目を覚ましたしずくはあたりが見覚えのある景色であることに気が付いた。実家の自室である。手足を縛られて、口元に布を咥えさせられていた。華絵が西城家と通じていたと考えていいだろう。
華絵の動機はわからないが、西城家がしずくを取り戻そうとしているとしたら、呪いが関係しているのだろう。なにか、どうしても解かなければいけない呪いがあるのだ。
「しずくさん、手荒な真似をしてごめんなさいね。あなたのことがどうしても必要だったから、西城家に帰ってきてもらったの。東城のご当主はあなたを返すつもりはないっていうんだもの。驚いたわ、どうやって取り入ったのかしら」
扉から姿を見せたのはほかでもない、義母の淳子だった。
「まさか呪いを解くことができるだなんて、どうして早く教えないのかした。本当に役に立たない娘だわ。その特技を生かせるのはやっぱり西城家でしょう。聞けば東城家の彗斗様には許嫁がいたっていうじゃないですか。帝の命だと言っておりましたが、邪魔なあなたの存在に東城家は困っていたようなのですよ。あなたとは名ばかりの結婚として、実家で管理してほしいと言われたのです。代わりに借金を肩代わりしてくれなんて東城家もよほどあなたの扱いに困っていたようですね。なんといっても仇敵の娘ですもの。おかげで使用人たちも質の良い者たちに変えられました、あなたなんかに協力するものはもうひとりも残っていませんよ」
「お義母様……」
「心配しないで、あなたは西城の家で暮らしていたらいいんですよ。この部屋の中で、私が命じた仕事だけしてくれたらいいのです。簡単でしょう?」
淳子はにっこりと笑顔を浮かべ、しずくの部屋を出て行った。
「彗斗様……」
ほんの少しだけ歩み寄ることができた気がしていたのに、こんなことになるなんて想像もしていなかった。東城家に行くまで仲良くしてくれていた使用人たちは見当たらない。もしかしたら解雇されてしまったのかもしれない。
知った顔のない実家はあまりにも孤独な場所だった。
軟禁されたのような日々を送っていたしずくのもとに見覚えのある黒猫がやっていたのは夜更けのことだ。
「さくら……とうしたの、逃げて! 見つかったら大変」
さくらの身を案じていると懐かしい声がする。
「しずく」
「え……」
姿を見せたのはほかでもない彗斗だった。驚きのあまり言葉を失う。
「こんな場所に……なんてことだ。しずく、今すぐにここを離れよう」
「彗斗様どうして……私なんかのところに、許嫁のかたは……」
「君以外の許嫁などいるわけがない。君を取り戻しに来た」
「なぜ……」
わけがわからない。一緒に住んでいなくとも、縁を結んでいれば結界の維持には問題ないだろう。
「質問ばかりだな、無理もない。俺は君に謝らなければいけないことがたくさんある。それに、伝えたいことも」
彗斗はしずくに手を伸ばした。
「君が俺のもとに戻りたいと、少しでも思ってくれていたらこの手を取ってくれ」
迷いなく差し出された手を、戸惑うように取ると、彗斗は顔をほころばせた。それから手を引かれて、彗斗の腕のなかに抱かれる。
「つらい思いをさせてすまなかった」
「いえ……当然のことです。私、西城家の娘ですから……」
「君は君だ。家など関係ない。そのことに気がつくのにずいぶん時間がかかってしまった。本当にすまなかった」
涙が出そうだった。自分のことをひとりの人間として見てくれることに。
「帰るぞ、みんな君の帰りを心待ちにしている」
「ですが、西城が……」
「俺の大事な妻を誘拐したのは西城の方だ。きちんと処理するから心配するな、こんなことを言うのはおこがましいが、どうか俺に頼ってくれ」
「……はい、ありがとうございます旦那様」
「名を呼んでくれ」
「……彗斗様……」
固く抱き合い、彗斗の腕に抱かれてしずくは西城の家をあとにした。
華絵の動機はわからないが、西城家がしずくを取り戻そうとしているとしたら、呪いが関係しているのだろう。なにか、どうしても解かなければいけない呪いがあるのだ。
「しずくさん、手荒な真似をしてごめんなさいね。あなたのことがどうしても必要だったから、西城家に帰ってきてもらったの。東城のご当主はあなたを返すつもりはないっていうんだもの。驚いたわ、どうやって取り入ったのかしら」
扉から姿を見せたのはほかでもない、義母の淳子だった。
「まさか呪いを解くことができるだなんて、どうして早く教えないのかした。本当に役に立たない娘だわ。その特技を生かせるのはやっぱり西城家でしょう。聞けば東城家の彗斗様には許嫁がいたっていうじゃないですか。帝の命だと言っておりましたが、邪魔なあなたの存在に東城家は困っていたようなのですよ。あなたとは名ばかりの結婚として、実家で管理してほしいと言われたのです。代わりに借金を肩代わりしてくれなんて東城家もよほどあなたの扱いに困っていたようですね。なんといっても仇敵の娘ですもの。おかげで使用人たちも質の良い者たちに変えられました、あなたなんかに協力するものはもうひとりも残っていませんよ」
「お義母様……」
「心配しないで、あなたは西城の家で暮らしていたらいいんですよ。この部屋の中で、私が命じた仕事だけしてくれたらいいのです。簡単でしょう?」
淳子はにっこりと笑顔を浮かべ、しずくの部屋を出て行った。
「彗斗様……」
ほんの少しだけ歩み寄ることができた気がしていたのに、こんなことになるなんて想像もしていなかった。東城家に行くまで仲良くしてくれていた使用人たちは見当たらない。もしかしたら解雇されてしまったのかもしれない。
知った顔のない実家はあまりにも孤独な場所だった。
軟禁されたのような日々を送っていたしずくのもとに見覚えのある黒猫がやっていたのは夜更けのことだ。
「さくら……とうしたの、逃げて! 見つかったら大変」
さくらの身を案じていると懐かしい声がする。
「しずく」
「え……」
姿を見せたのはほかでもない彗斗だった。驚きのあまり言葉を失う。
「こんな場所に……なんてことだ。しずく、今すぐにここを離れよう」
「彗斗様どうして……私なんかのところに、許嫁のかたは……」
「君以外の許嫁などいるわけがない。君を取り戻しに来た」
「なぜ……」
わけがわからない。一緒に住んでいなくとも、縁を結んでいれば結界の維持には問題ないだろう。
「質問ばかりだな、無理もない。俺は君に謝らなければいけないことがたくさんある。それに、伝えたいことも」
彗斗はしずくに手を伸ばした。
「君が俺のもとに戻りたいと、少しでも思ってくれていたらこの手を取ってくれ」
迷いなく差し出された手を、戸惑うように取ると、彗斗は顔をほころばせた。それから手を引かれて、彗斗の腕のなかに抱かれる。
「つらい思いをさせてすまなかった」
「いえ……当然のことです。私、西城家の娘ですから……」
「君は君だ。家など関係ない。そのことに気がつくのにずいぶん時間がかかってしまった。本当にすまなかった」
涙が出そうだった。自分のことをひとりの人間として見てくれることに。
「帰るぞ、みんな君の帰りを心待ちにしている」
「ですが、西城が……」
「俺の大事な妻を誘拐したのは西城の方だ。きちんと処理するから心配するな、こんなことを言うのはおこがましいが、どうか俺に頼ってくれ」
「……はい、ありがとうございます旦那様」
「名を呼んでくれ」
「……彗斗様……」
固く抱き合い、彗斗の腕に抱かれてしずくは西城の家をあとにした。



