、私の心臓は限界だったーー。
