僕たちの心(こえ)

 「野球部、甲子園準優勝。バスケットボール部、バレーボール部、インターハイ出場。吹奏楽部、全国大会出場。」
「以上、優秀な成績を収めた部には副校長先生から記念品がございます。それぞれの部のキャプテンはステージに上がってください」
10月某日。夏休みが明け1ヶ月が経った頃、体育館では全校集会が開かれていた。夏休み中にそれぞれインターハイなどの大会が行われ、優秀な成績を残した部への表彰式を行うためだった。
もっとも、帰宅部である慎太郎には全く関係のないことだが。
「しかしまぁこの学校は部活が強いよなぁ」
「まぁそれに特化したコースもあるしな。もちろん俺たちみたいに普通のコースもあるから差は歴然だよ」
 私立開岸学園高等学校。この学校はスポーツ強化コースと普通科コースに別れていた。スポーツ強化コースにはスポーツ推薦で入ってきた学生と全国から集められた優秀な教師陣がおり、甲子園出場やインターハイ出場などを全面的に支援していた。一方の普通科は目立った特色もないため、スポーツ強化コースとの差が明確に表れ、スポーツ強化コースの学生や教師陣からは蔑まれる存在となっていた。
 全校集会がようやく終わり、生徒たちは各教室へと戻っていく。
「やっと終わったよ。なんで朝から始まった全校集会が昼までかかるんだよ」
「しょうがねぇよ。表彰される部が多いんだから時間もかかる」
「そういえば光輝はサッカー部だったんだろ?なんでスポーツ強化コースじゃないの?」
「サッカーやってたとはいえ弱小校だったからな。あんなのについていけ…あっすいません」
誰かにぶつかった。
「いってぇ!!!」
ぶつかった相手が肩を押さえて床に転がる。
「え、光輝そんなに強くぶつかったか?」
「いや、ちょっと触れただけ」
「おい!どうした!」
1人の教師が慌てた様子でこちらに走ってくる。
「あ、先生…。こいつが俺にぶつかってきて!くそっ!いってぇ!」
「いやいや、俺はそんなに…」
「あぁ?!お前ぶつかったんだろ?!こいつがもし怪我してたらどう責任取れんだよ!」
「だから僕は…」
「お前の言い分なんか聞いてねぇんだよ!謝れよ!」
「……はい。すいませんでした」
光輝は少し不貞腐れながら謝罪をした。
「なんだその顔は。誠意がこもってねぇなぁ。まぁいい、目障りだ普通科のやつは消えてくれ」
「行くぞ。慎太郎」
「え、お、おう」
いつもの光景だった。スポーツ強化コースの生徒を守るためにはなんでもするが、普通科コースの生徒はまるで害悪のように扱う。意見を言っても頭ごなしに否定されたり、そもそも聞いてもらえないことも多かった。
「なんだよ昼飯時なのに気分悪いわぁー飯が不味くなる」
慎太郎は光輝より怒り心頭だった。
「なんでお前が怒ってんだよ」
「だって友達があんな悪く言われたらムカつくだろ?!」
「まぁ落ち着けよ動画でも見ながら飯にしようぜ」
「そうだなぁ…お、あいつまた動画上げてるぜ!今回のはカラオケで100点取れるまで帰れませんだってさ。なんでこんなんでなんかあるんだか」
「でもなんだかんだ言って毎回ちゃんと見てるじゃん」
「なにー?慎太郎!私の話?」
「おぉ咲希。ちょうど良いところに今お前の動画見てたんだよ」
「え!新しいやつ?!見てくれてるの!嬉しいわ〜」
「ていうか最近また登録者数増えたんじゃないか?」
「そうなの!一回止まってたんだけど、最近の動画人気みたいでまた増えてきたんだー」
咲希は動画配信サイトでインフルエンサーとして活動していた。登録者数は10万人を超えており、人気インフルエンサーとなっていた。
「ていうか、咲希歌上手だっけ?」
「ううん。全然」
動画内では音痴な咲希が不協和音を奏でていた。
「お前これ始めから企画倒れじゃん」
「そこがいいのよ音痴なのにこういう企画をするっていう。さらに私は顔が可愛いから何をしてても許されるなよ」
「何言ってんだ。バカじゃねぇの」
「なにー!!」
「やめろやめろ叩くなよー」
慎太郎は咲希から逃げる。教室の中で鬼ごっこが始まった。
「おーい。危ないぞー」
光輝が声をかけるも小さい子のように目を輝かせて楽しんでいる2人には届かない。
「あ!こら!逃げるな!」
慎太郎が走り出したその瞬間、違う女子生徒の机に思い切りぶつかってしまう。
「いててて。ごめんねぶつかっちゃって。大丈夫?怪我なかった……?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
そう言い女子生徒は教室を出て行った。
「もう!慎太郎!そうやって走るから他の人に迷惑かけるんだよ!」
「あの子怯えてた」
「え?」
「何かに怯えてた」
「そりゃあんたがいきなりぶつかってきたらそりゃ怖いわよ。そんなにはしゃぐタイプの子じゃないでしょ?ここに座ってんのは確か…灯ちゃんか」
「いや、違う。俺にじゃなかった。俺がぶつかる前から何かに怯えた顔をしてた」

 翌日の昼休み、慎太郎はいつも通り咲希と光輝とご飯を食べながら昨日の女子生徒の動向を探っていた。
「どうしたんだよ。そんな真剣な顔して」
「なぁ光輝。昨日俺あの子にぶつかっなんだけどさ、何かに怯えてたんだよ。なんだと思う?」
「だからぁあんたがいきなりぶつかってきたから怖かったんだって」
咲希が割り込んでくる。
「咲希黙ってろよー。絶対そうじゃないって!」
「この間も怯えたまま教室を出たんだろ?今日は尾行してみたらいいじゃねぇか」
「確かに」
昼ごはんを食べ終わった女子生徒はおもむろに立ち上がり、教室を出ていく。
「お、あいつ出て行く。俺ちょっと行ってくる」
慎太郎は女子生徒の後を追い、教室を出て行った。
「ねぇ光輝。あんたは灯ちゃんが怯えてるように見えた?」
「んーいや。俺にはわからなかったな。でもあいつはなんか感じたんだろ」
「なんか昔からあるよね。人の変化に気づきやすいタイプというか」
「確かに。まぁそれがあいつの長所なんだけどね」
慎太郎はこっそり気づかれないように着いていく。壁に隠れて様子を見ていると女子生徒が、副校長室の扉をノックし、中からは副校長が出てきた。女子生徒は腕を引かれ、連れ込まれるように副校長室へと入っていった。普通科の人間など絶対に用があるはずのない副校長室にあの子が入っていった。慎太郎は怪しく思い、扉に耳を当て中の音を聞く。聞こえてきたのは女子生徒のそれ以上はもうやめてくださいという声と良いじゃないかという副校長の声だった。クラスメイトがこんなことをさせられているのかという苛立ちと副校長がこんなことをしているのかという不快感が入り混じりっていた。しかし、慎太郎は見なくとも一瞬で中の様子を理解した。おそらくあの子は副校長からセクハラを受けている。しかも毎昼休みに。だからあの時間帯いつも怯えていたんだ。慎太郎は女子生徒が出てくるのをその場で待ち続けた。そして出てきたタイミングを見計らい、腕を掴み誰もいない渡り廊下へと誘導する。
「おい。お前今何やられてたんだ」
「びっくりした。急にやめてよ。腕掴まれて、連行されて。殺されるかと思ったわ」
「それはごめん。で、俺の質問に答えろ」
「嫌よ。あなたの質問に答える気はない」
「なんでだ」
「じゃあ逆に聞くけどなんであなたに教えなきゃいけないの?」
「お前が昼休み怯えてるように見えたからだ。副校長室で嫌なことされてるんじゃないのか?」
少し濁した言い方で詰め寄る。
「……。」
女子生徒はバツが悪いような顔をして何も答えずその場を去ろうとする。
「待って!まだ話は終わってない!」
「話すことはないって言ってるでしょ?!何も知らないくせに!もう放っておいて!」
「あ、ちょっと!」

 また翌日の昼休み。
「昨日どうだったんだよ」
「まだ、確実とは言えないけどとんでもない問題が隠れてる気がするんだ」
「とんでもない問題?」
「うん。今はまだ言えない。本人からも何も聞いてないからな」
「ふーん。そんな探偵ごっこみたいなことして楽しいの?」
「咲希。お前は知らないからそういうことを言えるんだぞ。全てわかったら話すからちょっと黙っててくれ。あいつの名前、灯だよな。いきなり名前で呼んで大丈夫かな?あんま話したことないけど」
「どこ気にしてんのよ。あんたなら大丈夫よ」
「そっか」
今日も灯は昼休みの途中で教室から抜け出し、副校長室へと向かった。慎太郎はクラスメイトがこれ以上セクハラを受けるのは防ぎたかったため、ある行動に出る。
昨日と同じようにノックをした後、扉が開く。副校長が出てきて灯の腕を掴んで部屋に連れ込もうとする。慎太郎はまずの瞬間を写真に収めた。そして、
「待て!」
と大声を出し、灯が連れ込まれるのを阻止した。
「副校長先生。灯を連れ込んで何してるんですか?」
「なんだ貴様」
「質問に答えてください。何をしてるんですか?」
「勉強を教えているんだよ。こいつは熱心な生徒でな…」
「この写真からはそうは思えません」
慎太郎はさっき撮った写真を見せつける。
「この写真がなんだ?これがなんの証拠になるんだ?俺がこいつを連れ込みいかがわしいことをしてると?」
「そうだ。俺は昨日ここで声を聞いた」
副校長の顔が少し引き攣った。
「そうかじゃあ音声の証拠はあるのか?」
「……ない」
「ないんじゃしょうがないなぁ。何もしていない副校長の俺を疑うなんて、お前の方がどうかしてるな」
「くっそ…」
「もういいでしょ?!昨日もう関わらないでって言ったでしょ!やめてよ…やめてよ!」
灯が血相を変えて叫ぶ。
「え…」
「なんだお前。他人に相談したのか?」
灯はまた怯えた表情へと戻る。
「いえ、この人が勝手に着いてきていただけです。私はやめてといいました」
「そうか。まぁお前がそんなことできるわけないもんなぁ。なぁ?」
「時にお前。邪魔しやがって」
慎太郎は胸の辺りを思い切りどつかれた。
「おい。もういい、気分じゃなくなった。教室へ帰れ!」
副校長は部屋へと戻っていった。
「こっちきて!」
灯は慎太郎の腕を掴み早歩きで人目のないところへ移動する。
「どうして?!昨日も言ったでしょ?!何も知らないから放っておいてって!」
「この際、はっきり言うけどセクハラ受けてるんじゃないのか?」
「そうよ!だから何?!あなたになんの関係があるの?!」
「クラスメイトがあんなことされてて黙ってられるわけないだろ!」
「クラスメイトが…?それはあなたの自分勝手な考えでしょ?!あそこでセクハラが告発されて画像が世の中に出回ったらどうなると思う?!」
「あ……」
「そして被害を被るのは私だけじゃないわ!」
「え…?どういうこと?」
「ほら。知らないんでしょ?あなたは普段クラスでも中心的存在で楽しそうに学校生活を送っているもんね!私も最初はそうだった。ずっと楽しかった。でもある時から全てが崩れたのよ!」