東城家と西城家の契約結婚

 冬彦に頼んでしずくについて調べてもらっていた。その報告を聞いた彗斗は自身の行いを悔やんでいた。
 冬彦も、三田も複雑そうな顔をしている。
「しずくに数々の無礼を謝らなければいけない。今までどうして調べ上げてこなかったのか……叔父上の言葉を鵜呑みにしていた……」
「ええ、私も反省しております」
 西城家でのしずくの扱いや東城家にかけられた呪いについて詳しく調べ上げると、驚くべきことが分かった。
 当主に呪いをかけたのは西城家で間違いなかったが、そこに華絵の父である叔父、星二が絡んでいた。
 しずくがふたつの呪いがかけられていると言っていたが、それも本当のことだった。
 急速に老いる呪いに抗うため、若返る呪いもかけられていた。かけたのはしずくの生みの母だろうという話だった。東城家のために、しずくの母は若返る呪いをかけてくれていたのだ。
「敵は身内にいたというのか……」
「恐らく、星二様は当主の座を狙っていらっしゃったのでしよう。呪いの効果が薄いので気を揉んでいらしたのでしょうね。華絵様を彗斗様と結婚させたがっていましたから」
「しずく様が番として見つかってよかったとしか言いようがありませんね」
「ああ、帝に感謝するばかりだ。すべてわかっていらっしゃったのかもしれない。しずくに謝りたい、しずくは……」
 そう訪ねたところで華絵が部屋の中に飛び込んできた。
「彗斗様大変です!」
 しがみついてくる華絵をなだめると、なにがあったのか聞き出す。
「しずく様がご実家に逃げ帰ってしまったのです」
「なんだと……」
「しずく様と仲良くなりたくてお話に行ったんです。そしたら流行のカフェーがあるから行きたいとおっしゃって。私を連れ出されたのです。どうやらそこで若い男の方と落ち合う予定だったようで……」
「それで、しずくは?」
「私がお手洗いに行っている間にいなくなってしまって。申し訳ございません彗斗様……! 私がしっかりしていれば。でも、しずく様はやはり彗斗様にはふさわしくなかったのですよ、私、はじめからわかっておりました」
「なるほど、話はよくわかった」
「彗斗様、しずく様は彗斗様とこの東城家を裏切られました、いっそ離縁して私を……」
 しがみついてくる華絵を彗斗は冷たく引き離すと、冬彦を呼ぶ。
「冬彦、今すぐしずくを探しにいく」
「彗斗様! しずく様は……」
「華絵、しずくがどこにいるか知っているな」
「え……し、知るわけがありません。しずく様は勝手にいなくなってしまったのですから」
「しずくが俺を裏切ることはない。それに、彼女は西城の家で冷遇されていた。実家に自ら戻りたいと思うことはないだろう。あるとすれば、無理やり連れ去られたに違いない。そこに、おまえが一枚噛んでいるだろう?」
「私はなにも存じません! どうして私を疑うのですか! 私を信じてくださいませ彗斗様、あなたの妻にふさわしいのは私しかいないというのに……」
 すがりついてこようとする華絵を彗斗は冷たいまなざしで睨む。
「それならそれでいい、自力で探すまでだ」
「彗斗様、どうしてそこまで……あんな西城の女なんかを……!」
 再び手を伸ばそうとする華絵に、さくらが飛びかかった。
「きゃあ! なんて無礼な猫なの! 相変わらず忌々しい。三田、早くこの不吉な猫を始末して!」
 さくらは怒鳴る華絵を威嚇している。華絵がさくらの治療をしたことがあるなど、もう思うことはできなかった。むしろ、害をなしてきたのだろうと容易に想像がつく。
 華絵のように黒猫を嫌う貴族は少なくない。華絵に傷つけられたさくらを、しずくが手当てしてやったというのがほかでもない真実だ。
「三田、さくらは俺の大事な猫だ。食事をさせてやれ」
「かりこまりました」
 彗斗は低い声出す。
「なぜと聞いたな。当たり前だろう、しずくは俺の妻だ。かけがえのない、大切な妻だ」
「帝が勝手にお決めになった形ばかりの妻ですわ!」
「違う。三田、華絵嬢を屋敷から追い出せ」
 彗斗は静かに、だが力強くそういうと、華絵をその場に残して冬彦と一緒に屋敷を出て行った。
「華絵としずくが一緒に出て行ったのを見ていたものがいるだろう? 話を聞いてこい。俺は警察を動かす」
「わかりました」
 しずくの悪い噂を流していたのはほかでもない華絵だった。叔父のことを、そして華絵のことを信じすぎていた自分に腹が立つ。仇敵の娘とは言え、しずくは過去の因縁に何の関係もない。その力を疎まれ実家で虐げられて育ち、運命のまま仇敵の家の嫁いできた哀れな娘だ。その哀れさを少しも表に出さず、力強く生きる女だった。
 華絵が東城家の当主夫人になるべく策を講じていたことがわかった今、しずくが無事でいるのかどうかわからない。
「無事でいてくれ……」
 祈るような思いで彗斗は屋敷を後にした。