星を祀る北斗の国の帝都には、星守と呼ばれる貴族が存在する。あまた輝く星から力を得る星守の当主には、必ず夫婦となる星の下に生まれた伴侶がいるという。帝都を守るより強い結界を維持するべく、帝は貴族たちに対となる星の下に生まれた相手を伴侶に迎えるよう命を出した。
珊瑚星を守る東城家の当主は齢24歳になったばかりである。先代の当主が病に倒れ、若くして当主の座に就いた男は、大陸から渡ってきた洋灯の明かりを頼りに親友でもある帝からの文に目を通していた。自身の伴侶となる女の名を見て大きなため息を吐く。
明りに照らされた端正な顔立ちがゆがむ。橙色の瞳に炎が揺れている。
「よりにもよって西城家の娘とはな」
深いため息には不快の色が見えた。どうやら西城家に対してただならぬ嫌悪感を抱いているようだ。
「だが、ほかならぬ帝の命ならば妻に迎えないわけにはいかない。番だというのだからな、冬彦」
「はい」
暗がりからひとりの男が姿を見せる。真新しい洋装を着こなしている。
「帝から向こうの家にも文が届いているころだろう。あまり間を置くと臆していると思われていはいけない。明日にでも西城家に使いを送ってくれ、娘を妻に迎えたいとな」
もう一度深いため息を吐く。
「心中お察しいたします、彗斗様」
「これも星の巡り、甘んじて受け入れよう。縁さえ結べば不仲でも結界に問題ないだろう」
「彗斗様……」
「妻には特別な屋敷を与え、極力顔を合わせないようにすればいい。おそらく輿入れの際に使用人たちも連れてくるだろうから、こちらから用意する必要はないだろう。おまえたちの負担にならないようにするよ。屋敷が出来るまでは離れに住まわせる」
「お気遣い感謝いたします。ですが、彗斗様」
「なんだい」
「ご自分のことも大事になさってください、有事の際は離縁もお考えください。西城家の娘となれば、何をするかわかりません」
「……そうだな、頭の隅に置いておくよ」
西城家と東城家は何代も前から折り合いが悪い。かつて、東城家の当主は西城家の呪術が原因で巨万の富と地位を失ったという。一度落ちぶれた東城家がここまで持ち直したのは、代々の当主のたゆまぬ努力によるものである。ところが、先代の新たにかけられた呪いのせいで、東城家の当主は突然死した。
犬猿の仲であった西城家との間には、もはや埋まらぬ溝が空いていると言っていい。
それだけではない、彗斗が険しい顔をするのはほかにも理由があった。西城の娘といえば、社交界で派手な遊びをしていると有名である。彗斗と合うわけがない。それが運命の伴侶だというのだ、笑う元気も失ってしまう。
「さあ、もう休んでくれ」
「失礼いたします」
冬彦の姿が見えなくなると、彗斗はもう一度大きなため息をついた。
「帝の命だ、どうにもならない。まさか、西城の娘が俺の番とはな……」
吐き出した息が夜の闇によける。洋灯の明りを消して、彗斗は浅い眠りについた。
珊瑚星を守る東城家の当主は齢24歳になったばかりである。先代の当主が病に倒れ、若くして当主の座に就いた男は、大陸から渡ってきた洋灯の明かりを頼りに親友でもある帝からの文に目を通していた。自身の伴侶となる女の名を見て大きなため息を吐く。
明りに照らされた端正な顔立ちがゆがむ。橙色の瞳に炎が揺れている。
「よりにもよって西城家の娘とはな」
深いため息には不快の色が見えた。どうやら西城家に対してただならぬ嫌悪感を抱いているようだ。
「だが、ほかならぬ帝の命ならば妻に迎えないわけにはいかない。番だというのだからな、冬彦」
「はい」
暗がりからひとりの男が姿を見せる。真新しい洋装を着こなしている。
「帝から向こうの家にも文が届いているころだろう。あまり間を置くと臆していると思われていはいけない。明日にでも西城家に使いを送ってくれ、娘を妻に迎えたいとな」
もう一度深いため息を吐く。
「心中お察しいたします、彗斗様」
「これも星の巡り、甘んじて受け入れよう。縁さえ結べば不仲でも結界に問題ないだろう」
「彗斗様……」
「妻には特別な屋敷を与え、極力顔を合わせないようにすればいい。おそらく輿入れの際に使用人たちも連れてくるだろうから、こちらから用意する必要はないだろう。おまえたちの負担にならないようにするよ。屋敷が出来るまでは離れに住まわせる」
「お気遣い感謝いたします。ですが、彗斗様」
「なんだい」
「ご自分のことも大事になさってください、有事の際は離縁もお考えください。西城家の娘となれば、何をするかわかりません」
「……そうだな、頭の隅に置いておくよ」
西城家と東城家は何代も前から折り合いが悪い。かつて、東城家の当主は西城家の呪術が原因で巨万の富と地位を失ったという。一度落ちぶれた東城家がここまで持ち直したのは、代々の当主のたゆまぬ努力によるものである。ところが、先代の新たにかけられた呪いのせいで、東城家の当主は突然死した。
犬猿の仲であった西城家との間には、もはや埋まらぬ溝が空いていると言っていい。
それだけではない、彗斗が険しい顔をするのはほかにも理由があった。西城の娘といえば、社交界で派手な遊びをしていると有名である。彗斗と合うわけがない。それが運命の伴侶だというのだ、笑う元気も失ってしまう。
「さあ、もう休んでくれ」
「失礼いたします」
冬彦の姿が見えなくなると、彗斗はもう一度大きなため息をついた。
「帝の命だ、どうにもならない。まさか、西城の娘が俺の番とはな……」
吐き出した息が夜の闇によける。洋灯の明りを消して、彗斗は浅い眠りについた。



